ダカールラリーの参戦権を得るため、モロッコラリーに参戦している藤原慎也のリアルタイム現地レポート。今回はいよいよ本格的な幕開けとなる、ステージ1の様子をお伝えする
経験を上回るオートバイのスキル
モロッコラリーステージ1は、ドラア川渓谷に位置する町ザゴラ周辺のループルートでアフリカらしい景観が魅力。それだけに乾いた土質、埃がライダーを襲う。洪水の影響でザゴラに到着するのが遅れたラリー参加者が多かったため、主催者はこれに配慮して短い距離のステージ2のルートをステージ1と入れ替えてさらに距離を短縮することを発表。180kmのスペシャルステージと、国際ラリーとしては若干短めの設定となった。
トライアル由来のキャリアを持つ藤原は、ダカールラリーに挑戦するために様々なロングディスタンスイベントで距離をこなしてきた。しかし、180kmとはいえ、これほどまでに長い距離のダートを速いペースで走るのは事実上初めてのことになる。
「スペシャルステージはかなり難しいものでした。さすが世界選手権だけありますね。180kmのステージ、どこをとっても先日走ったばかりの日高2デイズエンデューロより難しいなと思ったほどです。まずは、80kmくらい川底のガレを走らされました。しんどいというほどではないのですが、玉砂利が浮いたガレで転倒したらダメージが大きいじゃないですか。だいぶ神経を使いましたね。前走者の轍は残っていないので、ハイペースの中でナビゲーションするのも凄く難しいなと感じました。
川底のセクションからサバンナに出たところ、完全にピスト(編注:ルート、ラリー用語)を見失ってしまって見渡す限り何もないところに立たされるという経験もしました。あ、これがルートミスか……と思いましたよ。自分の位置がわからないっていう。途方に暮れかけたんですが、しばらくしてチームメイトが同じようにルートミスしてやってきて、協力し合いながらオンルートに戻れたんです。あとでわかったんですが、ルートがループしていたんですね。それに気づかずにミスしてしまったようです(編注:ルートはコマ図のみで記されるため、全体図はもちろんわからない)。ミスコースはあったものの、ウェイポイントは全部通過したのでペナルティはないはずですね。
そのあとは、20kmくらいのデューンに入りました。これがふかふかのデューンで初めて走る路面でした。砂丘の頂点を越えていくのがこんなにも難しいことだとは。先輩達に、デューンで飛んでしまうとその先に落ちて大変なことになるから気をつけるようにと言われてきているのですが、それでも最初の砂丘で飛んでしまった。向こう側があんなに落ちているものだとは思わなかったんです。バイクが向こう側で砂に刺さってポテごけするだけで済んだのですが、これは手強いなと感じた瞬間でした。砂丘の頂点を越えるには、まっすぐアプローチすると刺さってしまうのでダメで、斜めにキャンバーの状態で相当な速度で登っていく必要があるんです。その時点でまず難易度がすごく高い。ブレーキをかけるとリアが埋まってしまうし、速すぎると飛んでしまう。向こう側の下りもアクセルを開けると横を向いてしまうが、閉じると刺さってしまうんですね。こういう難しさの中でちんたら走ってたら一向に進まないんですよ。さらには、状況によってはワンミスで蟻地獄のような谷に飲み込まれてしまう。何人か飲み込まれている人を見ましたが、あの状況で一人でリカバリーできるとは到底思えません。こんなに難しいとはね……。
あと、デューン地帯はひたすら暑かったですね。神経を使うしリズムを崩したくないので片手を外して水を飲むことができませんでした。20kmにわたってずっと喉がからからなんですよ。暑さで体中の水分が抜けていくようでした」
この藤原のモロッコラリー挑戦には、ダカールラリープロジェクトをサポートするビバーク大阪の杉村晋吾氏が同時にフォロー役として参戦している。杉村はサハラ砂漠を走るアフリカエコラリーを完走するなど砂丘の経験値も高く、国内で言えばラリーの熟練者に入るのだが、主催者が手加減をしてステージの距離を削ったステージ1の砂丘でも相当に苦戦したようで、19:30時点でもまだ走行を続けていたことが世界選手権の難しさを物語っている。この猛者の揃うモロッコラリーで、藤原は現在総合60/134位・ラリー2クラスで46/111位。デビュー戦として、かなりよくできた滑り出しと言えるだろう。
「ウエストベルトを持ってきていないので、今日走ってるうちに胃が下がってしまいました。ウエストバッグはブラブラしてしまってストレスになるから投げ捨ててしまいましたよ。こういうところは、まだ経験不足ですね。胃が落ち着いてきたので、これからマッサージを受けて夕食をとるつもりです(現地19:30時点)。もちろんまだ身体は余裕です。明日のステージ2も楽しみですよ」とのこと。