前回、草レースの表彰台に乗って味をしめたジャンキー稲垣が向かったのは、WEXイースト開幕戦。フラットな路面ばかりのイージーなクロスカントリーと思いきや……激マディでした(泣)
MX14で爆裂ススム君を作る
実はYZ450FXには毎週のように乗っている。乗れば乗るほどわかってくるスルメのような素性の良さを味わっている。こんなとんでもない出力のエンジン、オフロードでどう扱えってんだよ、どうしようもないだろうよと思っていたんだけど、そういえばボクは本来直線番長であり、V8のアメ車が好きなのを思い出した。開ければドカーンと加速するヨンゴーの直線番長っぷりを味わってしまうと、YZ250FXに試しに乗り換えてみてもちょっと味気ないと思うようにすらなってきた。
そんな中、次なるターゲットに据えたのがWEXイーストの開幕戦、ウォームアップオフロードヴィレッジである。日本最大級のオフロードレースシリーズJNCCが主催する初中級者向けのクロスカントリーとあって、マウンテンコースだけでなくオフロードヴィレッジのようなモトクロスコースでもおこなわれるのが特徴だ。実は去年も出ていて、そのときは路面が凍っていたことで腰が引け、まったく走れなかった。暖冬の今年はきっとグリップのいい路面だから、ヨンゴーパワーを楽しむにはもってこいだと思ったのだった。
ところが、前週から天気予報は雪である。自他ともに認める晴れ男のボクが関われば、どんな天気予報も好転するだろうと心配すらしていなかったのだけれど、金曜になっても雪 or 雨の予報は変わること無く、降水確率も100%から動かない。それでもボクは根拠の無い自信に満ちあふれていたのだが、土曜の昼に雨がザーザー降っているのをみて、さすがに腹をくくることにした。雨の日のヨンゴーってどうなんだ、そもそもヨンゴーでマディを走った経験がないぞ。面倒だが、すり減ったタイヤをまずはマディ向けに履き替えよう。
YZ-F系のホイールは、昨年のYZ450Fフルモデルチェンジから仕様変更されていて、リアのアクスル径が違う。これまで27mmのナットで締め付けられていたところ、32mmのナットにサイズアップしていて、シャフトも少し太め。車体は細いが、こんなところでも剛性が上がっているのだと感心したりする。本当はYZ250FXに履かせてあるダンロップMX14(マディ用のパドル形状をした特殊なタイヤ)をホイールごと移植するつもりだったのだが、それを剥がして移植しなくてはいけないという最も面倒な作業になってしまった。ともかくリアタイヤは日本が誇るマディ用タイヤMX14である。あの、エルズベルグロデオで鈴木健二が履いた、魔法のタイヤである。強烈なパドル形状なのに、意外とハード路面でもグリップするところがミソだ。コーナリングはボクでもわかるくらいに、滑る。でも、何を履いてもボクはコーナリングが苦手なので関係ない。フロントタイヤもマディでは何を履いても同じだろ、と言い訳しながらそのままにしておいた。これでマディでも爆裂ススム君のできあがりである。
これでもかというほどに各部やタイヤにはシリコンスプレーを塗りたくって泥の付着対策をし、グリップには割り箸をワイヤリングで縛り付けた。バッチリである。ここまで自分を追い込めば、朝になってYZ250FXを持って行こうなんて逃げは打たないはずだ。
こんなに最悪なコンディションは無いよ
当日は、朝5時に起きたらやっぱり雨が降っていた。無慈悲にも、レースの始まる8時頃には雨量6mmとの予報だった。トランポに積んだヨンゴーを引っ張り出してYZ250FXに積み替えたくなる衝動を必死におさえながら会場についたら、雨はさらに強くなっていてどしゃぶりまではいかずともザーザー降りの勢い。応援してくれたらチョコレートを買ってあげよう、とたぶらかして連れてきた長男(小5)はダウンコートの中で凍えているし、妻と次男は「こんな中で走るの?」とあきれかえっている。実は長男には仕事用の90万円のカメラを持たせて撮影してもらおうと思っていたのだが(わりと頻繁にお願いしている)、雨の撮影なんて任せられるわけもないのでiPhoneを渡しておいた。
50分、90分、120分と3本のレースがWEXでは開催されていて、その各レースがA〜Dくらいの小刻みなレベルに分かれている。参戦したクラスは90分のC、つまり初心者クラスだ。去年参戦した時の記事を読み返してみたら、
「僕は元々エンデューロが大好きで、その好きが高じて身の程知らずにもJNCCの3時間COMP-GPに出たことがある。その後もたびたびJNCCに挑んでは、レース中にバイクから降りて地べたに座り込んでしまうほど撃沈している。だが、「好き」と「やれる」は違うということを人類はついに知ったのだ。今度こそゼッタイにそのようなレベル違いのレースに出ないよう、念には念を入れて90分の最もビギナー向けクラス「D」にエントリーした。「え? ちょっとまって。Dはないでしょ、おかしいでしょ!」とたくさんの知り合いに言われたけど、僕は自分のレベルの低さに対して容赦しないことに決めたのだ。ほんのちょっと「Dならさすがに表彰台乗れるかな?」とか思っていたのは秘密である。最近真面目にモトクロスに取り組んでいるし、今回のレースはモトクロスコースのオフロードヴィレッジだし、あまりにトップを独走しちゃうようだったら非難囂々かもしれないので後半ゆっくり走ろうとか思っていたのも、今となってはいい思い出です(死にたい)」
とか書いてある。なお死にたい想いはすっかり忘れていて、同じことを今年も考えていたのは、内緒にしておきたい。1年モトクロスヴィレッジに通い詰めたボクと、ヨンゴーをもってすれば表彰台も見えてくるかも(編注:心の声漏れてますよ)。
スタートに並ぶと、マーシャルに千葉県在住エンデューロの鉄人である田中さんの姿があったので「こんな雨でだいじょうぶなんすかねぇ?」と問うと「全面つるっつるだよ。氷より滑るよ、最高だよ楽しいよ」とおっしゃる。オーマイ。
例によってスタートの混乱に巻きこまれるのを避けたい持病があるので、最後尾からスタートするボク。草レースのヒーローズでスタートこそ大事だと学んだのを1週間で忘れている。ヨンゴーですごい迫力のある音がしているのは、このクラスではボクくらいしかいないのに、どんどんおいて行かれる謎の現象が起こる。フラットコーナーが連続する部分がやばいくらいに遅い。去年も思った。トラクションコントロールの設定はMAXにしてあるけど、それでも開けるのは怖い。だってヨンゴーなんだもん。スコットのゴーグルにはロールオフを装着してきたのだが、ものの5分で雨粒によって視界が悪くなる。だいたい1周につき2回、視界が20%くらいになるたびにロールオフをシャコシャコ巻く。転けることよりも何よりも、ロールオフが尽きることが怖かった(後半、やっぱりロールオフが尽きたので、ロールオフを手で引っ張り出してゴーグルレンズの上から取り除いた。だいぶマシになった)。
それでもヨンゴーは素晴らしかった
たぶん、最初の内はバイクを垂直状態から3度くらい寝かせられれば御の字だったのではないだろうか。とにかくどう走ったらいいかわからず、身体が動かない。あとでGARMINのロガーをみても、序盤は130くらいまでしか心拍数が上がらない(モトクロスの練習では180くらいまで上がる。身体を思い切り使えているのだ)。
ところが2周目くらいに間違ってアクセルを多めに開けてしまった時、いつも通りドンッとバイクがスピードに乗った。それまでよちよち走っていたのが、何事もなかったようにバイクが前進する。ややこしい轍がある場所ではてきめんにアクセルをガバッと開ける手法が効いた(轍が柔らかい部分に限る)。そうか、こうやって勢いに任せてややこしい部分を“キャンセル”すればいいんだ、とようやく気づく。思えば自分が履いているタイヤは、マディ専用のMX14だ。エンジンはヨンゴー。開ければ地面を蹴り出してすっ飛んでいく。タイヤが空転している感覚は微塵もない。それはマディでもまったく変わることがない! ヨンゴーはややこしい路面をなかったことにできて、ワープに近い。しかも開けると音に迫力があって、優越感に浸れる。すげぇ楽しい。
そこからは心拍数も150くらいをキープできて、少しタイムも上がってきた。轍でみんなが苦しんでいるところをパワーで押し切ることがこんなに楽しいとは! ずるいぞヨンゴー! レースが進むにつれて酷くなる轍につかまるライダーが増え、どんどんパスすることができたから、初心者クラスの90分Cならだいぶ前に出れたに違いないと感じた。モチベもあがる。重いクラッチで左手の握力は限界をとうに超えているし、身体もタレているけれど、それでもアクセルを少しだけ多めに開けられる。期待大である。あ、このレースでオレはもしや走れている部類に入るのでは? 開けられている人に見えているのでは? 今のオレの写真撮って〜むすこ〜!(撮ってない)
レースが終わると車に避難していた妻と息子達がおでんの卵をほおばりながら待っていた。我が社のトランポはエンジンをかけずとも暖房をかけられるハイドロニックヒーターが仕込まれたオグショー謹製のスペシャルNV350。冬、雨に打たれまくって泥だらけになっても、さっとリビングのような室内で暖まることができる。暖かい我が家と、自信をもって臨めたレース。最高である。きっと表彰台が待っているに違いない、と思いきやトップから2周差でレースの順位はスタートの最後尾(29番手スタートだったらしい)からほとんど変動無くまっっったく追い上げること無く26位でフィニッシュ。ふう……言葉にならないぜ。