2デイズのエンデューロでは、デイ1終了後にタイヤ交換をするのがベター。15分のワークタイム中に交換するならムースじゃないと難しい……のですが
タイヤ交換をする精神
オンタイムエンデューロの風物詩といえばトップライダーがDay1終了後のワークタイムにパドックでタイヤ交換する様子、とばかりに取材する側としてはタイヤ交換シーンはメディア上でも常に大きめに扱ってきた。1日300km以上も走るISDEではタイヤ交換をしないと次の日にタイムなど狙えないから、エンデューロではタイヤ交換をするのがむしろ当たり前とも言える。SUGO2デイズエンデューロがはじまった2002年当初、多くのライダーにタイヤ交換をすることの大切さ、ひいては競技に対して全力で取り組む姿勢を啓蒙するために、タイヤ交換でボーナスタイムが得られるルールが取り入れられた。次第にその競技に対する姿勢、精神がライダーに根付いたため、ボーナスタイムのルールは自然と撤廃。ライダー達は自ら進んでタイヤ交換をするようになった。
とはいうものの、僕ら万年ビギナーレベルの走り方ではタイヤもそんなに減らないし、そもそも走る距離もISDEほど長くない。15分のワークタイム中にタイヤ交換がおわらなければ、タイムオーバーした分がペナルティとして課されるリスクもある。だから、タイヤ交換はしないというライダーがアマチュアには多い。
しかし、僕は今回、あえてタイヤ交換をすることにした。エンデューロを心の底から楽しむには、タイヤ交換もしたほうがいいんじゃないかと思ったからだ。木古内STDEに参戦したとき、同じようにワークタイムがあってムースタイヤ交換の練習をして臨み、たしか10分くらいで交換できるようになっていたのだけれど、あれはもう20年も前のこと。
レースを終えたばかりでクタクタだった僕はなんとか自分を奮い立たせて、タイヤチェンジャーにリアホイールを乗せたのを覚えている。僕にとっては、タイムを詰めると言うより、かっこよく言うとエンデューロという場に身を置くということが大事だ。いや、もっと正直に言うとエンデューロやってる自分に酔いしれたい。コスプレ的にタイヤ交換をこなしたい。タイヤ交換こなした俺カッコイイだろって言いたい。(編集部の伊井くんはヒダカでたとき、タイヤ交換しなかったからな!)
その割にむちゃくちゃなムースの段取り
タイヤはIRCのGX20 140/80-18サイズをチョイスした。フロントにムースを仕込むと重さで軽快性を失うし、そもそもそこまで減らないから交換するつもりがないのでヘビーチューブ。リアは予定通りムースである。会社に寝かせておいたダンロップのムースで十分だろう、と高をくくっていたのだけど、なんとよく見たら120/80-19サイズ用だった。
ためしに120/80-19サイズをタイヤの中に仕込んでみると、140サイズの太いムースよりも若干入りやすい。これってもしかして痩せた0.6気圧相当くらいのムースとしてちょうどいいのでは? というむちゃくちゃな考えが頭をよぎりはじめる。120/80-19はそもそもモトクロスタイヤ用のムースで外径はほとんど変わらないから、なにげにシンデレラフィットしてしまったのだ。ところが、このムースを実際に交換してみようと試したところ、おおよそ30分をマーク(マークじゃねぇよ!)。
まず、リムに片側のビードをはめるところから、うまくいかない。油断するとムースがムリムリっとリムから飛び出てきて、それを足で押さえていると反対からまたムリムリっと出てくる。なんの修行なんだよこれ……。練習を重ねないと、本番でタイムオーバー必至である。
加えて本番前週、取材の合間を縫ってこの組み合わせでリムスリップしないか、よれ感が強くないかをテスト。マシンはお借りする日程の都合上、弊社のYZ125で代用した。IRCタイヤのアンバサダーである内嶋亮さんに聞くと「GX20は走り込んで熱が入るとだいぶ柔らかくなる」とのことなので、きっちり走り込む必要があった。折しもテストできる日は台風が過ぎ去った日で、ホームコースのモトクロスヴィレッジは半端じゃないマディで気分的にはだいぶしんどい。だが、タイヤに熱を入れやすく、さらにはタイヤに負荷がかかりやすいため、リムスリップのテストにはうってつけだった。やらねば。なんの因果で泥と戯れなければいけないのかわからないが、やるしかないのだ。ぐぬぬ。
とても上手なキッズの子達がガンガンにスピードの乗る轍を残してくれたおかげで、ただのマディよりもさらに走りづらくなった修羅のモトクロスヴィレッジを、ちゃんといつも通りにタイム計測しながら7ヒート。いつもより倍疲れるのに、いつもより倍遅い。なんの拷問かわからないが、ひどいマディのおかげでクラッチを焼き切るんじゃないかというほど、リアに急激な負担をかけまくることができた。フィーリングは悪くないどころか、めちゃくちゃに調子がいい。GX20がしっかりつぶれて、さらにしっかり固いブロックが路面を掻いてグリップしてくれる。ブロック高が13mmしかないFIMエンデューロタイヤとは思えないグリップ感のよさだった。しっかりつぶして乗ることが出来ればFIMエンデューロタイヤは、裏切らないのだ。いい。これはいいぞ!
バイクから降りて、走行前にタイヤとリムに付けておいたポスカの印を見てみると、ほんのわずかにリムスリップの痕跡が見られた。だいたい5mm程度だろうか。たまたまモトクロスヴィレッジに立ち寄っていたエンデューロライダーの本間さんに見せても「いいじゃん、このくらいのリムスリップなら問題ないよ! 潰れ方もいいよ!」と言うので一安心。大成功のタイヤテストである。
ムース交換の練習をする
20年前、木古内STDEに参戦する時、日本国内のムースタイヤの情報はほとんど皆無だった。そもそもムース用のビードブレーカーつきタイヤチェンジャーがほとんど無くて、エンデューロ界隈の掲示板かなにかで岩手のCRRC北上というチームがチェンジャーを制作していることを知り、問い合わせたところご協賛いただいたのだ。今はそのチェンジャーは、ダートスポーツ誌の編集長宮崎さんに貸したままになっている。ムース用レバーを手に入れるのも一苦労だった。ISDEに行ったら、メッツラーのチェンジャーとレバーを買って帰るというのが、エンデューロフリークのセオリーだったくらいだ。
いまや、チェンジャーもレバーも選べるくらい日本で販売されている。僕が今回選んだのは、UNITのチェンジャーとレバーのセット。それと日本薬局方でワセリン500gを買った。ワセリンはムースグリスの代用になる(これが平成のエンデューロだっ!)。ムースタイヤの交換方法は、2012年くらいにラバコンダというブランドが革命的なチェンジャーを発明して、大きく変わった。古いタイヤを、ビードブレーカーを使って下に落とせるという機能である。さらには、ビードストッパー部分の入れ方などが20年前とは比べものにならないくらい便利な器具によって進化している。余談だが、先日マレーシアのラリーに取材に行った時、59歳になるエンデューロのスーパーレジェンド、ジョバンニ・サラが「ビードストッパーは先にいれないとダメだ!」と怒り狂っていたが、じつは今の主流は後入れ方式だ。おそろしいことである。僕も、後入れ方式をやったことがない。おそろしいことである×2。
だいたいモトクロスからエンデューロにやってきたライダーたちが面食らうのも、このムースタイヤ交換だ。まだエンデューロにやってきたばかりの頃の鈴木健二さんも、「このタイヤが固すぎるせいだ!」とキレていたのをよく覚えているが、今ではそんなことを言うわけもなくスルスルと交換する。馬場大貴もISDEに参戦する時に練習し、本番ではスルスル交換している。さて、僕はスルスル交換できるだろうか。とりあえずDBちゃんねるを見て、UNITタイヤチェンジャーの使い方と、ハカスタイルを学ぼう。
実際にやってみるとモトクロスヴィレッジで慣らしを済ませたGX20と19インチのムースの組み合わせで正直めちゃくちゃに緩くなっていてこれで練習になってんのかいな? というくらいに楽々。UNITのチェンジャー&レバーもマジでやりやすい。木古内STDEに出た20年前とはまったく違っていて、いかにこの20年でムースタイヤの交換方法が、ライダーたちのアイデアによって進化してきたかがわかる。あんなに何度もレバーを持ち替えていたはずだったのに、もはやレバーを操作している手数がほとんどない。1回目はゆっくりやって13分、コツを掴んだ2回目はさくっと5分で交換できてしまったほどだった。なんせUNITのレバー2本でぐいぐいビードをめくっていけるし、ビードブレーカーでどんどんタイヤを捌いていける。
ただ、こんだけ緩くなってるってことはやっぱこの細いムース失敗なんじゃない? とも思い始めていたりする……。もうテストしてる暇ないから、あとは現地で考えよう。