自信のほどがうかがえる、4スト250ccユニット
モトクロッサーの開発は、近年では通常4スト450ccから取りかかるのが普通だ。まず、250/450で大部分を共用するシャシーを作り込み決定する。オフロードでは足回りが非常に重要であること、そして450はパワーがある分、250ほどシビアではないぶんシャシーに開発リソースを集中できるから、まずは450から着手するのだと某メーカー開発部から説明を受けたことがあるのだが、あえて250から手を付けるところにトライアンフの自信がうかがえる。
トライアンフの場合、すでにエンデューロマシンの同時開発も示唆されているため、このモトクロッサーをベースとしてエンデューロマシンが開発されることは想像に難くない。
すなわち、このトライアンフが公開した4スト250ccユニットに課せられるべき性能は、①各社がしのぎを削る最大出力の追求、②エンデューロマシンに応用できる懐の広さと耐久性といったところ。これまで小排気量のレーサーを作ってこなかった同メーカーとしては、とても難しい課題だと思われる。
映像の中でリッキー・カーマイケルら要人は「トップエンドとローエンドのパワーは両立しがたいものだが、このエンジンではそれをなしえている」と強調し「スーパークロスでベテランが乗っても、アウトドアでビギナーが乗ってもいい。そんな仕上がりだ」と言う。ざっくり言えば、トップエンドつまり高回転域のパワーで①を充実し、ローエンドつまり低速域のレスポンスやトルク特性が②を満足させる。まだ先の話にはなるだろうがエンデューロマシンの素性もとてもよさそうだ。
オーソドックスなDOHC、KTMやホンダと同様の右側カムチェーン
さて、それでは公開されたエンジンを見てみよう。ざっくり概観するに、ヤマハの後方排気や90度曲がったフサベル、2気筒のアプリリアのような特殊な構成はしておらず、とてもオーソドックスなDOHCユニットだと推察される。カムチェーンはKTMやホンダと同様の右側で、重量のあるセルスターターをなるべく重心の中央にもってくるための設計だろうか。
軸配置はコンパクトにまとめられており、エンジンの前後長はコンパクトに抑えられているようだ。吸気の角度はダウンドラフト化が進んでおり、超ショートストロークなボア×ストローク設計がうかがえる薄いシリンダー、フィンガーフォロワーが内蔵できるしっかりボリュームのあるヘッドなど、現代モトクロッサーエンジンの作法を守ったベーシックなエンジンなのだろう。
1:35秒付近台上のテストをおこなっている映像のエンジン音の高さから察するに、レブリミットは14,000回転付近と推察する。スムーズに吹け上がり、素直な音質に聞こえる。乗っていて不快に感じるような素性は一切感じ取れない。奇をてらうようなことなく、実直にモトクロッサーのエンジンを開発してきた姿勢はとても好感が持てる。
映像は9月5日にリッキー・カーマイケルのライディングを公開する予告で〆。いよいよ車体がお目見えするはずだ。