全日本クロスカントリー選手権JNCC2023第4戦が長野県のスキー場、X-JAM高井富士で開催された。第3戦の芸北国際に引き続きゲレンデシリーズとなる今大会は、コース保護の観点からCOMP-GP全クラスとFUN-GP上位クラスにFIMタイヤ規制が敷かれている。しかしそんな事情などお構いなしに、天候は雨。レースは完全なマディコンディションとなった。
FUN-GPが行われた午前中は弱い雨。表彰式の最中、つまりCOMP-GPの準備中に土砂降りに変わり、コースコンディションは急激に悪化していった。
波乱のマディコンディション
渡辺が巧みにレースコントロール
芸北でも雨の影響でコースカットとレース時間の短縮が実施されたが、ここ高井富士でもCOMP-GPでは同様の処置がとられた。今大会の目玉とされていた下りの難所「BBころがし」がカット。そしてそこに至るためのウッズの登りもカットされ、ショートコースになった。さらにレース時間は120分でL1(レース時間終了後の最後1周)なしとアナウンス。実質20〜30分ほどレース時間が短縮されたことになる。
今年6回目のチャンピオン獲得を目指してフル参戦を表明、ここまで3戦全勝の渡辺学は1コーナーに対して大外のグリッドを選択。ライバルである成田亮、小林雅裕もすぐ近くに陣取った。
今大会は全日本モトクロス選手権と日程が被っていないため、熱田孝高も参戦。豪華な顔ぶれのレースとなった。
第3戦芸北国際に続き、矢野和都もスポット参戦。マシンはKX250Xを持ち込んだ。
注目のCOMP-AAクラススタート! スリッパリーな路面に2コーナーで転倒者が続出。アウト側では中島敬則が餌食になり、さらにホールショットを奪った山口孝司も立ち上がりでスリップダウン。
午前中に行われたFUNクラスのレースによって耕されたゲレンデは、昼休みに大量に降った雨の影響でさらにコンディションが悪化。下位クラスとはいえ百戦錬磨のCOMPクラスのライダーたちが、スタートして1分で大勢スタックする事態に。
ドライならなんでもないただのゲレンデが登れず、COMP-B/COMP-Rクラスが大渋滞。ここは2周目からコーステープを貼り直し、ロックセクション「BBロック」に誘導する予定だったのだが、多くのライダーが通過できないままトップの2周目が戻ってきてしまった。
先頭は熱田。続いて、渡辺、成田、中島。先頭集団を「BBロック」に入れるため、コーステープは予定通りに変更され、取り残されていた1周目のライダーたちは1周目から「BBロック」を走ることになった。
2周目、成田が熱田を抜いてトップを奪い、成田、熱田、渡辺の順。ところが4周目のウッズ「BBクリーク」で成田が周回遅れの後ろについてしまった隙に渡辺が別ラインからパッシング、トップに躍り出た。渡辺に言わせると「ゲレンデでは大して差はつきません。ウッズのライン取りが重要なレースでした」とのこと。
熱田は3周目まで3番手でトップ集団に食らいついていたものの、次第に順位を落としてしまう。
レースも中盤に突入した6周目、ラジエタースリーブに泥が詰まり、エンジンの冷却にトラブルを抱えてピットインするマシンが出始めた。渡辺もラジエターキャップを開け、水量を確認しながらレースを続行した。ここでトップを奪ったのは小林! 2014年、極悪コンディションの阿蘇で初優勝を果たした記憶が蘇ってくる。小林が渡辺を1分30秒ほど引き離したまま、レースは終盤に突入。レース時間が短縮されていることもあり、このまま小林が優勝するかに思われた。
しかしレース時間残り10分足らずという9周目、小林が「BBロック」でスタック! 対して渡辺は悪化したコンディションの中、必死の追走。レース中に探っていたウッズ内のベストラインを繋ぎ合わせ、前半と変わらぬ12分台という驚異的なラップタイムを叩き出し、トップを奪取した。
ラスト1周もトップを守り切り、渡辺が優勝。これで今年は4連勝。怪我で欠場中の馬場大貴をはじめ、小林、成田、熱田ら、超強力なライバルたちを寄せ付けない強さを、改めて示してみせた。準優勝(AA2優勝)は小林。
渡辺学 (bLU cRU TwisterRacing)/COMP-AA1クラス優勝・総合優勝
「最初は熱田選手と成田選手がすごく速かったのですが、レースが進むにつれてコンディションが悪化してくるのはわかっていたので、最初の1時間くらいはウッズの中で色々なラインを試しながらペースをコントロールして、2人を逃がさないように走っていました。正直、同じ排気量のマシンだったらゲレンデでは大して差がつかないんです。とにかくウッズですね。
後半は小林選手がトップで、1分30秒くらい離されていましたが、その差を少しずつ縮めながら追い上げていきました。ところが沢の中で前のライダーが転んでしまい、どうにも避けられなくて30秒ほど停滞してしまって、正直“今日は無理かもな……”と思いましたが、最後まで諦めないで攻め続けたらトップに立つことができました。もう少し早く良いラインを見つけることができれば、余裕が持てたかも知れませんが、毎周のようにコースの荒れ方が変わるので難しかったです。今日はたまたまラインがうまくハマったので勝つことができたと思っています。
小林選手はAA2クラスで僕はAA1クラスなのですが、そこは去年まで同様、同じクラスで争っているつもりで、総合で勝つことしか考えていません。もちろん全部優勝できれば最高なんですけど、年間チャンピオンを獲るためにはバイクを壊してリタイヤ、ノーポイントというのが最悪なので、一回ピットに入ってラジエターの水の残量を確認してもらったり、各部をチェックしながらリタイヤしないように走っていました。それもこれも給油の手伝いやラップタイム、他の選手との差などを教えてくれたチーム員のサポートのおかげです」
小林雅裕(THS Racing with ホンダドリーム神戸三田)/COMP-AA2クラス優勝・総合2位
「僕は特に作戦を立てず楽しく走ろうと思って、前半から最後の2周までラインを決めず、見えたラインを走っていたのですが、最後にBBロックでスタックして抜かれてしまいました。そこで6番手くらいまで落ちちゃったのですが、最後はなんとか2位まで復帰できたので良かったです。また優勝目指して頑張ります」
コースが荒れてきた後半でも大きくラップタイムを落とさなかった鈴木健二が、最終周に小林をパスしてAA2クラス1番手に浮上! 結果はAA2クラス2位、総合3位。なお、鈴木は2011〜2013年のV3チャンピオンだ。
鈴木健二(bLU cRU Blue Riders with YAMALUBE)/COMP-AA2クラス2位・総合3位
「今回は転ばずに走れたので良かったです。淡々と走っていたらこの順位に来られました。僕がこんな順位にいたらダメだと思うので、みなさん頑張ってください」
総合4位(AA2クラス3位)に入ったのは矢野。第3戦芸北国際の総合12位からジャンプアップ。5月には全日本ハードエンデューロ選手権G-NETで初優勝を勝ち取っている。
矢野和都(RG3 Racing)/COMP-AA2クラス3位・総合4位
「こういう雨のレースは特にメカニックやサポートの方のおかげで快適にレースができます。本当に感謝しています。今回はKX250Xで走ったのですが、めちゃくちゃ良かったです」
今年2月にGNCC派遣に参加した鈴木涼太が総合5位(AA1クラス2位)。最終周で矢野にパスされるまでは4番手を走っており、GNCCでしっかり経験値を上げてきたのが結果に現れた形だ。
鈴木涼太(YSP浜北大橋racing)/COMP-AA1クラス2位・総合5位
「土曜日にヤマハさんのYPJという電動自転車でコースを下見することができたので、いつもよりも疲労がなくて、マッサージたかしまさんで身体を整えてもらって最高のコンディションでレースに挑むことができました。タイヤはIRCさんのGX20の140サイズがすごく良かったです」
ハスクバーナの試乗会のためノルウェーから帰国して間もない内嶋亮が3周目に4番手まで順位を上げたが、ラジエターの泥詰まりでエンジンの冷却に支障をきたしピットイン。大きく順位を落としてしまった。
LGDクラスはMOTOCOWBELLのジョニー佐藤こと佐藤正和が優勝。
佐藤正和(MOTOCOWBELL RT)/LGDクラス優勝
「昨日会場に来る途中にトランポのタイヤがバーストしてしまい、悪い感じがしていたのですが、なんとか完走できて良かったです。地獄でしたね。ただ耐えるレースでした。また晴れてる日に走りたいです」
COMP-Aクラスの小菅浩司は上位クラスを食う走りで着々と順位を上げ、クラスで唯一9周を周回。クラス優勝はもちろん、総合で8位に入る力走を見せた。
小菅浩司 (Motok_5D with iRCTIRE) /COMP-Aクラス優勝・総合8位
「クラス順位はあまり意識していないのですが、ずっと総合トップ10を目指してやってきて、まさか総合8位に入れるなんて。出来過ぎですよね。マシンをチェンジしたのも良かったですが、IRCさんに本当に献身的にサポートしていただいて、タイヤもバッチリでした。みなさん、GX20です。いいですか、GX20ですよ!」
COMP-AAのトップグループに混ざって総合12番手で2周目に突入したのはCOMP-Aクラスの規格外中学生、渡辺敬太。残念ながら渡辺は5周目まで12番手をキープしたものの、エンジンのオーバーヒートでレースを離脱。
COMP-Bクラスは佐藤と同じタイヤがバーストしたトランポに同乗していたという遠藤智基が初優勝。
遠藤智基(MOTOCOWBELL RT)/COMP-Bクラス優勝
「今回のレースは初めてのコースなので勝手がわからなくて、とても過酷でした。頑張って走ったのですが、途中でチェンジペダルをロストしてしまいました。チームの師匠のジョニーと一緒に表彰台に上がることができて嬉しいです」
COMP-Rクラス優勝の島田優がなんと総合20位にランクイン。午前中にはFUN-Cクラスに参戦してクラス優勝(総合8位)を獲得しており、タフネスも持ち合わせている。
島田優 (PITシマユウ)/COMP-Rクラス優勝
「昨年この高井富士を走ったライダーに話を聞いたらすごく爽やかで良いコースだと言われていたのですが、まさかこんなことになるとは思っていませんでした。ウッズでもBBロックでも毎周誰かライダーが倒れていて大変なコンディションでした。そんな中淡々と走り続けることができたのが、結果に繋がったと思います」
鈴木心、FUN-GP総合優勝!
FUN-GPが開催された午前中は雨もそこまで強くなく、一時は晴れ間も見えていた。コースコンディションもマディ気味ではあるものの、COMP-GPほどではなかった。
FUN-Aクラスでホールショットを奪ったのは岩井良宏。
前半は村木幸春がトップを走っていたが、4周目に竹崎暢臣が2番手に浮上。6周目には村木が竹崎のプレッシャーに負けてウッズの入り口で転倒。その後、FUN-Bクラスの鈴木心がペースアップし、総合トップに。
ここ半年で着々と実力を磨き、安定して上位に入るようになってきていた鈴木が、そのまま初の総合優勝を獲得。
総合2位にはFUN-Aクラス優勝の竹崎暢臣が入った。
シニアクラスのFUN-SAでは神馬健が優勝。なんと総合でも4位に入り、トップとの差はわずか30秒。コンディションが悪化したレースこそ、ベテランの底力が見える。
FUN-WAAクラスの不在が続いている今シーズン、FUN-WAクラスでは近藤香織と菅原穂乃花の接戦が展開されている。
第2戦、第3戦と連勝中の近藤は1周目、総合23位で周回し、菅原を引き離したが2周目で大クラッシュ。軽い脳震盪を起こし休憩を余儀なくされた。幸い大きな怪我はなくレースには復帰できたものの、今大会では菅原とのバトルはお預け。
対して菅原はコンスタントにラップを重ね、開幕戦ぶりのFUN-WA優勝。総合36位に入った。近藤に憧れYZ125Xを駆る高校生ライダーが、今年は近藤と対等にチャンピオンを争っている。
FUN-Aクラス優勝、竹崎暢臣。FUN-SAクラス優勝、神馬健。FUN-Bクラス優勝、鈴木心。FUN-Cクラス優勝、島田優。FUN-Dクラス優勝、瀧村然自。FUN-WAクラス優勝、菅原穂乃花。FUN-WBクラス優勝、小川澄佳。FUN-WDクラス優勝、岩井典子。
竹崎暢臣(ケモ山ウズ男)/FUN-Aクラス優勝・総合2位
「トップを走る村木さんが見えていたので、後ろからプレッシャーをかけていたら、ウッズの入口でやらかしてくれたので、なんとか優勝できました」
神馬健 (THS Racing OLD-KIDS 平野商会)/FUN-SAクラス優勝・総合4位
「疲れました。ずっと2番手だったのですが、最後の周で1位になることができました」
鈴木心(THS Racing)/FUN-Bクラス優勝・総合優勝
「いつも応援サポートしてくださるチーム員の皆さんのおかげで総合優勝することができました。やっと獲れたのですごく嬉しいです。今日はお世話になってるチームの社長の小倉さんが来られていないのですが、良い報告ができると思います」
島田優 (PITシマユウ)/FUN-Cクラス優勝・総合8位
「昨日下見ができなかったのですが、コースに着いたら下見をした人たちから危ないところを教えてもらうことができ、そのおかげで安定して走ることができたのが結果に繋がったと思います。また午後もCOMP-GPを走るので、そっちも頑張ります」
瀧村然自(SCF&バイクボンバー&KRC&SHINKO)/FUN-Dクラス優勝
「今日初めて兄のバイクを借りてレースに出たのですが、そのおかげで勝つことができました」
名前を見てピンとくる人も多いだろう。FUN-Aクラスで活躍した瀧村剛の息子であり、現在FUN-Bクラスに出場している瀧村泰自の弟が、ついにFUN-Dクラス優勝。
菅原穂乃花(バイカーズ ベア with SHINKO)/FUN-WAクラス優勝
「開幕戦の後、地元の広島で2連続で負けてしまっていて、今日も雨で不安だったのですが、1周目に転んでしまったあとは自分の走りをすることができ、良かったです」
小川澄佳(ガレージ・ハイブリットすぅ)/FUN-WBクラス優勝
「今回は同級生のお友達が初めてJNCCに参加して完走してくれて、たくさんの友達が応援してくれたので、優勝することができて良かったです」
岩井典子 (331 Racing Team)/FUN-WDクラス優勝
「チームのみなさん、スポンサーのみなさん、旦那さん、友人……。去年7年ぶりにレースに戻ってきて、1位が獲れるとは思ってなかったので、すごく嬉しいです」
レースクイーンは昨年のJNCC八犬伝で土曜日のエキシビジョン「剣士のヒルクライム」に花を添えたきりるさんが務めた。
今大会から渡辺学はツイスターレーシングのパドックにガチャガチャを設置。1回500円でチャレンジでき、渡辺のモトクロスウェアやベスラのブレーキパッド、渡辺が自ら握る冷凍マナブ餃子の引換券などが当たる。次戦以降も設置予定とのこと。
FUN-GPのレース中、全力の応援を続けたお二人。彼らの熱い声援に、折れそうな心を奮い立たせたライダーも多かったのではないだろうか。
JNCC第5戦として開催が予告された山形県栗子国際スキー場は開催中止が発表されており、次戦は7月30日の第6戦、ワイルドボア鈴蘭(岐阜県・鈴蘭高原スキー場)となる。