全日本クロスカントリー選手権JNCCの第3戦、GHK芸北国際が2023年5月14日に開催された。JNCCとしては初開催の会場であり、FUNクラスへのFIM指定ルール導入など、話題の多い大会となった

チャンピオン馬場大貴が不在のCOMP-GP
刻一刻と変わるコンディションに対応力が求められた

広島県西部に位置する芸北国際スキー場は2019-2020年シーズンをもってスキー場としての営業を休止し、2022年9月にWEX-WESTが初開催。今回初めてJNCCとして全国規模のレースに使われることになり、「のぼりゃんせ」「カカト落とし」「バンブーリーフ」という3つの新セクションを始めとした難コースが用意された。

画像1: チャンピオン馬場大貴が不在のCOMP-GP 刻一刻と変わるコンディションに対応力が求められた

土曜日に降り続いた雨が路面コンディションを悪化させ、午前中に開催されたFUN-GPでは頂上付近で渋滞が発生。1周もできないライダーが続出するほど難易度が上がった。ところがJNCC運営がCOMP-GPのコースカットを検討していると、雨が上がり太陽が顔を出した。

画像2: チャンピオン馬場大貴が不在のCOMP-GP 刻一刻と変わるコンディションに対応力が求められた

気温も急上昇し、マーシャルからは路面コンディションが急速に回復しているという無線が飛び込む。しかし、レース開始後1時間ほどから再び降雨の予報が出ており、JNCCは断腸の思いで「のぼりゃんせ」「カカト落とし」を含む一部セクションのカットとレース時間の短縮(120分L1なし)を決定。上記2セクションのお披露目は来年までお預けとなった。

画像: 渡辺学にスキなし、天候への対応力が問われた初開催のJNCC Rd.3 芸北国際

JNCC R3 GHK芸北国際のコースマップ。左側の赤く塗りつぶした部分が今回コースカットとなったエリア。

画像3: チャンピオン馬場大貴が不在のCOMP-GP 刻一刻と変わるコンディションに対応力が求められた

第2戦広島で負った指の怪我の影響でチャンピオン馬場大貴が欠場となった今大会。ホールショットを奪ったのは齋藤祐太朗。それに中島敬則、渡辺裕之が続いた。

画像: 渡辺学

渡辺学

1周目すぐにトップに躍り出たのは渡辺学。過去に5度の年間チャンピオンを獲得している渡辺は今年フル参戦復帰を宣言し、開幕戦、第2戦と総合優勝。依然衰えないスピードと安定感の高さを見せ、6回目のチャンピオン獲得を狙っている。今年はマシンにハイパワーのYZ250Xをチョイスし、まさに鬼に金棒といった様相だ。

マディコンディションだった路面が急激に回復しつつある中、レース中盤には天気予報通りに雨が降り出したが、長くは続かず、終盤にはまた太陽が顔を出した。天候に振り回され刻一刻と変わっていくコースコンディションに対応する走りが求められた。

渡辺はリアタイヤにブリヂストンのE50をチョイスしているが、パドックに全く同じ新品タイヤを履いたホイールを用意しており、レース中にタイヤの消耗とコンディションの悪化により、ヒルクライムが登れなくなってきた時には交換する作戦を用意していた。しかし幸いにもサブホイールの出番はなかった。

渡辺は周回ごとにチームから後続とのタイム差を教えてもらい、常に1分以上のリードをキープしながら余裕を残しつつ危なげなく周回。最終的には総合2番手に約2分30秒の差をつけて優勝。開幕3連勝を達成した。

画像: 小林雅裕

小林雅裕

画像: 田中教世

田中教世

渡辺を追いかけたのはAA2クラスで2連勝中の小林雅裕と、スポット参戦でやはりAA2の田中教世。順位を何度か入れ替えながら白熱の2位争いを展開し、最終的には田中が約1秒差でチェッカーを受けた。

画像: 崎原太樹

崎原太樹

COMP-Aクラスは崎原太樹がラストラップまでにじわじわと追い上げてきたベテラン小菅浩司を抑え、17秒差で優勝。2st125ccでCOMP-Aクラスを開幕から2連勝していた中学生、渡辺敬太は6位。

画像: 総合優勝/COMP-AA1優勝、渡辺学。総合準優勝/COMP-AA2優勝、田中教世。総合3位/COMP-AA2準優勝、小林雅裕。総合4位/COMP-AA1準優勝、成田亮。COMP-A優勝、崎原太樹。COMP-B優勝、富田祟仁。COMP-R優勝、金子太。

総合優勝/COMP-AA1優勝、渡辺学。総合準優勝/COMP-AA2優勝、田中教世。総合3位/COMP-AA2準優勝、小林雅裕。総合4位/COMP-AA1準優勝、成田亮。COMP-A優勝、崎原太樹。COMP-B優勝、富田祟仁。COMP-R優勝、金子太。

画像4: チャンピオン馬場大貴が不在のCOMP-GP 刻一刻と変わるコンディションに対応力が求められた

渡辺学
「芸北国際スキー場は初めて走ったのですが、すごくテクニカルで難しいコースだと思いました。かなりハイスピードな設定で、これで晴れたらとんでもない速度になっちゃうので、マディで良かったなと思います。勝負どころは登りですね。難しくて登れないようなところはありませんでしたが、他のライダーを避けながらも安全に登れるように、レース中も色んなラインを試して、選択肢を増やしていきました。

今日のレースはスタートして30分くらいしたら雨が降る予報だったので、最初にリードしておいた方が楽かな、と1周目からトップに立ちました。どこでどうコンディションが変わるかわからなかったので、後ろのライダーとのタイム差を測ってもらいながらペースをコントロールして走ってました。1分差くらいをキープして無理せず優勝を狙いました。

今大会からゲレンデコースになるためFIMタイヤ規制が入るのですが、今年はマシンを2st250ccのYZ250Xにチェンジしていて、まだFIMタイヤでのレース経験がなかったんです。なので4月にJECのSUGO大会に出場してYZ250XにE50を履かせた時にどういう動きをするのか、実戦の中で経験してきました。その結果グリップも良いですし耐久性も高かったので良いイメージで今大会に挑むことができました。車体が軽いのでFIMタイヤは2stの方が走りやすいですね。あと去年(YZ250FXの時)は幅120mmのタイヤを使っていましたが、今年(YZ250X)はパワーがあるので140mmにしていたりします」

画像5: チャンピオン馬場大貴が不在のCOMP-GP 刻一刻と変わるコンディションに対応力が求められた

田中教世
「JNCCに出場するのは去年の八犬伝以来ですかね。スポット参戦なのですが、こうして2位に入ることができて嬉しく思っています。午前中、同じTHSレーシングの吉崎さんと鈴木くんがクラス優勝したので、僕も頑張らないといけないな、と思って走りました。優勝はできませんでしたが、同じチームのまちゃ(小林雅裕)と2位、3位に入れたのですごく良かったと思います。次の参戦予定はちょっとまだ未定なのですが、また出た時はよろしくお願いします」

画像6: チャンピオン馬場大貴が不在のCOMP-GP 刻一刻と変わるコンディションに対応力が求められた

小林雅裕
「チームメイトのタカセさん(田中教世)とクラス1位2位になれたのですが、できたら僕が1位になりたかったです。なのでタカセさんには次も出てもらって、その時は僕が1位になりたいと思います」

FIMタイヤ初導入!
濃霧との戦いだったFUN-GP

画像1: 吉崎一弘

吉崎一弘

今年はスキー場ラウンドのFIMタイヤ規制がFUN-A、FUN-Bクラスにも適用され、この芸北国際がFUNクラスのFIMタイヤ初陣の舞台となった。そんな事情を嘲笑うかのようにレース前日の土曜日は一日雨が降り続き路面コンディションを悪化させた。明けて日曜日も朝から小雨が降り、濃い霧が立ち込めていた。

画像1: FIMタイヤ初導入! 濃霧との戦いだったFUN-GP

芸北国際のゲレンデは上に行くほど斜面が急になっていく。雨で路面コンディションが悪いため、時間が経てば経つほど助走区間が荒れてスピードを乗せるのが難しくなる上に、前方が霧で見えにくく、アクセルを開けるのが躊躇われる。もしうまく加速できたとしても霧の中から急に現れる段差や石などにうまく対応できず、勢いが殺されて止まってしまうライダーも……。

画像2: 吉崎一弘

吉崎一弘

画像: 鈴木心

鈴木心

ホールショットからレースをリードしたのは昨年のFUN-Aクラスチャンピオン吉崎一弘。時間差でスタートしたチームメイトでもあるFUN-Bクラスの鈴木心にリードされるも、鈴木は7周目に頂上付近のヒルクライムで失敗。その隙に吉崎が先行して逆転する展開。

今年はFUN-WAクラスでも熱いバトルが展開されている。近藤香織と菅原穂乃花だ。菅原は近藤に憧れて急成長中の高校生ライダーで、今年からWAクラスに昇格したばかり。開幕戦の阪下でいきなり優勝するも、第2戦の地元広島では近藤に遅れを取っていた。ここ芸北ではスタートから先行した菅原を近藤が追いかける展開だったが5周目に渋滞したヒルクライムで菅原が苦戦している中、近藤は躊躇わずに登頂。菅原は残り2周でその差を埋めることができず、近藤に軍配が上がった。なんと総合順位でも近藤は7位、菅原は8位という成績を収めている。

画像: 近藤香織

近藤香織

画像: 菅原穂乃花

菅原穂乃花

結果FUN-GPでは32名のライダーが周回できずにレースを終えた。確かにコンディションが悪く、マシンパワーは重要だったが、ただマシンパワーがあれば完走できたかというと、そうではなかった。いかにスタンディングを維持したまま止まらず登り続けられるか、が完走を分けたカギと言えただろう。また、FUN-A、FUN-Bクラスのライダーにとっては、慣れないFIMタイヤのデビュー戦がマディコンディションだったことも災いした。ブロック高のある非FIMのオフロードタイヤとはうまくグリップさせるための走り方が違うため、ヒルクライムの途中でリアタイヤが滑ってしまい登れないライダーも多く見られた。今後のゲレンデステージで上位に入るためにはFIMタイヤの研究も重要な要素になってくるのだろう。

画像: 総合優勝/FUN-A優勝、吉崎一弘。FUN-SA優勝、小林基訓。FUN-B優勝、鈴木心。FUN-C優勝、河原廉弥。FUN-D優勝、山本健太。FUN-WA優勝、近藤香織。FUN-WB優勝、小川澄佳。

総合優勝/FUN-A優勝、吉崎一弘。FUN-SA優勝、小林基訓。FUN-B優勝、鈴木心。FUN-C優勝、河原廉弥。FUN-D優勝、山本健太。FUN-WA優勝、近藤香織。FUN-WB優勝、小川澄佳。

画像2: FIMタイヤ初導入! 濃霧との戦いだったFUN-GP

吉崎一弘
「今回は初めてのFUN-GP初のFIMタイヤ規制ということで、僕はSHINKOタイヤを使わせてもらったのですが、前日から担当の木村さんにとても親身にアドバイスをいただきました。最初はやっぱりタイヤのクセがわからなくて難しかったのですが、一回転んでからだいぶ走り方を修正することができ、リラックスして走れました。渋滞ポイントの登りは霧が深くてラインが見えなくて、だいぶ運もあったと思います。去年、馬場大貴選手が使っていたSAKURAマフラーを使ったことでだいぶトルクが出て走りやすくなったと思います。ほんとうに過酷なレースでした」

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