チューンされたサスが付いたバイクに乗ったとき、よく分からずにとりあえず「いいねぇ!」って言っちゃってません? サスペンションの良し悪しってどういうことなんだろう、編集部と一緒に考えてみましょ〜!
事の発端は、自分の無知から始まった
業界に入った頃から僕ジャンキー稲垣はメカニカル担当で、自分自身興味があったこともあってそれなりにいろんな勉強をしてきたつもりだった。ライダーとしては永遠のビギナーだけど、記事などでメカの説明をするのはわりと得意な方だったのだ(が、いかんせん文系出身なんで大事な基礎はすっぽり抜け落ちてる)。
サスペンションの構造についてもオフロードバイクのサスであれば、一通り説明することは出来るし、理解しているつもりだ。だけど乗ってみてどうかというと、実はまったくわかっていなかったことがわかった。無知の知である。
事の発端は昨年YZ125の新型を買ったことに始まる。サスなんてついてりゃいいんだよくらいに思っていた僕は、新型のYZに乗るたびに最高でなにもいじりたくないと思っていた。そのまんまでいいのだ、とサスに不満を感じたことがなかったため、乗る前にサグすら出していなかった。ところが自分のYZを誰かに跨がらせたり乗ってもらったりするたびに、いろんな人から「さすがにこれ上級者向けすぎませんか? サス固くない?」と言われることしばしば。何もセッティングする気がなかったのだから当たり前だけど、実際にサスを使うということをまったく理解できていなかったことに呆然とした。日頃メディアでサスについて書いているくせに、自分のライディングのこととなると、サスが固いか柔らかいかすら、まったくわかっていなかったのだ。
これは僕がサスペンションマスターになるまでの物語である(※出典『僕のヒーローアカデミア』)
サスっていったらテクニクス。サスペンションマスター土田さんに会いに行く
どこがわかってないのかすらわからないが、とにかくサスをちゃんとわかりたい。そしてYZ125のサスを自分に合ったものにして乗ってみたい。「モトクロスビレッジで1分5秒のビギナーモトクロスライダーです。合わせてください」しか言えることがないまま、向かった先は春日部に移転したばかりのテクニクスさんだった。ちなみにモトクロスビレッジを知らないほとんどの読者の方のために説明すると、このタイムは同コースで開催される草レースシリーズ「ヒーローズ」で設定されるクラス分けでも一番下のクラス「ビギナー」で真ん中くらいを走れる程度。謙遜してビギナービギナー言ってるのではなく、正真正銘ビギナーであると思っていただいて差し支えない。
テクニクスの番頭であるサスペンションマスター土田さんは開口一番言う。「どんなサスにしたいですか?」
いきなりキタ。それだ。そもそもそれが自分でもわからんのだ……。よくわかんないけど、いいサスが欲しいです! とは業界人としてさすがに言えないので「そうですね、小さなギャップでわりとフラれがちなことが多いんで、そういうのを解決したいですね。あとこのバイクはモトクロスしたくて買ったので、あくまでモトクロス仕様にとどめたいですねハイ」とさも理解している風を装ったことを伝えてみる。
めっちゃ困った土田さんは「ううーん……リバルビングして減衰力を下げるのはマストとして、稲垣さん70kgくらいでしょ? モトクロスをしっかりやってみたいならスプリングはそのままでいいかもしれませんね。なんせスプリング変えると部品代かかりますし、やっぱり変えたいって話になった時でいいんじゃないですかね」とにっこり言う。
「あ、じゃぁそれでおねがいします(←よくわかってない)」ということで、とりあえず待つこと1週間。
僕の適当なオーダーを頼りにリバルビングされたサスペンションができあがってきました。
「とりあえずこれで乗ってみてください。減衰ボリュームを下げてあります。だいたいYZのサスペンションは上級者向けなんで少し固すぎる傾向にあるんですが、柔らかくしすぎるのもモトクロスではあまりよくないから、ほどほどにしてあります」と土田さん。ほうほう、こいつは楽しみである。乗るとなったら徹底的に乗り倒さねばなるまい。ふふふ。
サスペンションマスターイシゲさんと乗りに行く
実はこの新たなサスペンション、取り付けてから3回ほど乗りに出かけてみたのだけれど、確かに細かなギャップを拾いづらくなっていたりするものの、いまいち記事を書く気になるほど大きな感動を得られなかった。一発目から企画倒れなのかな、と思いつつ、近所に住んでいるエンデューロチャンピオン池田智泰(通称イシゲ)さんと遊びに行った時のことだ。
イシゲさんには過去にスタンダード状態のマイYZ125にも乗って貰っていたのだけれど、新しくなったバイクに乗ってすぐに「わ、これ全然違うじゃん。こりゃこれに乗っちゃうと前のサスには乗れないよ」とめっちゃ嬉しそうにしている。なんだよ。なんでそうなるんだよ。やっぱ乗れる人しかわかんないのかな……。「稲垣はジャンプで底づきしないとか、ギャップで楽だとかそういう基準でサスの良さを感じようとしているんでしょう? そこじゃないよ。クロスカントリーなら疲れづらくするためにギャップの感じ方は大事なんだけど、モトクロスの場合はそんなのはいらない。俺自身もモトクロスをするときに(イシゲさんは元MXIB)サスペンションをジャンプに合わせたりはしないんだ。あくまで曲がりやすいバイクを作ることだけを考える」
も一度試乗。意識をギャップではなくコーナーに向けてみると、まるで違うバイクに感じるのが不思議だ。特にモトクロスビレッジにある中速で曲がる第1コーナー、これまでは妙にバイクが立ってしまっていたのが緩和されて、ラインを選びやすくなっていた。いつもは狙った轍を1本ほどハズしてしまうことが多かったのだけど、これがぴたっと決まるようになってきたのだ。なんだ、俺がライン取り下手なワケじゃないんじゃん(←勘違い)。OFF1.jpや雑誌の仕事などでサスペンションをインプレッションするときは、基本的にギャップやフープスでフィーリングを得ようとしていたので、コーナーリングでもサスペンションの良し悪しが感じられるとは目からうろこである(←バイク業界人としては問題発言)。イシゲさんはさらにTechnixサスを活かすためにフロントフォークの突き出し量を変えてみることを提案してくれた。キャスター角を立てることでクイックにイン側を回れるようにとのこと。どんどんサスの良さが理解できていく。ユリイカ!
「これ、スタンダードの固いサスだといくらセットアップしても稲垣のスピード域だとサスを入れたままコーナリングに入ることができないから、違いがわからないんだ。テクニクスである程度減衰ボリュームを抜いてもらったことでコーナリングスピードがあがるんだよ。直線なんてどうでもいいんだよ。てか俺らジャンプでライバルに差なんてつけられないでしょ?」とイシゲさん。そりゃそうだ。
路面の状況をつかめるかどうか
イシゲさんは続ける。「それと路面の状況をつかめるかどうか、というのも大事な要素だね。スタンダードのサスペンションは稲垣レベルのライダーには大味に感じると思う。サスがある程度動いてはじめてライダーに路面の状況を教えてくれるようになるもんだ。だいたいのモトクロッサーのノーマルサスは、レーサーだから当たり前っちゃー当たり前なんだけど、一般人のライディングレベルよりもオーバースペックに設定されていて、大味で情報が伝わってきづらい気がするね。
コーナリングの入りやすさもそうだけど、今回リバルビングしてもらったサスペンションはすごく情報が伝わってきていいサスだなと思ったよ。やっぱりホビーライダーにリバルビングってマストなんだなぁ」
あらためてTechnix土田さんにもすごくよくなったという報告を兼ねて、これから向かうべき方向性についてうかがってみると「高速域でのサスの動きはジャンプの着地とかで判断するのがいいと思いますが、注意したいのは、飛びすぎて平らな所に着地したり、リアかフロントかどちらかに大きな荷重がかかる様な着地をした時の対策を重要視してしまう事です。その様なイレギュラーな入力にまで底付きしないで耐えられる様なサスにするとかなり硬く感じてしまうでしょう。スタンダードの場合、怪我をしないことが前提になっているため、硬めの仕上がりになっていることが多いですね。本来的には底付きはするもののコントロールを失うほど危険では無いぐらいの柔らかさがファンライダーにはいいと思いますし、今回もそういうセッティングにしています。
コーナーで重要なのは前後のピッチングとその時の前後の姿勢です。フロントが入らなければ一次旋回がし難く、リアが入らなければ二次旋回がし難くなります。全日本のIAトップクラスでもIBより柔らかいセッティングを好むライダーもいるくらいですから、コーナーを重視するセッティング方向で間違っていないと思いますよ」とのこと。
僕があくまで“モーターサイクルジャーナリスト”として蓄えてきた知識から判断するに、このやり方はどちらかというとロードレース寄りのアプローチで、あくまでもモトクロスサスペンションをセッティングする際のひとつの方法論だ。コーナリングというひとつのお題目に注目してみたらこういう話がでてきたというところで、この先サンデーレースを楽しむうちに「今日のフープスの山はそそり立ちぎみだから、思い切って飛び込んでいけない。サスでなんとかならんかな」とかそういう細かいつぶしこみをしていくようになるんだろうが、またそれは別の話。
とりあえずビギナーサンデーライダーにとっては、今日のコーナリングがうまく決まり始めたことだけが正義である。
だが……。鈴木健二が僕を惑わせる
というわけで僕がこの一連のサスペンションの話を周囲に吹聴していると、鈴木健二さんが「いやージャンキーだったらXとかFXのサスのほうがあってると思うよ?」とおっしゃられる。いやいやいや。こう見えて僕だって最近結構練習してるんですよ? さすがにモトクロスはモトクロッサーのほうがいいでしょう? と言っていたらいつのまにか健二さんのYZ125(Technixエンデューロ仕様サス。スプリングは2ランク下げてかなり柔らかい)を持ち帰ることになっていた。
むむう。そこまで言うなら試してみようじゃないかい。次回に続く!