2023年モデルでクランクケースを再設計したというBeta RR2T125。「しっかりした高回転パワーで勝ちに行けるマシン」と定評のあった同車をさらにパワーアップしたという。同じファミリーに属するRR2T200と共に、富山県のスキー場イオックス・アローザにてインプレッションを試みた
エンデューロモデルをいちから作る
ご存じの通り日本の4メーカーはオフロードバイクに限らず……というよりはオフロードバイクという小さなマーケットだけでなく、ロードバイクや車、エンジン、はたまた重工業をそのビジネスの礎としている。対してイタリアのメーカーというのはおしなべて、自分たちのやりたいことを突き詰める傾向がある。フィレンツェに本社を持つBetaはまさにその真骨頂というべきメーカーだ。なにせ世界で最も売れているバイクはRR2T250という2ストロークのエンデュランサー。ひたむきにエンデューロを追い続けた結果、いまやエンデューロGPではスティーブ・ホルコム、ブラッド・フリーマンを抱える唯一無二のチャンピオンブランドとなった。なお、日本においてもそのエンデューロバイクのマーケットを近年大きく伸張させている。
エンデューロジャーナル、ビッグタンクマガジンの編集長春木氏はこう説く。「Betaのエンデューロモデルの特徴についてあげるとすれば、まずエンデューロ専用に作られてるということだと思うんですよ。他のブランドだとモトクロッサーとベースを共通にしてそれをエンデューロ的な味付けにモディファイする車体も多いんですが、Betaの場合は完全にオリジナルで0からエンデューロモデルを作っているところに特徴があります。
おそらくどんな人が乗ってもこのバイクは乗りやすいなと感じると思うんです。モトクロッサーのエンジンをモディファイしたものではないことが、その理由です。今回の試乗ラインナップにはないのですが、430や480といった大排気量のマシンは特に、ビッグボアとは思えないほど乗りやすく驚かれるはず。
それとBetaは「プレイバイク」とうキャッチフレーズを使ってきた歴史があるのですが、これもBetaを語る上で忘れられない大事な特徴ですね。レースで上を目指すライダーにはレース用の「レーシング」というグレードをチョイスできるようになっていて、スタンダードモデルはエンデューロだけでなくフリーライドやトレイルなど「プレイ」ライディングを楽しむ人たちに、リーズナブルでいいマシンを提供しようというメーカーであると思います」
レーシーさはそのままに全域でパワーアップした125
コンパクトで誰にでも扱いやすい200
Betaの車体は125から480までどれも一見同じように見えるのだが、実際には小排気量マシンである125/200の2台はコンパクトなフレームにエンジンを載せている。春木氏はパワフルさが気に入っていた旧モデルのRR2T125の仕上がりも非常に気になっており、新たにどんな味付けがされているのか試乗前から興味津々であったという。
実は2023モデルのRR2T125はピックアップの良さを求めてクランクのカウンターウェイトを小型化。これにあわせてクランクケースの製造工程を見直し、クランク室の大きさを新しいクランクに合わせている。これだけ聞くとレスポンスが向上し、低速のトルク感と引き換えに高回転域のパワーを狙った仕様に聞こえるのだが、そうはならないのがモーターサイクルの面白いところだ。
「以前のRR2T125は排気バルブの設定が絶妙で高回転までパワフルで、レースでしっかり成績を出せるようなバイクだったのですが、今回のモデルチェンジでは扱いやすさが加わりました。レーサーらしさは変わっておらず、旧モデルの延長線上にあるマシンだと感じますね。低中速も太くなったフィーリングで、その影響かマシンがさらに軽くなったような印象を受けました」
このRR2T125をベースとしてボア×ストロークを新設計した200ccのマシンが、RR2T200である。125が54×54.5mm、200が62×63mmとどちらもほぼスクエアに近いスペックを持っている。世界的にも2スト200ccという排気量は有利なレギュレーションになく、いわばトルクの薄い125ccを扱いやすくしたモデルだという解釈ができる。クランクケースまで変更された125とは異なり、200のエンジンは22から継続である。
「乗ると非常にコンパクトで125よりもトルクがある。当たり前ですが乗りやすいですね。僕は今回は200と125をもし自分が買うとしたらどっちにしようかなって悩みました。どちらも非常にいいので。ほとんどの人には200が好まれるんじゃないかな、125と違ってセルもついているし、扱いやすさは200に軍配が上がります。125は高回転域までガンガン回していく人により好まれるわけですが、そういうライダーはホビーライダー界隈にはそれほど多くないし、加えて200は250並みのスピードを持っています。ピストンが大きい分、200は125ほどスカッと回る感じはしないですが、200なんでパワーは十分。そこまで回す必要がそもそもないのです。
125と200を比べた時にどちらが上級者向けなのか、初級者向けなのかっていうと、体重にもよると思います。もし体重が60〜65kgぐらいのライダーだったら、ビギナーでも125は十分にトルクフルだと思います。しかし、それ以上の体重になってくると125の極低速のツキが弱く感じるかもしれないと思います」
まだまだビギナーです、ジャンキー稲垣のどっちでSHOW
PHOTO/井上演
Off1編集部では伊井が実はBetaのRR2T200に乗っています。ちゃんと乗らせてもらったことはないんだけど、やっぱりどっちつかずで125ほど回らないし250ほどトルクないから乗りづらいなーという印象を持ってたんだけど、今回はそれが払拭されちゃったぜっていうハナシ。
そもそも僕は乗り物を見る時には、まずエンジンやモーターがどんな性格なのかが気になるタイプ。ホンダのホーネット250がすごく好きだった。アホほど回るけど速度は乗らないから怖くないし、真剣にサーキット走行するわけでもないから、「回してるジブンカッコイイ」と、悦に入ることのできるところが気に入っていた。今乗ってるV6のアルファロメオもエンジンのフィーリングだけめっちゃいい。内装も外装も気に食わなくてもすごいエンジンだと聞いて車買っちゃうほどにエンジンラバーです。
だいぶ話が逸れちゃったけどそういう観点から見て、BetaのRR2T125のエンジンは理想的だな、と心底思った。モトクロッサーほど振動なくスルスルっと回るくせに、レブ域まで一気に吹け上がるところは派手好きのイタリア人好みなんじゃないだろか。本当は3速まで入れてスピードに乗せるようなところでも、2速で開けっぱなしにして走ることにとても自己中心的な意義を感じる。まわりの人に「あ、今日も開けてましたね」とお世辞を言われることになる。誰も「速かったですね」とは言わないけど。低速は旧モデルの110%くらいのトルクフィーリングなんだけど、そもそも先にも書いたとおり振動があまりなくて、上質な低速トルクであるところがとても好印象だ。ツキを狙ってクランクのカウンターウェイトを軽くしたのに、ビュン! と出過ぎることもない。いかにもエンデューロバイク然としていて、乗っていて怖さを感じるようなことは皆無だった。前述の春木氏の話にもあるように自分が普段乗っているYZ125とは、そもそも出発点が違うのだと心底感じた。そりゃそうか……。
外装とサスペンション以外変更点のないRR2T200は、あまり乗る気も起きなかったんだけどこれが乗ってみると全然考えていたのと違った。だいたいこういう中間排気量のヤツは125ccベースだから125ccの延長線上にあるんだけど、RR2T200は明らかに250に寄せている感触なのだ。125にトルクを持たせたのではなく、250をまろやかにした感じなんである。なので太らせたトルクというより別モノのトルク感で、250のように3速に固定したままだらーっと走れてしまう。逆に125のような圧倒的な軽快感はだいぶ薄れているように思った。
前年度チャンピオンである釘村忠が全日本エンデューロであえて修行のために200に乗っていたという理由が、自分で200に乗ってみるとなんとなく見えてきたような気がする。125と200の関係は、回る250と低中速が使いやすい300の関係に似ている。つまり回して走るなら125&250。低中速を使って走るなら200&300なんである。200と250を比べても、実は200の方が低中速寄りに感じるくらいだ。全日本のトップを走るライダーにとってみれば200の低中速寄りの狭めのスイートスポットではタイムを狙いづらいだろう。300くらいの強力なトルクがあれば誤魔化せるんだろうけど、そうではない。「マシンと向き合うことでより強くなった」と釘村先生はおっしゃってたけど、なんとなく、なんとなくわかった気がする。だけど多くの人には200の扱いやすい豊かな低中速トルクがジャストフィットするというのもわかる。単に排気量順に並んでいるわけではない。200には200の意味があるんだなぁ。Betaのラインナップは、すごくよくできている。んでも個人的にはやっぱりビンビンな125で日高2デイズエンデューロに出ちゃいたいです。