KLX230Sに17インチホイール、オンロードタイヤを装着したKLX230SMが新登場。OFF1.jp編集部員伊井がKLX230Sとの違いや、実際に乗ってみたファーストインプレッションをお伝えします
カワサキのDトラッカーはDトラッカーXも含めると1998年から2016年まで生産された人気モデルで、オフロードモデルのKLX250に前後17インチホイールとオンロードタイヤを装着した、いわゆる「モタード」マシンだ。大学生当時、フルカウルしか目に入っていなかった僕は一緒に免許を取った友人がDトラッカーを買っているのを見て、「なんでこんなバッタみたいなバイクを買うんだろう」と本気で思ったものだ。そういう僕はそれから10年後、オフロードバイクの魅力に目覚め、KLX250に前後17インチホイールを装着して「なんちゃってDトラッカー」を作り、ミニサーキットでリアタイヤを滑らせて遊んでいた時期があるのだが……。
2020年にKLX230が新登場した時に「これはDトラッカー230の発表も近いか」と期待したライダーは多かっただろう。あれから2年、少し遅くなってしまったが、ついに期待が現実となったのだ。
試乗車はどちらもリアフェンダー上に別売のキャリアが装着されていた。また、ETCも搭載されていたが、こちらも同様に後付け品でノーマルには付いていない。さらに、KLX230Sはハンドルバーがオプションのファットバーに変更されていた。しかしこうして並べてみると、SとSMでスマートさが全然違う……。
ひと目見てわかる通り、ヘッドライトカウルのデザインがSから変わっている。初期型KLX230の発売当初から、重いライトカウルに不満を持っていたユーザーには羨ましい変更点だ。なお、2022年モデルのKLX230Sが発表されたのは2022年1月と遅かったため、まだ2023年モデルが発表されていない。ライトカウルがSMと同じになるかどうかにも注目したい。
フロントタイヤ比較。KLX230Sは21インチホイールにIRCのオンオフ両用タイヤGP-21Fを標準装備。KLX230SMは17インチホイールに同じくIRCのオンロードタイヤRX-01F。SMはゴールドリムになっている点も見逃せない。
リアタイヤ比較。KLX230Sは18インチホイールにIRCのGP-22Rを装備。KLX230SMは17インチホイールのゴールドリムに、IRCのRX-01R。なお、リアタイヤのタイヤサイズは120/70-17M/C 58P。このクラスのリアタイヤにしてはかなり細いため、コーナーでのヒラヒラ感はかなり目を見張るものがあるが、高スペックのラジアルタイヤを欲した時には、あまり選択肢がなさそうだ。なお、DUNLOPのSPORTMAX Q5やSPORTMAX α-14のフロントタイヤには同サイズの設定があるので、それらを使う手もアリかと思う。
ステップ比較。KLX230Sはブーツ裏のグリップを向上させるためラバー無しの仕様だが、KLX230SMはラバーが装着されている。ステップ自体の高さや前後位置などは特に変わりはなさそうだ。
フロントフォークは大きく変わっている。KLX230Sが正立フォークなのに対して、KLX230SMは倒立フォークを採用。オフロードユースをメインに考え、軽さや感度の良さを優先したKLX230Sに対し、KLX230SMはハイスピードにも対応できるよう剛性を高めた結果だろう。もしくはKLX230S発表時は単にコストの問題で正立を採用していただけで、2023年モデルが登場したらフロントマスクの軽量化と一緒に倒立フォークになっているかもしれない。ただし、その場合価格はKLX230SMと同程度に上がってしまうかもしれないが。
リアショックはホイールトラベルも変わらず。元々少しリアが硬めのKLX230Sだったが、軽く公道で乗っただけだと減衰性能もほぼ同等に感じた。
エンジンはどちらも空冷4ストローク単気筒232cc。ボア×ストロークは67.0mm×66.0mmでほとんどスクエアストローク。最高出力14kW(19PS)/7600rpm、最大トルク19Nm/6100rpmとなっている。SMはフレームおよびエンジンがブラック塗装されている。
よく見るとフロントフェンダーの形状が少し異なっていた。一般的にモタード車はフロントフェンダーが短めだが、SMも若干小さめで、泥除け効果という点ではKLX230Sの方が高そうに見える。
フロントブレーキディスクはサイズが全く異なる。KLX230Sが265mmなのに対し、KLX230SMは300mm。かなり大径化されていて、もちろん実際に使ってみると一発で効きの違いがわかる。リアブレーキディスクはどちらも共通で220mmだ。
今回はあまり長期間お借りできなかったので、オフロードやサーキットなどでの乗り比べはできなかった。一番気になったのはヘッドライトが変更されたことによるフロント周りの軽量化だったのだが、サスペンションやホイールなどの違いが影響したせいか、これも大きく実感することはできなかった。メーカー発表の車両重量も同じ136kgとなっている。だから軽量化のためにライトカウルを小さくした、というよりかは、ホイールやサスペンションなどを変更してモタード化したことで増量してしまったフロント周りをどうにかするためにライトカウルを小さくして対応した、という順序なのではないだろうかと想像した。
通常、オフロードバイクのKLX230Sのホイールを小径化し、KLX230SMにしたら、シート高は低くなると思うだろう。ところがスペックを比べてみるとKLX230Sが830mmなのに対し、KLX230SMは845mm。これがフロントサスペンションが倒立フォークになり、ホイールトラベルが46mm伸びた結果なのだろう。(とはいえKLX230Sは2020年の初登場以来、ラインナップから姿を消してしまったKLX230から55mmシート高を下げたローダウンモデルであることは忘れてはいけない)
しかし改めて、元気が良くスポーツ感覚を味わうことができる232cc単気筒エンジンと、それを載せている恐ろしくスリムな車体の組み合わせは実に面白い。実に軽やかにヒラヒラ寝かせることができるし、突っ込みすぎても強力なフロントブレーキが絶対的な安心感でもって支えてくれる。国産モタードモデルが壊滅したに等しい現在、KLX230SMは国産250ccクラス最強の峠マシンなのではないだろうか。