MXGPなどモトクロスレースで多く使われているGET ECUをご存知だろうか? 純正のECUに比べて、より細かなセッティング変更ができるGET ECUを、元全日本モトクロス選手権のファクトリーライダーである辻健二郎がインプレッション!

GETで何ができるのか

全日本モトクロス選手権をはじめ多くのモトクロスレースにおいて、ライダーは定められたレギュレーションの中で、より速く走れるようにマシンをセットアップしなければならない。近年ではほとんどのモトクロッサーが純正オプションパーツを用いることでエンジンマップを書き換えられるようになっているのだが、GET ECUはそれをより細かく、そしてより大きく変えることができる。

全日本モトクロス選手権から草レースまで、モトクロスレースにおいてマシンを制御するECU(Electronic Control Unit)内の燃料噴射マッピング・点火タイミングマッピングを書き換えてセッティング変更することは常識となりつつある。メーカーが販売する純正オプションパーツでもマッピングを書き換えることはできるのだが、より細かいセッティングが可能ということでモトクロス世界選手権(MXGP)をはじめ、多くのユーザーに使われているのがGET ECUだ。今回はその性能を確認するため、元全日本モトクロス選手権ライダー辻健二郎氏にインプレッションを依頼した。

「GETの一番のメリットは、燃料と点火の補正を行うことで、アクセル開度と回転数をより細かく制御できることだと思います」とはGETを取り扱う株式会社アズテックの橋本毅氏の談。

・セカンドインジェクションを追加(4ストローク250ccマシンに限る)
・アクセル開度と回転数ごとに燃料の噴射比率を調整可能
・点火タイミングの調整
・レブリミッターの解除
・トラクションコントロールの設定
・ローンチコントロールの設定

以上が、GETを搭載することで可能となるセッティング項目だ。これらのセッティングを施すことで、パワーカーブの谷をなだらかにしたり、より自分好みのエンジン出力特性を得ることができる。しかしもちろん、レブリミッターの解除はエンジンに与えるダメージが大きいことから、ストックのエンジンに対しては推奨していない。

世界のレースで蓄積されたマップデータがついてくる!

今回試乗用に用意されたのは2021年式のCRF450Rと、2022年式のCRF250Rの2台。コースは埼玉県のオフロードヴィレッジ本コースを使用。まずはCRF250Rから乗ってもらった。

画像1: 世界のレースで蓄積されたマップデータがついてくる!

2022年式CRF250R用GET ECUのスタンダードマップには、ヨーロッパで市販されている時のデータがそのまま使われている。ヨーロッパでGETを取り扱うATHENAが、MXGP参戦を通して得たノウハウが蓄積されたデータだ。「走り始める前に空吹かししてみると、抜けのいい乾いた排気音がして好印象を持ちました。実際に走り出してみても、とてもパワフルになっていました」と辻の第一印象は良好。

「スタンダードのECUだとパワーもトルクもマイルドで、加速で路面にグリップする時にサスの硬さにパワーが負けているような感覚がありました。エンジンに負荷がかかり、回転の上昇の仕方が少しスローに感じました。しかし、GET ECUを搭載してみたら、確実にパワーが上がっただけでなく、高回転まで素早く回る軽快なエンジン特性になり、ガラッとキャラクターが変わったことがわかりました。

しかし、この日のオフロードヴィレッジは完全なドライコンディションで滑りやすく、パワーが上がったことがデメリットに繫がる場面もありました。トラクションしているフィーリングが掴みにくいため、シフトアップのタイミングが分からず、滑っているのに高回転まで引っ張るような乗り方になってしまいました」

画像2: 世界のレースで蓄積されたマップデータがついてくる!

そこで辻は試乗を終えてパドックに戻ってきてから、ECUのセッティング変更を要望。

画像3: 世界のレースで蓄積されたマップデータがついてくる!

辻の要望を汲んで橋本氏がECUのマップ書き換えを行なった。この日はノートパソコンを接続して切り替えていたが、スマートフォンアプリを使うことでWi-Fiでの書き換えも可能だ。

画像4: 世界のレースで蓄積されたマップデータがついてくる!

「セッティングを変えてもらって再度乗ってみたら、低速から高速までアクセルの開け始めで路面を捉えている感覚がわかりやすく、とてもいいレスポンスでした。アクセルを開けていってもトラクションが抜けずにしっかりエンジンが回ってくれるので、スピードも乗りやすかったと思います。気になっていたシフトアップのタイミングも、トラクションが上がっているので回転の上昇とトルクフィーリングが掴みやすくて、問題ありませんでした。

さらに低回転からしっかりトルクが伝わっているため、早めにシフトアップができました。250なのに高回転をキープするような乗り方をしなくても軽快に走ってくれるので、非常に乗りやすく感じましたね。色々な乗り方を試してみましたが、アクセル開度とパワー出力がちょうどよく、とても扱いやすかったです。

この車体にはSHOWA A-KITのフロントサスペンションが装着されていたのですが、実はGETを入れないスタンダードなECUの時は少しサスの硬さが先行してしまい、パワー不足を感じていたんです。しかし、GETを入れて最適なパワーを引き出したことで、この硬さもちょうどいい具合になり、カチッとセッティングが決まった感覚があり、ずっと乗っていたいような最高のマシンになりました」

また、CRF450R用のGET ECUでは昨年、全日本モトクロス選手権でIAトップライダーが使用していたマッピングを元にオリジナルマップを作成。日本で購入するとそのマップがスタンダードマップとしてインストールされている。

画像5: 世界のレースで蓄積されたマップデータがついてくる!

「450では他のライダーの要望に合わせた2種類のマップを乗り比べたのですが、片方ではアクセル開度に対してエンジン回転の上昇がものすごく敏感で、タイヤのトラクションを感じにくくなってしまっていました。また、せっかく素晴らしいSHOWAのA-KITサスをつけていたのに、あまりに鋭いパワー特性のせいでサスの伸び縮みが速くなり、ピッチングも大きく乗りにくさがありました。

しかし、もう一つのマップでは、アクセルの開け始めの反応が絶妙で、路面をしっかりと捉えてくれていました。低回転からトルクを使うことができたので、そのまま回転を上げて高回転のパワーを使ってもいいし、1つ高いギアで低〜中回転を使ってスムーズで快適に走ることもできました」と辻はGETのセッティングによって大きく変わるキャラクターに驚いていた。

辻のインプレッションからもわかる通り、GET ECUはただ装着すれば無条件に良くなるというカスタムパーツではない。しかし、現在日本でGETを販売している株式会社アズテックでは、全日本モトクロス選手権やニュージーランド選手権をサポートした経験から得たデータを元にオリジナルデータを作成。出荷時にいくつかのコースコンディションに適したスタンダードマップをいくつかインストールしていて、購入すればすぐにそのマップを使って走ることができる。そこから、練習走行、予選、ヒートと重ねていく上で、より自分の走りに適したエンジン特性を引き出すようなマップのセッティングを煮詰めていくことで、さらに力強い味方になってくれることだろう。

画像: こちらはWi-Fiでセッティングする際に使用する受信機

こちらはWi-Fiでセッティングする際に使用する受信機

画像: マップ切り替えスイッチも同梱されており、2種類のマップをボタンひとつで切り替えることができる。今回はスイッチによってトラコンの有無を変えられる設定になっていた。さらにトラコンは10段階で強さを調整できる

マップ切り替えスイッチも同梱されており、2種類のマップをボタンひとつで切り替えることができる。今回はスイッチによってトラコンの有無を変えられる設定になっていた。さらにトラコンは10段階で強さを調整できる

画像: GET ECUにWi-Fi接続することでスマートフォンのアプリからでもセッティングをいじることが可能だ。スタンダードの状態で、フラット、ハードパック、サンドなど6種類のマップが登録されている

GET ECUにWi-Fi接続することでスマートフォンのアプリからでもセッティングをいじることが可能だ。スタンダードの状態で、フラット、ハードパック、サンドなど6種類のマップが登録されている

画像: そこからさらに燃調、点火時期、レブリミッターなどを変更することができる。純正のセッティングパーツよりも細かく、大きく変更できるのがメリット

そこからさらに燃調、点火時期、レブリミッターなどを変更することができる。純正のセッティングパーツよりも細かく、大きく変更できるのがメリット

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