TRIUNMPH
TIGER1200 RALLY PRO
フルモデルチェンジで-25kg。電子制御でフレンドリーなマシン
いわゆる「アドベンチャーバイク」にカテゴライズされるマシンは、オフロードを本格的に走れるように設計されたモデルと、そうではなく、あくまでも“オフロードテイスト”を身に纏ったSUV的モデルとに分かれる。今回試乗することになったタイガー1200は、本格オフロード寄り21−18インチタイヤのラリーシリーズと、ロード寄り19−18インチGTシリーズの2タイプが展開。そして、それぞれスタンダード仕様のPROと、30Lの容量を誇るビッグタンクやシートヒーターがつくツアラー仕様のEXPLOREがラインナップされ、オフ・ロードどちらの要望も満足させる。
TIGER1200 RALLY PRO
TIGER1200 RALLY EXPLORER
TIGER1200 GT PRO
TIGER1200 GT EXPLORER
隆盛を誇るアドベンチャーカテゴリーの中でも、タイガー1200はエンジンが3気筒であること、シャフトドライブであることの2つの点で異彩を放っている。2気筒よりもパワフルで、かつメンテナンスサイクルに優れるドライブ系統が大きな魅力だ。他と同じパラレルツインではなく、味のあるエンジンに乗りたいというライダーは特に食指を動かしやすいんじゃなかろうか。その反面、エンジンは大きくなってしまうため、車体の大きさや重さが気になりそうなところだが、今モデルは旧モデルよりも25kgもの減量を果たしていて、足付きなども向上しているという。
★T-プレーンの新型エンジン
★-25kgの大幅な軽量化
★シート&ボディワーク(またがり幅を縮小・足つき性の向上)
★ブラインドスポットレーダーをExplorerモデルに装備
★アシスト機能をOFFにできるモード装備
★大容量燃料タンク
★クラッチアシスト
★シフトアシスト
★ヒルホールドコントロール搭載(坂道でも安定して発信できるサポートシステム)
★電子制御システムサスペンション搭載
今回のフルモデルチェンジのキーポイントは、この10つ。リッターオーバーのバイクが持つあり余る程のハイポテンシャルを電子制御で誰にでも乗りやすくする、というコンセプトはアドベンチャーバイクでは決まり手だろう。不等間隔のクランク(T-プレーン)で脈動を生み出し、パルス感・トラクションを向上させるのも常套手段。時勢の手法にのっとっていて、方向性には間違いがない。あとは、どこまでその1200ccの3気筒を一般ライダーの技量で手なづけられるのか…オフロード専門メディアとしては、ここが気になるところだ。
エンデューロバイクでも難しい、ウェットコンディションで試乗…
なお、メディア向けに開かれるアドベンチャーバイク試乗会は、オフロード性能を存分に試せるように、オフロードコースを会場として開催されることが多い。このタイガー1200試乗会も、栃木県の「鹿沼木霊の森」で行われた。木霊の森は、本来初心者向けのコースなのだが、雨になると極端にすべりやすくなってしまう。試乗にでかけた僕、稲垣はオフロード好きで20年走ってきたにもかかわらず、そのスキルは中の下といったところ。雨よ降るな! とお祈りを捧げたモノの…前夜からたっぷり降り注いだ天の涙が、木霊の森をつるっつるにしてしまったのだった。
当日、まずは試しに300ccのエンデューロバイクで走ってみたところ、リアブレーキをかけた瞬間どこまでも滑っていくようなコンディションの路面が60%。残り40%はかろうじてグリップしてくれる…かなといった感じ。本当にここで1200ccに乗るの? いやいやいや…Off1.jpを名乗る以上、ウェット路面であろうがなかろうが、オフロードでの試乗は避けられまい。やるしかないのだ。
ラリーシリーズに感じる巨躯感は、電子制御でうまくぼかされる
重厚感たっぷりの車体だが、スタンドから引き起こしてみてもそれほど重みを感じさせない。中身がスカスカに感じるほど軽いというわけではないけど、土の上で乗ることをためらうほどではない絶妙な重量バランスとなっている。
走り出してみると、最初はライダー側が慣れなかったが、試乗コースを1周し終える頃にはだいぶ身体もほぐれてタイガー1200のことがわかってくる。まず、特筆すべきは低速での扱いやすさ。プリセットされた「オフロードモード」では、エンジンがかなり制御されているのか非常にコントロール性が高い。ありあまるトルクから必要な分だけ力を取り出せるというか。本当に感じとれているのかは怪しいけど、不等間隔のクランクだからか、「間」があるような感触なのだ。とてもシビアなスリッパリーな路面であっても、トレールの250ccと同じ感覚であけていける。試しにガバッと開けてみても、トラクションコントロールが効くため、急激に滑り出す感触はない。とても丁寧に調教された低速。だから、1速でも十分に扱いやすいのだが、2速にあげるとさらに走りやすくなる。すーっと車速が伸びていく感触だ。北海道の林道にでも持ち込めば、3速以上、高回転域も試せるのかもしれないが、この会場、この路面ではここまでが限界。
ゼロ発進も、とてもこころづよいサポートがついている。ヒルホールド機能というのがそれで、フロントブレーキを停車時に深く握るとリアブレーキが自動でロックされるのだ。車体が大きいだけに、これがあるだけで安心感がまるで違う。後ろに下がってしまうことを意識しないですむだけで、姿勢を整えたり、ギヤをゆっくり選ぶ余裕が出てくる。エンデューロバイクにもついてほしいと思ったほど。
また、試乗中リアブレーキの高さがスタンディングにあっていなくて、下り坂でリアブレーキを踏めなくなってしまったシーンがあった。ギヤは1速だし、南無三! と唱えながらフロントブレーキをさらに深く握りこんだのだが、フロントタイヤは滑る感覚一切なし。路面コンディションがいいのかと勘違いするほど、挙動が落ち着いていた。ABSの仕上がりは見事というほかない。
と、ここまでいかにフレンドリーな仕上がりか書いてきたが、正直車体の大きさはいかんともしがたいものがあるのは確か。身長180cmの稲垣でも、乗車時には足がリアシートに引っかかってしまう始末。そして、2段階の差し替え式シートをローポジションにしてあっても、「わ、これはちょっと怖いな…」と思うほどにシートは高い。電子制御でちゃんと乗りやすくはなっているんだけど、免許取り立ての自分の嫁に「これ乗ってみなよ」とは言えない。いちおう、その辺りの覚悟は持って乗りたいマシンではある。
ただし、そんな巨躯を持ったモンスターマシンだから、操れている(と思っている)時の優越感はめっぽう高い。林道で出会ったら、「うわ、こんなデカイのでよくここまで来ましたね!」と言われてしまうこと間違いなし。
超快適、足付きも良好。GTシリーズなら誰にでもお勧め
ところが、ラリーシリーズのフロント21インチから、GTシリーズの19インチに乗り換えただけで、こうも印象が変わるとは思わなかった! またがった瞬間から伝わってくる安心感、そして足付きの良さがまるで違う。重心の低さ、タイヤのプロファイル、様々な要因が組み合わさって、まるで違う乗り物に感じる。
走り出してもその印象は変わらなかった。3気筒のT−プレーンをオフロードでは味わう程の余裕がなかったけど、アスファルトの上で好き放題スロットルを操作してみると、とてもテイストフルだ。4気筒より、2気筒に近い感触でパルス感が心地いい。低速のトルク感と、高速域の溢れるパワーも3気筒独特のものを存分に味わえる。このエンジンはズルイな、と思うくらい2気筒と4気筒のエンジンのいいとこどりに成功している。
さらにオンロード上となると電子制御は、オフロードよりも受けられる恩恵が大きい。たとえば、ツーリングバイクで標準になりつつあるオートクルーズは、高速道路で手放せなくなるほど便利だし、電子制御サスペンションによる自動イニシャルアジャストは荷物積載時やタンデム時に便利だ。試乗では機能するシチュエーションに出会えなかったが、ミラーの死角に対して補助してくれるブラインドスポットレーダーなども面白い仕掛けだ。
正直45分の試乗枠では確認できなかったが、シートヒーターやグリップヒーターなど、とにかくツーリングにおける快適機能を満載している。機会があれば1000km一気走りなどでその実力を試してみたいと思った。
このラリーとGTのフレンドリーさの違いは、見た目より遙かに大きい。少し変則的ではあるのだけれど、もしかするとロード寄りのGTシリーズにブロックタイヤを履かせるのも、ありなのかもしれない。少なくとも、腕に覚えがあるライダー以外は、そのほうが安心感を持って林道を楽しめるのではないかと思う。ホンモノの走破力をもったモンスターマシンを思うがままに走らせたければ、迷うこと無くラリーを選ぶべきだ。