新チャンピオンは実はG-NET初代チャンピオンだった
水上タイスケが語るG-NETチャンピオンの「意義」
このレポートを読んでくれている人の大半が、もうレース結果を知っていると思い、いきなりここから始めたいと思う。
2014年から2019年まで、このハードエンデューロが大きく姿を変えた6年間、絶えずチャンピオンを守り続けた高橋博(ロッシ)が怪我で不在となった今シーズン。鈴木健二、山本礼人を抑えて年間チャンピオンに輝いたのは、水上泰佑だった。
そして何を隠そう、水上はG-NETがシリーズ名にその名を冠した初年度、2010年の初代チャンピオンなのだ。しかし初年度のチャンピオンについて水上はこう語る。
「実は2010年は全3戦のうち2戦しか出てないんですよ。開幕戦のG-IMPACTで2位(優勝は田中太一)で、第3戦のCGC池の平で優勝したら"チャンピオンだ"って言われて、当時はG-NETを全く意識していなかったので、え?ってなりました。だから、意識してチャンピオンを獲ろうと思って年間シリーズを戦ったのは今年が初めてだったんですよ。
僕はトライアルでもモトクロスでも、チャンピオンを獲ったことがなかったので、今年のG-NETチャンピオンは本当に嬉しかったですね。でもロッシさんの怪我もありましたし、最終戦では健二さんのマシントラブル、アヤトも最後はマシントラブルだったようですし、森さんにも負けてしまったので、運にも味方された本当にギリギリのチャンピオン獲得だったと思います。日野の帰りの車の中はずっと反省会でした」
さて、では水上をG-NETチャンピオンへと動かした原動力は一体なんだったのだろうか? 水上は2010年のチャンピオン獲得以来、G-NETはスポット参戦に止まっており、2019年の開幕戦で「来年は本格的に参戦し、チャンピオンを獲ります」と宣言していた。これはおそらく、SNSで若手を中心にみせるハードエンデューロの盛り上がりが、水上を引っ張り出したのだろう。
「僕はこれまでG-NETでチャンピオンを目指す意味、なんて考えたこともありませんでした。ただ、楽しかったからやっていて、やる以上は一番を目指したいと思っただけなんです。ただ僕も来年には35になりますし、いつまでもこんな遊び方はしていられません。早いうちにアヤトに王座を譲って、僕は裏方や若手の育成に回ろうかなと思っています」
つまり、20〜30代の若手ハードエンデューロライダーたちが、水上に「この競技で勝つのは楽しそう」と思わせたのだ。
水上がゴールした直後、ロッシは松葉杖をつきながら水上の元を訪れ、あついハグをしたあと、固い握手を交わした。同じIRCタイヤを履く者として、ロッシがこれまで守ってきたIRCタイヤの連覇記録を、水上が守ったことに対する感謝や、これからのハードエンデューロを託す気持ちもあったのかもしれない。
ロッシは現在51歳。水上は若手の中では少し年長の34歳。次の世代を引っ張っていくにはちょうどいい兄貴肌でもあり、まさに今年から日本のハードエンデューロは新時代へ突入していくのだろう。