終盤戦を駆け込みで敢行した、異例のシーズン2020年。AMAスーパークロスが、いよいよ閉幕。チャド・リードのフェアウェルツアー、コロナ禍の途中中断など忘れられないシーズンになったが、なんといっても我々日本のファンにとってのホットトピックスは、下田丈のスーパークロスデビューだった。最終戦は、250クラスはシュートアウト。下田の参戦していたイーストコーストだけでなく、ウエストコーストを交えたレースになる。つまり、層の厚さは単純2倍。それだけに、先の読めないレースだった。
波乱のヒートレース
クオリファイ、ヒートレースは、東西をまぜこぜにせず各コーストでおこなわれる。つまり、ライダーのラインナップはヒートレースの時点で通常のメインイベントなみのレベルの高さである。下田のクオリファイは、イーストで4番手。トップのチェイス・セクストンからおおよそ2秒落ちといったところ。
スタートグリッド中央につけた下田はヒートレースのスタートを、わざと抑えめにいったか…いつもより奥に突っ込んでいかない姿勢が見て取れた。レーストラックはドライで、相当にスリッピーだったこともあるのかもしれない。アウト側に大きく膨らんでしまう例が多かったこのヒートのスタートを、うまく10番手あたりにまとめた。無理をするより、悪くはない。メインイベントなみに強豪揃いだから、まずまずといったところだ。オープニングラップでは、リアを滑らせてチームメイトのチェイス・セクストンと危ういシーンがあったものの、3周目まで8番手で周回した下田は8周目までに5番手へ浮上。前のジャレク・スウォルをパスして4番手で終えたいところだったのだが、2番手を走っていたコルト・ニコルズと、セクストンが接触し、ニコルズが大幅に後退してしまう。加えて前述したスウォルをパスできたから、下田は3位でのフィニッシュ。しつこいようだが、メインイベントなみの層の厚さで、最終戦にしてポディウムに立てることを証明したと言えるかもしれない。
ウエストのヒートレースでは、シーズンリーダーのディラン・フェランディスがスタートで転倒、まさかのヒート落ち。フェランディスは危なげなくLCQでメインイベントへコマを進めたが、なんと強豪のハンター・ローレンスはLCQでも敗退。イーストで下田とライバル関係にある、ピアース・ブラウンも、おなじくLCQで敗退するという波乱。ニコルズは、負傷で戻れず。
最終戦、今度は赤旗に救われる
下田は、メインイベントのスタートを中盤より前でキメ、8番手でオープニングラップを立ち上がる。セクストンとフェランディスに囲まれるという、難しいポジションを強いられた序盤だが、早くもトラブルで最後尾近くまで後退してしまう。しかし、その直後にオースティン・フォークナーがハードクラッシュ、レースは赤旗中断となる。2戦前、下田は最高のスタートを赤旗で無かったことにされてしまっているが、今度は赤旗に救われた形だ。フォークナーは10分程度立ちあがれない状況で、レースに復帰できず。これで、フォークナー、ニコルズ、ブラウン不在のメインイベントへ。
仕切り直して、再スタート。下田のスタートは集団に飲まれ中盤くらいの立ち上がりだが、オープニングラップをうまくさばいて11番手まで浮上。着実に順位をあげて9番手へ。序盤は、同期でチームメイトのジェット・ローレンスが頭を走り、レースを大いに沸かせたが、セクストンが4周目でトップを奪取。2番手マケラスとの差を保って、クレバーなレースを続けた。
下田も、後続クリスチャン・クレイグとの距離をしっかり保ち、安定した展開。前方には4〜6秒ほどのリードでジャスティン・クーパーが走行、ランキング3位圏内の10位を余裕をもって守りきった。最終周、上位を走っていたキャメロン・マカドゥが転倒したか後退、これをパスして下田は8位へ浮上してチェッカー。シリーズポイントは合計122pt、このラストラウンドでガレット・マーチバンクスを上回り、日本人初のAMAスーパークロスシーズンランキング3位を手中に収めたのだった。
さらに下田は、ルーキー中もっとも最上位のランキングを残し、ルーキー・オブ・ザ・イヤーを獲得。これももちろん、日本人初の快挙だ。2019年の同賞は、ガレット・マーチバンクス。マーチバンクスの1勝をあげた今季の活躍をみても、いかにこの賞が大事かがわかる。