ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキ。4社もの世界的なリーディングカンパニーを擁する日本は、モトクロスで世界へ度々ライダーを派遣して成功をものにしてきた。78年の渡辺明氏による世界タイトル達成こそ、その最たるもの。今シーズン2019年も、ホンダは全日本選手権で育ててきた若手、富田俊樹をアメリカへ、能塚智寛を欧州へ送り出している。欧州の車両を起源とするエンデューロにおいても、最近では世界へ挑戦する動きが少しずつ見られるようになってきた。
イタリア人に中指を立てられたことが、大神を変えた
2019年、25歳の大神智樹が車両メーカー「Beta Motor」の元へ修行に向かう。
かねてより、大神が希望してきたことだった。2017年に、大神はEnduro GP(世界選手権)へのスポット参戦をしているのだが、この時点では大神はまだ日本でもIBクラス。日本のトップライダーである小池田猛がようやくリザルトを残せるという、超絶に高いレベルのEnduro GPに挑戦することは、かなり無謀な計画に思えた。
実際、大神は2日間で開催されるEnduro GPイタリアラウンドで完走に遠く及ばなかった。GPを走るライダーであれば、失敗してはいけないようなセクションでスタックしてしまう。ルートのスピードが不足して、オンタイムで周回できなくなってしまう…。何が不足しているかというよりも、すべてが不足していた。
陽気なイタリアンたちは、そんな大神を見て大いに盛り上がった。チャレンジし続ける姿勢が共感を得たのだ。大神は、おおまかに「本場のイタリアン達に受け入れられた」と言える。大神も、サポートする僕ら日本人も、それに気をよくしていたのだが…
大神が苦戦していた2日目のエクストリームテストを終えたとき、大神は一人のイタリア人の観客から中指を立てられた。本来、オンタイムエンデューロは他のライダーのタイムアタックに影響を与えないようにコースが設計される。だから、テスト内は常に「クリア」であることが大事で、だからこそオンタイムエンデューロは公平さを保っているのだ。
でも、大神のようにスタックしてしまうと、当然後ろからスタートするライダーは、クリアな状態で走れないことになってしまう。このテストでは、オフィシャルのウマイ判断で大神の走行が後続に影響を与えることはなかったのだが、実はちょっと危ないところだったのだ。つまり、その中指を立てたイタリア人にとって、大神は、世界最高峰のGPを汚しにきた存在に映った。
大神は、2年を経た今もそのことをしっかり考えていて「最も印象的でターニングポイントになったのは1人の男性観客に立てられた中指。とてつもなく悔しかった。僕はエンデューロを始めてから、約1年サラリーマンで、練習週2日のライダーでした。身の程知らずなのも承知。あの経験があったからこその今と感じてます」と言う。僕らは、あの時現実に引き戻されたのだ。
本場のエンデューロカルチャーに触れに行く
大神が向かうのは、北イタリア。
イタリアの中でも、KTMファリオーリや、ACERBIS、ガエルネなど大手企業が集まる地域にある、ベータのファクトリーへ向かう。そこで、大神はベータファクトリーにおいて武者修行をしながら、本場のファクトリーチームの空気を生で体感しライダー、メカニックとして成長を目論んでいる。
東京で名店モンドモトを営み、全日本エンデューロでもメカニックとして「顔」である市川健二氏も、若かりし頃に同じようにKTMへ渡っている。「メカニックやマネージャーが、元世界戦のチャンピオンだったりするんだ」と市川氏に聞いたことがある。実際、ヤマハファクトリーのマネージャーは、フランスのトロフィーチームだったマーク・ブルジョワだし、田中太一の面倒をみてくれたKTMのメカはエルズベルグの予選で1桁位に入るクアッドのレーサーだった。想像するに、とにかく濃厚。まわりは、みなとんでもない経歴の持ち主なんだろう。
「Enduro GPに出たときは、コース内容やルール、そもそもの文化に違う部分を多く感じた。たとえば、メカニックの持つ権限が顕著に違ったし、ライダーの立ち居振る舞いやスター性ももちろん、観客達からのリスペクトが大きく違う。
ただ、上記は動画とかを見ただけでもわかることでした。僕はこのイタリア修行で動画では感じ取れないことを持って帰ることができると思うし、それを後の世代に伝えていきたいとも思います」と大神は言う。今年もエルズベルグロデオへ挑戦する石戸谷蓮、IAルーキーの保坂修一・飯塚翼など、若手がエンデューロシーンで目立ち始めている。きっと、この数年でさらにエンデューロシーンは変わるはず。
大神智樹の「エンデューロスターへの道 in イタリア」
というわけで、1月30日から渡欧する大神智樹が、Off1.jp上で週刊コラムを寄稿してくれることに。
ぜひ、お楽しみに!!