JEC最終戦SUGOで鮮烈なデビューウィンを飾ったFIM規格のタイヤ、E50。Off1.jpでは、近年FIMタイヤに異変が起きていること、それを請けてブリヂストンがE50を生み出したことを掲載してきた。
この稀代のタイヤを、日本のエンデューロメディア第一人者であるビッグタンクマガジン春木編集長にご試乗いただいた。2006年のISDEニュージーランドでは完走を遂げており、ジャーナリストとしてだけでなく、エンデューロライダーとしてもタフで一流。
タイヤウォーズは次のステージに
エルズルグロデオやルーマニアクスに代表されるハードエンデューロのムーブメントと、そこから生まれた、タイヤのニュージェネレーション「ガミータイヤ」は、そのジャンルにとどまらず、オフロードタイヤのマーケット全体を刺激し、新たなタイヤウォーズを勃発させた。
FIMエンデューロタイヤという、トラディショナルな公道を使用した競技のために存在するタイヤの一群にも「戦火」は波及。これまで長い間、ユーザーを刮目させるような変化がなかったFIMエンデューロタイヤも、ようやく次のステージに入ったようだ。
厳しい要求性能の呪縛
ブロック高13mm以下、公道を安全に走行するためにスピードコード(速度指標)45M以上で設計されていることがFIMエンデューロタイヤのレギュレーション。だが、もっと重要なことは、1セットのタイヤで、1日250〜300kmを走り、最後のタイムトライアル区間(スペシャルテストと呼ばれる)でも、全力でアタックできる性能を保つ耐久性が欠かせない。しかも、同じく1セットで、あらゆる路面に対応しなければならない。耐久性、オールラウンド性を高い次元で両立させながら、グリップ力を追求する。タイヤにとってこれ以上ないほど厳しい要求と言えるが、だからこそ、FIMタイヤはこれまで大きく変化してくることが難しかったということも言える。
そこから一歩前進したテクノロジーを持つタイヤが、この製品、BATTLECROSS E50だ。柔らかいコンパウンド、排泥性の高い斬新なデザインのブロック、高い接地圧とエッジ効果を発揮する凸状の「キャッスルブロック」。トレッドデザインを見ただけでも、これまでとは違う性能を期待させるタイヤなのである。
いつもより高めの空気圧でテストした理由
試乗は、千葉県の成田MXパークで行った。全体にはドライだが、雨の影響が残っている部分もあり、また、丸太やロックなどが人工的に配置されたハードエンデューロ的なセクションもあり、タイヤの評価にもぴったりのしシチュエーション。車両はKTM150XC-Wだ。BATTLECROSS E50のリアには、120と140の2種がラインナップされているが、軽量な車体にあわせて120をテストすることにした。
空気圧は、フロント1.0、リア0.8に調整。いつもはもう少し低圧にすることが多いのだが、実戦のエンデューロではムースを使用することも多いので、少し高めにしたのだ。
軽快さと柔軟性
最近は、ハードエンデューロ用のガミータイヤを普段履きにしていることが多いこともあってか、まず、コーナリング性能が素直で、パワーロスも少ないと感じる。バイクの軽さがスポイルされることがなく、スロットルレスポンスもいい。
森の中のウェット路面に入ってみる。FIMタイヤとしては、低速域でもグリップ力を実感しやすい。木の根などの障害物に対してのクッション性も良好だ。
丸太が連続するセクションでは、やはり軽快で、きびきびと走ることができるのが好印象だ。低速でのグリップがいい反面、車体を鈍重にしてしまうタイヤもあるが、E50はそれとは正反対の性格と感じる。
ハンドリングをスポイルしない
全方位的な高性能
ロックセクションに入ってみる。軽快なタイヤでありながら、ガミータイヤ的なクッション性もあって、すこぶる乗りやすい。あえて、岩の間にタイヤをストップさせて再発進させようとしてみると、ここでも少しガミータイヤっぽい路面のつかみ方をしてくれる。本格的なガミータイヤのようには強力ではないが、FIMタイヤとしてはなかなかだ。
全体としては、マシンの特性をスポイルしたり、大きく変化させることなく、全方位的に性能をアップさせるタイヤという評価をしたい。岩場を走り、次は牧草地を走り、時に泥沼を漕いでいく。それもなんとか進めばいいというのではなく、1/100秒を競って戦う。そんな状況をイメージした時、このタイヤが追い求めるものがより明確に見えてくる。