2025年モデルとして登場したTM MOTOのエンデューロバイク「EN 250 ES Fi 4T」。モトクロスの血統を色濃く受け継ぐこのマシンは、真のエンデューロ競技を走るために設計された本格派だ。今回は、このイタリア製エンデューロマシンの特性と、その乗り味を深掘りしていく

TM Moto
EN250 ES Fi 4T
希望小売価格:¥2,022,900(税込)
戦闘的な車体特性と独特のポジション
いかに少量生産のオフロードバイクレーサーとは言え、ほとんどのメーカーでライン生産が取り入れられているのが通常。しかしTM motoの工場だけは職人が一日一台、丁寧に組み上げられていく。事情は違うだろうが、フェラーリですらライン生産で効率化をはかっているというのに。その乗り味は、まさに唯一無二。時代に迎合すること無く、ひたすら本物のエンデューロマシンを追い求める。このEN 250 ES Fi 4Tも、4スト250というエントリー層向けのマシンながらひたむきな姿勢は変わることが無い。

最初に乗車した瞬間に感じたのは、圧倒的な「高さ」だ。身長180cmの僕でさえ、両足の母指球がほとんど地面に届かないほどのシート高。これだけでも、このマシンが本気のレース志向であることがわかる。極端に腰高なポジションが特徴的で、他のエンデューロバイクとは一線を画す視点の高さだ。

PHOTO/Shota Kawakami
TM Motoのバイクは、すべてこのスパルタンでレスポンスの早い特性を持っている。ぱっと初心者が乗って「乗りやすい」とは感じづらいし、特にユースライダー向けの2st 125ccなどはカリッカリに高回転まで回して乗らなければ走らない純粋なレーサーだ。2スト250/300ccは昨今のハードエンデューロを意識してか、かなり扱いやすいものの、油断するとそのスパルタンな性格が顔を出す。そういったラインナップの中では、このEN250 ES Fi 4Tは幾分扱いやすい入門車と言えるかも知れない。
誰にでも乗りこなせるバイクではないことは確かだ。しかし、その特性を理解し、受け入れることができるライダーには、このバイクは技術向上と共に無限の楽しさを提供してくれるだろう。
走り出してもその独特さは健在で、中でも特筆すべきは前後の動きやすさである。今まで体験したことがないぐらいシート上での前後移動が楽なので、ギャップやコーナーでの体重移動が格段にしやすい。シートがフラットなだけでなく車体全体の作り方がフラットなのだと思う。多くのオートバイは「ここに座るべし」というポイントが暗に示されていて、そこを外れるとライダーは若干の傾斜を感じとる。「ここは少し前です」「ここは後ろです」とシートがお知らせしてくれるのだが、TMの場合はそれがない。かなり前に意図的にポジションを取っても、前に座ってる感触が一切ないので最初は戸惑ってしまう。だが、乗り込むにつれてどのポジションでも自然に座れることの強みが理解できてくる。特にコーナリングで「前に座れ!」と言われるコトが多い人には、なぜ自分が今まで前に座れていなかったかが身体で理解できるはずだ。
サスペンションの特性も独特。一般的なエンデューロバイクより明らかに反応が早く、小さなギャップでも明確にフィードバックが返ってくる。このため、常に先読みして積極的に操作する必要がある。まさにこのあたりが、このバイクの特性をよく表している。
バチンと弾けるトルク特性が生み出す独自のエンジンフィール
2025年モデルは旧モデルより「マイルドになった」と言われているが、実際に乗ってみると、その「エンデューロのテストでタイムを狙う」という本質的なキャラクターは健在だ。エンジン特性は依然としてスパルタンで、弾けるようなトルク特性が特徴的である。
アクセルを開けた時の反応は、バチンッとゴムか何かが弾けるようにリアタイヤが地面を蹴っ飛ばす独特の加速感がある。これはモトクロッサーのスロットルを開けた時の鋭いレスポンスとも異なっている。ギャップの多いセクションでは、この特性が顕著に現れる。リズミカルに走れている時は小さなギャップとこのアクセラレーションを組み合わせて気持ちよく飛んでいけるが、疲れてくるとグダグダになってしまう。全然休めないという感覚は、このバイクがエンデューロのスペシャルテストでタイムを出すための純粋なレースマシンであることを思い出させる。
なお、排気音も特徴的で非常に豊かなトルク感が感じ取れる。また、2025年モデルで排気系が従来の2本出しから1本出しに変更されたことで、リア周りが軽量化され、振り回しやすくなった。パワーダウンは全くなく、むしろバランスの良さが向上した印象だ。
車体のレスポンスが早い
二輪車は、レスポンスが早いものと、遅いものに大別するとその性格が理解しやすい。究極に早い二輪車はBMXだ。サスペンションを持たないので、路面の衝撃や動きが極めてソリッドにライダーに伝わる。MTBはBMXよりはマシだけれど、それでもバイクに比べると凄まじく早い。MTBのジャンプは斜面が短いこともあって、バイクのジャンプとは踏み切る感覚がだいぶ違うし、荒れた路面で帰ってくるフィードバックも圧倒的に早く鋭く、ライダー側が先行して動く必要がある。TM Motoのエンデューロバイクは、バイクという同じセグメント内で言うと圧倒的にレスポンスが早い方だと思う。ライダーが先に動き、考え、対処することを強く要求する。衝撃をバイク側がいなしてくれて、ライダーの仕事はあまりない、という類いのマシンではない。ただ、フレームは強靱で、がしっと衝撃を受け止めてくれる感触があるから、懐は非常に深い。たぶん、何をしたって上級者以外はフレームを壊すことができないだろう。一般的なエンデューロバイクとは真逆なのだ。
走行後の疲労感は確かに大きい。攻めることを要求されるから疲れるのだ。この正直な感覚は、このバイクの性格をよく表している。しかし、フィジカルを鍛え、トレーニングを重ね、テクニックを磨くことで、このバイクが最高に面白いという境地に到達できるハズであることも感じ取れた。

PHOTO/Shota Kawakami
SPECIFCATIONS
項目 | 仕様 |
---|---|
エンジン種類 | 4ストローク単気筒 |
排気量 | 249.6 cm³ |
ボア | 77 mm |
ストローク | 53.6 mm |
ECU | eMoticom |
変速機 | 6 速 |
始動方式 | セル |
クラッチ | 湿式多板 |
燃料タンク容量 | 7.5 L |
スロットルボディ | TM Moto |
キャブレーター | -- |
乾燥重量 | 103 kg |
シート高 | 970 mm |
最低地上高 | 345 mm |
フロントサスペンション | KYB Φ 48 mm |
フロントキャリパー | Brembo |
フロントブレーキディスク径 | 270 mm |
フロントサスペンショントラベル | 310 mm |
リアサスペンション | TM Moto |
リアキャリパー | NISSIN |
リアブレーキディスク径 | 242 mm |
リアサスペンショントラベル | 300 mm |
キャスター角 | 63° |
フレーム形式 | Self-tempering aluminum deltabox type, single-beam, with extruded, forged and microcast details |