ヨツバサイクル、ヨツバモト、開発中のGE-N3と、オフロード用品に限らず車体そのものをリリースしてきたダートフリークの次の一手は、e-MTB。早速、生まれの地である愛知県瀬戸市のトレールで発売前のe-Edit275を試乗をしてきた

MTBを選ぶのに大事なのは、上り系か下り系か

ダートバイクはモトクロス、クロスカントリー、エンデューロ、トライアルと様々な競技に分かれていて複雑……と思われがちだがMTBの世界も負けてはいない。ざっくり言えば、そのカテゴリーは「上り」か「下り」かに分かれているのだが、その中でもさらにスピードを競うもの、マラソン的な走りを追求するものなどがあり、その楽しみ方の性質によって手に入れるべきバイクは変わってくる。自転車好きな人が何台も自転車を持っているのはそのためだ。いろんな楽しみ方をしたいので、新たなジャンルに飛び込もうと数十万円の自転車がいつのまにかガレージに増車されている家の奥さん、諦めてください。末期です。

画像: Balazs Palfi / Red Bull Content Pool クロスカントリーはペダリングが基本。マラソンのようなタイプの種目だ

Balazs Palfi / Red Bull Content Pool クロスカントリーはペダリングが基本。マラソンのようなタイプの種目だ

オリンピックに採用されているMTB競技はクロスカントリーで、上り系の代表格。このクロスカントリーはMTBの楽しみ方の中でも少し異質で、ロードバイクのヒルクライムのような上りを含む全地形を走るカテゴリーだ。下りよりも上りが圧倒的に多いため、漕いでバイクを前に進めることが前提で、強いフィジカルが求められるMTB界のマラソンのような競技といえる。(※ただし、現代のクロスカントリー競技は下りのスキルも問われるようになっていてちょっとややこしい)

画像: Karolina Krasinska / Red Bull Content Pool 200mmほどの長いサスを使うダウンヒルは、下り系MTBレースの最高峰

Karolina Krasinska / Red Bull Content Pool 200mmほどの長いサスを使うダウンヒルは、下り系MTBレースの最高峰

ダートバイクのレースに近い分野は、下りのカテゴリーである。その最高峰のダウンヒルは、200mmというオートバイ顔負けのストロークを持ったサスペンションを武器に、難しいシングルトレイルの下りをひたすらかっ飛ばしていくスポーツだ。世界レベルのDHライダーが出す最高時速は80km/hにも達し、この分野にはかつてHRCがプロトタイプのダウンヒルバイクで参戦していたこともある。

下り系のMTBが面白いのは、ファンライドの観点から見ると必ずしもストロークの長い、性能のいいサスペンションだけが求められているのではないところだ。サスペンションが長すぎるとギャップなども楽に走れてしまい、無駄にスピードが上がってコントロールが難しくなる。簡単すぎるとコースを楽しむことができなくなってしまうのである。大抵は、140〜170mmくらいのストロークのフルサスMTBでトレイルや、ダウンヒルコースを楽しむのがMTBライダーの楽しみ方の主流となっている。

全てを剥ぎ取った先に、新しいMTBの楽しみもある

2000年台中盤、ピストバイク(ペダルとタイヤが直結されていて、漕ぎを止めてもペダルが進むという恐ろしい乗り物。競輪はみんなコレ。流行ったんですな、これが)が渋谷でスキール音を響かせながら走り回っていた頃、MTB界隈にも静かなブームが起きつつあった。ピストバイクはブレーキワイヤーすらないシンプルさが美しいのだが(※ブレーキを装備しない自転車で公道を走るのは法律違反)、その美しさにならうようにMTBの世界にもいろんな機能を剥ぎ取っていく人たちが現れたのである。ブレーキこそ外さなかったが、変速機を外してシングルギアにし、サスペンションを取り払ってリジッドフォークにし、アルミではなくクロモリのフレームを好み……そういったプリミティブな自転車の姿と乗り味こそが魅力であるとされた。サスペンションが無ければ身体の動きでギャップを吸収すればいい、これがむしろ路面との対話を積極的にさせ、よりスポーツとして楽しむことができたのだ。軽いギヤの力を借りず、己のフィジカルで峠を越えるストイックさも楽しかった。

画像: Robin O'Neill / Red Bull Content Pool スロープスタイルと呼ばれる競技。ピタピタに固められ整備された路面のため、ハードテイル(リアリジッド)での参加も多い

Robin O'Neill / Red Bull Content Pool スロープスタイルと呼ばれる競技。ピタピタに固められ整備された路面のため、ハードテイル(リアリジッド)での参加も多い

もうひとつ別の文脈も紹介しておこう。バイシクルモトクロスの略であるBMXは、まさにシングルギア・リジッドサスペンションのバイクを使う。BMXのフィールドはMTBより硬く整地されていて走りやすい(むしろ土である必要は無く、アスファルトのコースも!)のだが、ジャンプはそそり立っているし、車体が小さいからレスポンスが鋭くて操作が難しい。BMXのテクニックである車体を下り坂(あるいはコーナー)に押しつけることで加速する「プッシュ」は、MTBを扱う際のスキルにも直結する。そして、MTBにもBMXのようにリアリジッド・フロントショートサスのバイクでジャンプやバーム、パンプトラックを楽しむダートジャンプというカテゴリが存在している。これもまた、MTBのプリミティブな楽しみ方のひとつと言えるだろう。

長々と前置いたが、MTBはフルサスペンションの世界と、リジッドサスペンション(あるいはショートサスペンション)の世界が存在していて、どちらも楽しくそしてディープである。いろんなMTBの楽しみ方を知っている人が各地に存在していて、グルのように仲間を集めては週末に飛んだり下ったり登ったりしている、それがMTBワールドだ。

類を見ないフルリジッドのE-MTB

画像1: 類を見ないフルリジッドのE-MTB

CROSS SECTION
e-Edit275
¥297,000(税込)

e-MTBが世の中に出始めた頃は、リアのみリジッドのクロスカントリー系モデルが多かったのだが、今思えばこれはマーケティング不足だったと言わざるを得ない。上りを楽しみたい人というのは自分の脚で上りたいからだ。むしろe-MTBの本領は下り。それまで苦労して人力やトランスポーターで運んでいた上りを楽にアシストで上り、極上の下りを楽しもうというわけである。もう少し突っ込んで言うと、つまらなかった上りが電動アシストが導入されたことでスキルスポーツになり、上りも下りも最高に楽しめるe-MTBが今の主流なのだ。

そこで、あらためてダートフリークの新e-MTB「e-Edit275」を見てみよう。前後フルリジッドというのが最大の特徴である。タイヤは27.5インチ、フレームのジオメトリーはMTBに通じた開発者がしっかり監修して設計されたもので、キャスター寝気味、オフセット短め、重心低め、ホイールベース長めで下り基調。MTBの世界戦では難易度が上がり、年々急な斜面を駆け下りることが多くなったことからこのようなフォワードジオメトリーと呼ばれるものが最新トレンドとなっていて、フルリジッドなのに下り基調で作り込まれているところがこの車体のミソである。MTBに親しんだ人なら、このe-Edit275のフレームの形状を見てすぐに「あ、これは今のトレンドをわかってる人が作ったものだ」とピンと来るはず。ダートバイク同様、MTBも1年ごとにモデルチェンジを繰り返すほど、細かなトレンドや機材進化を重ねていて、10年前のMTBと今のMTBではまるで別の乗り物なのだ。

画像2: 類を見ないフルリジッドのE-MTB

早速跨がってみると、フロントタイヤの見える範囲が広く、少しフロントタイヤが遠めに感じる。ハンドルは近く、しっかり下りでバイクを押さえ込める位置関係になっていて、下りを存分に楽しめるよう作ってあることがわかる。試しにe-Edit275でバームが続く下りのトレイルを走ってみると、路面に吸い付くように走ってくれて最高に楽しい。フォワードジオメトリーは、急坂の下りでも前転モーメントが置きづらいとのことだが、今回はだいぶガレた路面を下った時にそのメリットがわかりやすかった(とはいうものの、スキル不足であっという間にバイクを押すことになったんだけど……)。高めのハンドルも昨今のトレンドだということだが、これも下りにあっているなと感じた。ロー&ロングなフレームは、トレイルにマッチしている。最近のMTBに乗った経験はあるものの、旧世代のMTBに慣れ親しんだ自分としてはここまでジオメトリーの違いで安心感が違うものか、と思った。地面を這うようなスムーズな走りなのに、ハンドリングはとても軽い。e-Edit275は、リジッドサスペンションでも安定して下りを楽しめるジオメトリーになっているのである。さらに開発部のA氏は言う。「ダウンヒルから、ツーリング。それに街乗りまでで一台で何でも出来るんですよ。そうですね、言うなればe-MTB界のセローのようなものです」

そう言われてみると、あとからユーザーが変更できる範囲のパーツがとてもセロー的に見えてくる。純正のブレース付きハンドルはあまりMTBでは見ない形だが、オートバイのホルダーなどをかませられる22.2mm径のブレースになっている。スマホホルダー、ドリンクホルダーなど様々なものをアイデア次第で装着できるだろう。フォークの脇、メインフレーム上にはキャリアをつけられるダボが山ほど埋め込まれているし(これは旅自転車としてとても大事な性能なのだ)、バッテリーの上にも標準装備としては珍しいキャリアが据え付けられている。サドルは座面が広く、お尻が痛くならないものがチョイスされているなど、なるほどこれは確かに、平日はカゴをつければ買い物自転車にもなるだろうし、110kmの航続距離あればツーリングにだって出かけやすいはずだ。

画像3: 類を見ないフルリジッドのE-MTB
画像4: 類を見ないフルリジッドのE-MTB
画像5: 類を見ないフルリジッドのE-MTB

フルリジッドで販売されるもうひとつの理由

ただ、僕はこのe-Edit275をセローだとはあまり思えなかった。今回は開発中のフロントサスペンションを装備したプロトタイプのe-Edit275にも乗る機会を得て、その走りにセローらしからぬスポーツ性を感じたからだ。取り付けられたサスペンションは150mmとそこそこ長めで、いわゆるトレイルと言われるカテゴリーに属するMTBに装着されるタイプのものだ。下り系のジオメトリを持つフレームと組み合わせると、これが強烈に楽しい乗り物になった。先にe-MTBは下りのためにあるのだ、と書いたのだがその真価が発揮されたのはやはりサスペンションを得た車体だった。身体でギャップをいなして走るリジッドも楽しいが、やっぱりフロントにしっかりしたサスペンションがあると手首に伝わる嫌な感触がない。日本のトレイルは整備されているとは言え、自然の地形なので気持ちいい場所だけではないから、スポーツとしてe-Edit275を楽しむならサスペンションがあった方が万人受けはしそうだな、と思った。

画像: フルリジッドで販売されるもうひとつの理由

フロントサスペンションは、お金をかければ極上のものが手に入る。ブランドものにこだわりたいという見栄もふつふつ湧き上がる。A氏は明言しなかったが、むしろコアユーザーのサスペンションは自分で選びたいという欲求をくみ取って、前後フルリジッドのパッケージで市販したのではないだろうか。サスペンションを標準装備にしてしまうとリジッドフォークよりも車体価格が上がってしまうし、ユーザーは低価格帯のサスでは満足できないだろうことをMTBフリークであるA氏は知っている。だったら完成車の値段を上げるよりも、ユーザーに選ぶ余白を残した方がいい……そんなことを考えたのかもしれない。もちろん、フルリジッドのままでも相当荒れたトレイルを走り込めるほどに、e-Edit275はリアルMTBだからこのままある種の不自由を楽しんでもいい。何より、下り系のe-MTBが60万円くらいの価格帯でさらに円安で価格があがっている最中、税込みでも30万円を切るプライシングは唯一無二の存在になるのではないだろうか。

e-MTBとしての性能

e-MTBなのに全然電動アシストについて触れないのもおかしな話だ。最後に簡単にまとめておきたい。自社開発のドライブユニットは、コストのかからないハブモーターではなく、車体バランスのいいセンターモーターを採用。モーター出力は65Nm(最大)250W、バッテリーは504Wh(36V、14.5Ah)、e-MTBとして十分なスペックを持っている。

画像1: e-MTBとしての性能

GARMINの心拍センサーを付けて実際に険しい瀬戸の公道と林道を上りまくったのだが、最強アシストの「BOOST」モードにすると急坂でも心拍数は120あたりから上がらずほとんど運動にならない。最弱の「ECO」モードで140くらいまで心拍数が上がるのだが、息が切れるなどということはない。アシストを完全に切ってもフレームの素性がいいのか、一般的な自転車とそう変わらないレベルの負荷で上ることが出来る。テストライドは8月の酷暑の中、30km弱をゆっくり4時間かけておこなった。GARMINのデータによると、総上昇量633m、消費カロリー1,133kcal、のこりスタミナ73%とカロリーだけはかなり消費しているものの、スタミナにはほとんど影響がない運動強度である。モトクロスで5回のヒート練習をすると、3%もスタミナが残っていないことを考えると、いかにe-MTBMTBがイージーに楽しめるスポーツかがわかるだろう。ただ、要所でバイクを押してあげなければいけないような急坂があったのだが、こういう場所ではe-MTBならではのずっしりした重さがとても辛かった。日本以外ではウォークモードという押しの時に極低速で自走してくれる機能を実装しやすいのだが、日本では法律上そのハードルが高い。早く、規制の緩和が進むことを祈りたい。

画像2: e-MTBとしての性能

e-MTBは日本で公道を走れるようにアシストに規制が入っているから、どれだけパワーがあるかというような話はあまりインプレッションする意味がなく、自然なアシストかどうか、ペダリングに対してのレスポンスがどうか、などが評価の軸になる。e-Edit275は新規参入の自社開発ユニットであるにも関わらず、とても高いレベルにあると感じた。停車状態からペダルを踏み込む瞬間のラグのなさなども、MTBを知る人だからこそ満足のいくレベルに仕上げてあるのだと思った。

MTBはコンセプト勝負の機材だ。開発者が考える楽しんで欲しい方向性を、自由自在に商品に反映させることができる。フレームのジオメトリからはじまり、サスペンションの方向性、タイヤの大きさなどなど、こだわりぬいたパッケージから得られるMTB体験はそれぞれに素晴らしさがある。A氏が日本のユーザーのために考え抜いた、セローのようなこのe-Edit275からも「日本の里山を走るのに、最高の出来映えでしょう?」と話しかけられているかのようであった。

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