2023年のダカールラリーをデビューイヤーながら見事完走、2024年にはステージでも好リザルトをマークしたKOVE450ラリーが日本へ続々入荷しはじめている。超ロングディスタンスをこなせるKOVE450ラリー、果たしてワンタンクでどれほどの超長距離走行が可能なのか……身体を張って実験してみた!
ロマンがたっぷり詰まったパッケージ
世はアドベンチャーバイク時代。どのバイクメーカーも競うように大きなサイズのオフロードバイクあるいは、それに準ずるモデルを矢継ぎ早に発表し続けている。ガチのオフロードバイクファンしかいないOff1.jp編集部としても、もちろんこの流れは無視できずトライアンフTIGER1200を入手して日々ツーリングを楽しんでいるところだ。これらアドベンチャーバイクの魅力は、ラリーのイメージを想起させ冒険心を煽るルックスや、ライディングポジション、オフロードを走れる(走れそうな)性能などが挙げられるのだが、それらの魅力を究極まで高めていった先にはひとつの原点ともいうべき姿がある。つまりラリーバイクだ。
今年から日本へ続々入荷が始まっているKOVEの450ラリーを見てみよう。オフを走れるどころか、ダカールラリーを完走する実力を誇るリアルラリーバイクである。日本に入ってきているパッケージは、騒音対策や排ガス規制などを乗り越えているためにパワーもそこそこだったりするけれど、そのエンデューロマシンさながらの純粋にスポーツライディングに振ったライディングポジションや、ラリー中にトラブルに対応するためさっとタンクやカウルを取り外せる構造は、いわゆるアドベンチャーバイクの類いとは一線を画す仕上がりだ。快適性やメンテナンスフリー性はアドベンチャーバイクに譲るものの、もちろんオフロードを走らせたら究極なまでに高い実力を誇り、オフロード好きにとってのライディングプレジャーは何にも代えがたい。
そんなラリーバイクのロマン、象徴ともいうべき装備であるKOVE450RALLYのビッグタンクにはなんと30Lもの燃料を入れることが可能だ。本国のサイトには、スタンダードタイプの場合14Lと書いてあるのだが、これはリアタンクを使わないことを想定した数字である。日本のKOVEジャパンのホームページにはリアタンクも燃料タンクとして使うことを想定した30Lと書いてあり、燃料ホースを繋げることで車並みの燃料タンク容量を実現できてしまうのだ。一体30Lもあって、どこに行くというのか。どこもかしこもガソリンスタンドのある日本で、必要があるのか。いや、必要があるか無いかではないのである。この30Lのガソリンで、普通のバイクでは到底なし得ない距離を無給油で走りきることに、意味が(?)あるのだ……というわけで、編集部はKOVEだから神戸という雑な理由で東京〜大洗神戸間を一気に走りきる、名付けて「KOVE de 神戸」実験取材を敢行してきた。
一日走りっぱなしでも余裕な長距離適性
渋滞を嫌って朝7時(編注:遅すぎるだろ!)に東京都練馬区の編集部を出発。まだ気温10度付近の春先だったこともあってクシタニのフォワードアドジャケットをお借りした。
オールシーズン向けにあえて中綿を仕込まないフォワードアドジャケットに、フリースとインナーダウンをレイヤリングすると、ラリーバイクにベストマッチなスタイルが完成する。アドベンチャーバイクの場合、前傾姿勢ではないことや、できるだけスポーティに走りたいという気持ちも強いため、軽い着心地のフォワードアドジャケットはとてもいいチョイスだった。とにかく動きやすくて、このままモトクロスくらいなら軽くこなせそうである。
さて本題のKOVE450ラリーだ。以前、オフロードでのインプレッションはお伝えしているが、公道での走行は初めてとなる。30Lフルタンクで走るとさすがに重さを感じる。とはいえ、元々レーサーだから車重は軽くて(フルタンクで170kg。なお、ホンダNC400Xは199kgほど)、トレールバイクの400ccクラスくらいの操作感。水との比重0.7ほどだから、おおよそガソリンだけで21kgほど。低学年の小学生をひとりタンデムしているくらいだと思えばいいだろうか。とはいうものの、できるかぎり下方に伸ばされたガソリンタンクのおかげで、バランスは悪くない。レーサーだからさぞかし荒々しい乗り心地なんだろうと思いきや、90年台の国産トレールくらいの乗り心地で実にジェントルである。エンジンもとても素直だ。
環七を走っていても、交通の流れをリードするだけのトルク&パワーが十分にあって快適だ。車体も細いから、これで毎日渋滞する都内を通勤しても苦ではないんじゃないだろうか。ありあまるパワーで、むしろ通勤快速車になり得る。XR250RやXR400Rを林道と街で併用するライダーは多かったように思うけど、ちょうどそんな感じ。僕もXR250Rで通勤していたことがあって、なんだか懐かしくなった。しかしそうなると、お尻の痛みが気になってくる。なんせ90年台のバイクは長い距離走ると必ずお尻の鈍痛に悩まされたものだ。
東名高速に入るとラリーバイクがいかに長距離に向いているかを思い知らされることになった。直進安定性がすこぶる高く、オフロードバイクにありがちな高速域での振られも一切無い。120km/h規制の新東名高速道路でも、しっかり120km/hで巡航できるし、まだまだ余裕があった。近頃のダカールラリーは160km/hで巡航することもあると言うから、まぁ、そりゃそうだろうな。ハンドリングはまるでステアリングダンパーが効いているかのようにびたっと安定していて、バイクが傾いてもほとんどセルフステアする感覚がない。セルフステアしないから、寝かしても勝手にバイクが立ち上がってくることがほとんどなくバンクしたまま、という感じ。これは賛否両論あるかもしれない。ホンダ的というよりは、ヤマハ的と言ったらいいだろうか。パワーはどうか。450ccのトルクで追い越しも楽だ。もちろん800ccやリッタークラスのアドベンチャーバイクに比べたらだいぶ快適性には劣るけれど、これでいいのだと思える。これ以上快適性を求めるなら、車でいいじゃないか。俺たちオフロードファンの快適性閾値は低いのだ。だよね?
まさかの早すぎるエンプティ。しかし航続距離はすげぇ
ところが。ひたすら走っていると、フューエルメーターの減りが意外に早い。というかメーターがあまり安定しない。表示は8目盛りあるのだが、1目盛り行ったりきたりするのではなく、2目盛り戻ったりすることもある。実際には燃料があるけど、センサーの位置と油面の関係が安定せずに表示が行ったり来たりするのだろうか。KOVEに搭載された燃費計は、4.7L/100kmと表示されている。日本人が慣れ親しんだリッターあたりの燃費で言うと21.2km/L。30Lの燃料で638km走れるはずだ。
そうこうしているうちに、新名神高速道路の鈴鹿パーキングを過ぎたあたり、出発からおよそ350km地点で残り2目盛りに。むう……そんなわけないはずなんだが、と思っていたら土山PA前でエンプティのコーションランプが点灯してしまい、出発から415km地点で給油を余儀なくされてしまうことに。ところが、給油してみるとガソリンは18.4Lしか入らない。燃費計算すると22.5km/Lであり、前述したメーカーの想定燃費とほぼ同じ。これはやはり燃料レベルセンサーの仕様なのだろうか。仕方が無いので満タンで神戸を目指し、後の給油量でトータル走行距離を出す作戦に変更することにした。
土山から神戸までは150kmほど。目と鼻の先とはこのことだ。ぼちぼち昼ご飯を食べながらゆっくり神戸に向かって18:00前に到着。全行程548.2km、神戸についてから入れたガソリンは5.27Lだったので、土山から神戸までの燃費は23km/Lといったところ。ガソリンはトータルで23.83L使ったので、満タン30Lで690km走れる計算になる。これは東京から岡山の新見市あたりまで行けるということだ。すげぇ。だから何だという気もするけど、すげぇことだ。朝出発して、一度もバイクから降りずに岡山に入れるわけだ。編集部の日産NV350で東京〜島根間を往復したばかりなのだが、滋賀県草津PA(434km)までしかもたなかったことを考えるととんでもないことだ。
KOVE輸入元のバトンバイクス大塚さんによると、元々450ラリーはリアタンクを燃料タンクとして使う想定をしていないとのこと。燃料レベルのセンサーも、フロントタンクを使う想定で組み込まれているはずで、そのためエンプティの分量がおかしくなってしまうのだろうとのことだった。大塚さん曰く、30Lはロマン。日本のラリーレースを走るなら、フロントタンクの14L(今回のデータによれば322kmは走ることになる)で十分だし、あえてフルタンクで重くすることもない。もちろんロマンを追い求めて30Lタンクを運用するのは、個人の自由である。でも、僕ならいつも30L入れておいてみんなに自慢してまわりたい。丸一日、450ラリーを乗って思ったんだけど、やっぱりこの本物のラリーバイクで公道を走れること自体がすごくプレミアムな体験で、誇らしく思えた。こんなに自己満足度の高いアドベンチャーバイクは他に無いんじゃないだろうか。あ、そうそうお尻の鈍痛は無かった。これもすごいことでした。