キャンオフは大学生とそのOBが主催し、自分たちで走る場所を確立してきたもので、楽しさを追求したフォーマットは究極のサンデーレースとも言える。
信州マウンテンパークはフラット林道のようなモトクロスコースと高低差のあるウッズ、さらにガレ沢もあるバリエーションに富んだコースだ。キャンオフでは毎年このガレ沢がボーナスラインとして使われ、走破すると周回数が1/3周追加される特別ルールが設けられる。そのため多くのライダーが挑戦し、もがき苦しむ姿が名物のようになっていることから、大会名に「ガレ祭り」と付けられるほど。
今年は例年からコースを逆回りのレイアウトに変更。さらにボーナスラインには今まで使用されていなかったヒルクライムや尾根の走行が加わり、これまで以上に楽しめるコースレイアウトになっていた。毎年人気のこの大会は今年も学生・OB(社会人)合計で43チームが集まり大盛況となった。
キャンオフ信州マウンテンパークはこんなコース!
レースのスタートグリッドは早いもの順。このあたりの草レースらしい「ゆるさ」もキャンオフの魅力の一つと言えるだろう。コースの一部でもあるジャンプ台に並び、運悪く斜面に並んでしまったライダーはいきなり助走なしから斜面を上らなくていけない。そして花火の合図と共にローリングスタート方式でレースは幕を開ける。
ローリングスタートということで一周目はマーシャルの先導付き。いつもこのキャンオフ信州の会場でブース出展している「工房きたむら」のきたさんも今回はレースに参加。ホールショットを決める気合いの入りよう!
スタート直後にあるウッズの入口では40台以上が一斉に詰め寄せたために軽い渋滞が発生した。
ボーナスラインのガレ沢登りセクション。これがキャンオフ信州が「ガレ祭り」と称される所以だ。逆回りのコース設定だったが、ここだけは例年通り登りで使用された。
そしてガレを登り切ると待っているヒルクライム。ここを登り切らないと、ボーナスラインの特典は付かない。
ヒルクライムを登った先にある尾根。ほぼタイヤ一本分しかないシングルトレールで、谷側に落ちると復旧は困難そうだ。
さらにウッズの中にもう一ついやらしいガレセクションが誕生しており、ボーナスラインを選択しないライダーにとってはここがコース中で最も辛いセクションだったことだろう。
さらにウッズの奥にはヤチも。オフロードバイクを始めたばかりの学生たちは、こうして様々な路面を知り、失敗しながら走り方を覚えていく。
「男は行くなよ?」と書かれていたが、たくさんの男性が行っていた。なぜかというと、「優しくないライン」がそれなりに難しいから。キャンオフのコースレイアウトは、ハードエンデューロほどではないが、決して初心者向けではない。だからこそ、大学4年間しっかりキャンオフを走り切った若者は、JNCCやJECで活躍できるほど成長するのだ。
FANTICの試乗車XEF 250 Trailを持ち込んだマーシャル・デッシーさん。レース中でも試乗車を貸し出していて、取材班も一度お借りして試乗させてもらった。ナンバー付きのトレールバイクのわりに軽量でヒルクライムもしっかり登ってくれた。楽しすぎてたくさんの人が試乗していたからか、ちょうど筆者が乗っている時にガス欠になり、押してパドックに帰るハメに……。
中学生がぶっちぎり総合優勝!
信州マウンテンパークをホームコースに持つスーパー中学生しゅんが、一人で31周を走り、さらにボーナスラインも15回通過し、+5周の36周。総合優勝/ぼっちクラス優勝に輝いた。実は昨年も出場し一番多く周回したものの、ボーナスラインの登頂回数で逆転され総合優勝を逃していたのだ。今年はJNCCのCOMP-Bクラスに初出場し、クラス優勝も果たしており、将来が期待される若手ライダーの一人と言える。
総合準優勝とペアクラスの優勝を獲得したのは石田トシユキともりーのペア。関東のハードエンデューロを中心にレース活動を行う中堅2人。22周を回った中でほぼ100%ボーナスラインを超えており、+7.3周で29.3周。
トリプルクラス優勝はキャンオフに毎回カップ麺を協賛してくれる「となりにトロトロ」のつーよ、哀戦士ジェームス、YタローションZの3人。15周+2.3周で17.3周。
「キャンオフを支える大人たち」第三回:MRP 三田さん
MRPは「Mita Racing Product」の略。主にデカールのデザイン・制作を請け負っている三田晋さんのブランドだ。様々なレース会場で上の写真のロゴが付いたデカールを見たことがある人も多いだろう。
チームで統一したデカールデザインはもちろん、自分だけのオリジナルデカールも1点から制作してくれる。それでいて超良心的な価格設定で、全国にたくさんのリピーターが存在するサンデーライダーの強い味方だ。MRPは学生が主催を始める以前からキャンオフ東日本に協賛品を送り続けている。
今回のキャンオフでもたくさんのMRPデカールのバイクが走っていた。三田さんにキャンオフとの出会いとサポートについて伺ってみた。
三田晋
「モトクロスをやっている時にデッシーさん(2022年9月キャンオフ信州の記事参照)に誘われてお手伝いに行ったのが、僕とキャンオフとの出会いでした。その後、何人かの学生にデカールを作ってあげて、コースとかでも頻繁に会うようになって、そこから協賛を始めたんです。
最初はモトクロス仲間から中古のウエアやブーツを集めて、それを綺麗にして学生に配っていました。だけど次第にMRPのお客さんがプロテクターとかブーツを送ってくれるようになってきたんです。一緒に手紙が入っていて『僕も大学生の頃にキャンオフに出ていて、今の若い子は社会情勢的に稼ぐのが難しい中で頑張ってレースをやっていて、そんな姿が昔のお金がなかった自分と重なるんです。フォークオイルが漏れてるバイクにニコニコしながら乗っていたあの頃の自分があるから今の自分があります。キャンオフに恩返しがしたいから三田さんにお預けします』と書いてあるんですよ。おかげで僕も自分がカッコをつけるために新品タイヤやケミカルを購入して一緒に渡すようになってしまったんです(笑)。
誰だってお金は大事ですから、身銭を切るってすごく難しいことじゃないですか。でも本当に大事なのはお金そのものじゃなくて、お金の使い方なんです。いい大人が一晩飲みにいくお金があれば、キャンオフの学生にタイヤを買ってあげられるんですよ。
僕が若い頃にお世話になったロードレースのチームの先輩に、とにかく物をいっぱいくれる人がいたんです。タイヤとか工具とか本当にたくさんもらいました。そしてその人は『いつか三田くんが立派なライダーになったら、同じように後輩にしてあげて欲しい』と、そう言うんです。あの時のあの言葉があるから、僕は今こうして下の世代に与えられているんです。そして僕も『俺には何も返さなくていいから、下の世代に同じようにしてあげてほしい』と伝えるようにしています。
今キャンオフに出ている学生たちは本当に恵まれていると思います。だけど、今のキャンオフみたいに間口が広くて、誰かが面倒を見てくれるお手軽なものをモータースポーツだとは思わないで欲しいんです。モータースポーツは危ないスポーツです。ノリでエントリーして整備不良のマシンで走って骨折したとか、誰かに怪我させちゃったとか、起こるべくして起こる事故は防ぐべきだし、そういう危機感をしっかり持って欲しいと思っています。
だから僕がプロテクターやウエア、タイヤなんかをキャンオフに協賛しているのは『協賛品もらった、わーい』で終わらせず、もらった人は自分に何ができるのかを考えてほしいのです。タイヤをもらって1万円浮いたなら、その1万円で遊びにいくのではなくてプロテクターを買ったり、レースに出たり、バイクを整備したり、業界を盛り上げるために使って欲しいんです。それが結果として自分を守ること、他人を守ること、そしてモータースポーツそのものを守ることに繋がる、ということに気づいて欲しいんです」
そしてキャンオフには今回もMRPだけでなく、数えきれないほどの協賛品が集まっていた。
Pulse(MOTUL)
Pulse(LAVEN)
ダートフリーク
MRP(Wave Factory)
Webike
DUNLOP
BOSCH
Vesrah
BRIDGESTONE
となりにトロトロ
キャンオフOB(バイクが速くなる壺)
久しぶりにキャンオフ東日本に伝わる「バイクが速くなる壺」が返還され、次の人の手に渡った。エンデューロIA渡邉誉や齋藤祐太朗も所有していたことがある、伝説の壺だ。
また、レース前日の9月2日は齋藤祐太朗選手の誕生日。日頃からスクールなどでお世話になっている学生たちはサプライズでケーキを用意し、プチお誕生日会が行われた。
次戦は10月8日、キャンオフ西日本主催による全国大会が長野県ONTAKE EXPLORER PARKにて開催される。
Off1.jp撮影の全写真はこちら。