編集部ジャンキー稲垣が、取材者として10年以上撮り続け、ライダーとして憧れてきた日高2デイズエンデューロに挑戦!

バケツリストを更新しよう

画像: JNCC神立に出た時の僕。やられまくり PHOTO/のふくん

JNCC神立に出た時の僕。やられまくり PHOTO/のふくん

オフロードバイクメディアOff1.jpを私物化しながら、世界各国でいろんなレースを取材し、さらには試乗にかこつけていちはやく最新バイクにも乗りまくっているジャンキー稲垣です、こんにちわ。こう書くとさぞかしバイクに乗るのが上手そうに聞こえる僕ですが、何度も何度もお伝えしているとおり、テクニック面では万年オフロードバイクビギナーとして20年変化なし。バイク業界人とは思えないヘタ乗り(本当のやつ)っぷりで、取材でお会いした数々のベテランライダーさんたちを唸らせてきた。中でも、オグショーの小栗さんが、僕がモタードで走る姿を見たときのコメントがもっとも的を射ていて「あんなにアクセルを開けないライダーをはじめてみた」と爆笑していたのが忘れられない。オフロードではなく、アスファルト上でも開けられないのだから、もうどうしようもないことこの上ない。ところが、そんな僕でも、この2年くらいわりと真面目にバイクに乗ってきていて、埼玉県のモトクロスヴィレッジを根城としてスピードに磨きをかけ……いや、すごく粗い紙やすりでなでているくらいには、ちょっと成長できたと思う。目安としては、調子がいい日はモトクロスヴィレッジで1周1分を切れる感じ(コンディションは当然ドライ限定)。サボり気味なウェイトトレーニングもあいまって、10年前よりほんの少し走れるようになった。(とかいって丸太とか練習できてないんだけどな!)

画像: 今年はレソトで乗ったり、ノルウェーで乗ったり、イタリアでTMに乗ったりしてきた。ずるい。自分でもずるいと思う

今年はレソトで乗ったり、ノルウェーで乗ったり、イタリアでTMに乗ったりしてきた。ずるい。自分でもずるいと思う

前置きが長くなったが、そんな僕にとって日高2デイズエンデューロへの出場は、バケツリスト(ジャック・ニコルソンとモーガン・フリーマンが出演する映画「最高の人生の見つけ方(原題:The Bucket List)」で有名になった死ぬまでにやりたいことをまとめたリストのこと)の筆頭だった。毎年、取材者としてシャッターを押し続けてきた。せんだって急逝された永田さんをはじめ、多くのスタッフにお世話になってきた。時に夕食をライダーのみなさんととったりもしたし、長男が生まれてからは取材に合わせて家族でヒダカへ行くのが年に一度の楽しみだ。そんな感じだったこともあり、スタッフやライダーのみなさんの「近く」に立っているつもりではあったものの、真の意味で「内側」にはいないと感じていたのも事実。どこか外の人。通常のスポーツイベントであれば取材者が競技に参加したことがないのは普通だろう。しかし、トップカテゴリーが存在するのと同時に市民マラソン的な側面も持つ日高を取材するにあたってそれでいいのだろうか、と思ってきた。なんせ一度も出たことがないのだ。ライダーとしては、常に憧れ続けてきたレースである。北海道のレースは、木古内STDEと美幌エンデューロに出たことがあるんだけど、どちらも完走にはほど遠かった。ヒダカといえば、北海道で名を馳せてきた本物のエンデューロだ。20年来のエンデューロジャーナリストで、エンデューロファンの僕にとってとても思い入れのある大事なレースである。

画像: 2018年、ヒダカが終わって次の日にスタッフたちで早朝ヒルクライムへ

2018年、ヒダカが終わって次の日にスタッフたちで早朝ヒルクライムへ

画像: メディアはスタッフではないけれど、暖かくむかえてくれたみなさん。選手達と夕飯を囲むことも多かった

メディアはスタッフではないけれど、暖かくむかえてくれたみなさん。選手達と夕飯を囲むことも多かった

なぜ僕が今年ヒダカに出ようと思ったのか。これには、前述した2年間のトレーニングが関係している。ライダーとして何かを目指す、という行為をまったくしてこなかったのだけれど、少し真面目にやっていたら人生ではじめてうまくなれた気がした。もしかすると齢42にして、もう少し成長できるのかもしれない、という手応えを若干感じている。だから、バケツリストにISDE(International Six Days Enduro。6日間かけて競うエンデューロの国別対抗戦。また、一般ライダーが参加できる舞台としても最高峰)参戦を加えてもいいんじゃないか(編集部注:おいおい…)。ヒダカをバケツリストから現実のものにして、リストを更新しよう。そんなことを思ったのだ(ISDE参戦を目標にするんじゃなくて、死ぬまでにやりたいリストに載せるだけだよ?)。

目標はちゃんと自分と向き合うこと。「目標は完走」って言いたかったけれど、簡単すぎたらつまらないじゃん?(編集部注:そんなことないから大丈夫) スタートに立つ、その先はどんなに掛け声かけても実力しか出ないのだから、まずはそれを目指そうと思う。

画像: そもそも2018年にはOff1編集部の伊井がヒダカに出てるんです。僕もいつか出たいと思っていたけど、今じゃない、今はまだ取材をする時だと考えていたし、30代の僕はバイクに乗るより、バイクを編集として扱うことを全うすることに真剣に取り組んできていたから、ヒダカに出ることはないかもしれないと覚悟していた。5年後の2023年、伊井にヒダカの取材を任せられる時がきたので、僕が出ます。そゆことです

そもそも2018年にはOff1編集部の伊井がヒダカに出てるんです。僕もいつか出たいと思っていたけど、今じゃない、今はまだ取材をする時だと考えていたし、30代の僕はバイクに乗るより、バイクを編集として扱うことを全うすることに真剣に取り組んできていたから、ヒダカに出ることはないかもしれないと覚悟していた。5年後の2023年、伊井にヒダカの取材を任せられる時がきたので、僕が出ます。そゆことです

一歩上へ。同じ精神を持つマシン、TM Racingに乗りたい

そうと決まったらバイクだ。会社にあるバイクは、YZ250FX、YZ125、セロー250、アルプ200。YZシリーズはもちろんヒダカで必要なナンバーが取れないので論外として(日高には一部公道を移動路として使うセクションがある)、セローやアルプはどうか。全日本格式でランキングされないいわばエンジョイライダー向けの承認クラスにエントリーしてセローでのんびり走る、という選択肢もあったのだけれど、僕は人生の中ではじめて少し右肩をあげてみようという気になっているので除外。ちゃんとしたエンデューロバイクでヒダカを走ってみたいのだ。

画像: こちらがお借りするTM Racing EN250ES Fi 4T。セミカムギアトレインに、ダウンドラフト&リアタンク、ツインエキゾーストと、独創のバイク

こちらがお借りするTM Racing EN250ES Fi 4T。セミカムギアトレインに、ダウンドラフト&リアタンク、ツインエキゾーストと、独創のバイク

TM Racingに乗りたいと思ったのは、ヒダカに出ることを決めてからわりと早めの時期だった。これは僕のとても個人的な感想なのだけれど、昨今のエンデューロバイクは相当マイルドに仕上がっていて初めてのヒダカを走るにはそれこそうってつけだと思う。特に4スト250クラスはこの僕でさえ少しパンチが足りないかな、と思うくらい。むしろ僕のようなレベルのライダーにはもっともタイムにつながる特性だ(僕はたぶん、CRF250Lで走るのが最速。バイクが速くなればなるほど好タイムから遠ざかる。今まで散々こういうテストをしてきたので知ってます……)。だけど、昨年御嶽エクスプローラーパークでTM Racingのニューモデルに試乗した際、このバイクはそういった味付けとはまるでコンセプトが違うなと思った。溢れる低速トルクに、中速域までスーパーフラットな特性、そしてやたら高回転まで回り、しっかりパワーが出てくるエンジン。あまりに実用的で、「演出感」がまるでない。エンジンはマッピングやその他セッティングによって、味付けをすることができる。ピックアップを鋭くすればトルクがあるように感じるし、弓なりのパワーグラフを描くようにすれば高回転でパワーが出ているように感じる。そういった「演出」がまったくなく、実直にパワーを出している印象だ。車体は恐ろしくガッチリしていて、こちらも一筋縄にはいかない。特に僕のようなコーナースキルのないライダーからすると、車体を勢いを持って路面に押し付けられず、接地感を得られない。時々、TM Racingを乗って「乗りやすい!」というライダーに出会うことがあるが、だいたいそういう人は手練れだ。正直に申し上げて、TM Racingは万年ビギナーに優しいバイクじゃない。

画像: 昨年御嶽でインプレ。今年は2024年の新型をイタリアでインプレしている。モトクロッサーにすごく近いマシンだと思っていたが、モトクロッサーとエンデューロバイクをイタリアで乗り比べたら、歴然とした差があった。これが、ザ・エンデューロバイクだ

昨年御嶽でインプレ。今年は2024年の新型をイタリアでインプレしている。モトクロッサーにすごく近いマシンだと思っていたが、モトクロッサーとエンデューロバイクをイタリアで乗り比べたら、歴然とした差があった。これが、ザ・エンデューロバイクだ

ただ、乗り込んでいくと「そうか! こう乗れば速いんだ!」という瞬間がある。たとえばブレーキングから旋回に向かう瞬間だ。理論的にはブレーキングによってサスペンションが沈みこみ、そのタイミングを逃さずに旋回をはじめることで車体を路面に押し付けられ、安定した鋭いコーナリングができるわけだけど、このタイミングを逃すとTM Racingはまるきり言うことを聞いてくれない。昨今のエンデューロバイク達は、僕らのようなスキル不足のライダーを補って、そんな時もなんとなく曲がってくれるのだけど、TM Racingは甘やかしてはくれないのだ。逆にタイミングが合うと、とても素直に曲がってくれる。ライダー側は常に前向きに攻め続ける姿勢をとりつづける必要がある。ちょっとかっこいいことを言っていいですか。そういう精神性がとても気に入ったのだ。たぶん、このヒダカを終えたら僕はTM Racingのおかげで一皮むけた男になっているはずだ。

なお、TM Racingを輸入・販売しているうえさか貿易の方に無理を言ってヒダカで4ストローク250ccのEN250 ES Fi 4Tをお借りし、IAの池町佳生さんと、IBの草木幸多郎さんとクラブチーム「TM Racing Japan Enduro」をヒダカの間だけ組ませていただくことになった。大変感謝しております。今回から6回に分け、日高参戦レポートを連載していきます。スタートに立つ、と言った以上怪我などしてはいけないし、かといって練習もしなければならない。ただの日常がレースまでの準備期間となったいま、心地よい緊張感に包まれています。練習中の僕にコースで会うことがあったらぜひ優しく接してやってくださいね。

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