G-NET最終戦にエグゼクティブマーシャルという立場で参加し、本気でレースを走った日本人唯一のエルズベルグロデオフィニッシャー、田中太一。そのマシンに装着されていたのはWP XPLOR PROのエアサスペンションだった

オフロードバイクの性能を語る上で最も重要視されるのはサスペンションだと言っても過言ではない。もちろん、市販されているエンデューロマシンにはトレールマシンに比べ、高性能なサスペンションが標準装備されているが、それよりもさらに上級な乗り心地を提供してくれるサスペンションが存在する。それがWP PROシリーズだ。

一時期、モトクロッサーやエンデューロレーサーのフロントフォークにエアサスが多く使われていた。それらのほとんどは数年で姿を消したが、KTMのモトクロッサーSXシリーズでは今もエアサスが使われている。そんなわけでKTMが採用し続けているサスペンションメーカーWPはエアサスの可能性を追求し続け、そのメリットを最大限に活かしたエアサスペンションを開発した。それが今回G-NET最終戦G-zoneで田中太一が使用したマシンに搭載されていたWP XPLOR PRO 7448 AIR SPRING FORKだ。現役時代、エルズベルグロデオではWPの専属メカニックが現地でセッティングしたサスペンションを使用していた田中をも満足させた最新のエアサスとは、どのようなものだったのだろうか?

画像: 田中がライドしたマシンはKTM 300EXC TPI。セットアップはKTM京都が手がけた。

田中がライドしたマシンはKTM 300EXC TPI。セットアップはKTM京都が手がけた。

画像: WP XPLOR PRO 7448 AIR SPRING FORK 希望小売価格:¥412,677(税込)

WP XPLOR PRO 7448 AIR SPRING FORK
希望小売価格:¥412,677(税込)

画像: WP XPLOR PRO 8946 SHOCK ABSORBER 希望小売価格:¥278,710(税込)

WP XPLOR PRO 8946 SHOCK ABSORBER
希望小売価格:¥278,710(税込)

エア圧の調整でキャラクターが変わる
コーンバルブ搭載で懐の深いサスペンション

今回、前後ともにXPLOR PROサスペンションが使われていたわけだが、特にピックアップしたいのはフロントフォークのエアサス。充填するエア圧を変えることで様々な体重のライダーに適合し、ライディングスタイルや競技の速度域に合わせて容易にセッティングを変えることが可能だ。なお、減衰圧のセッティングに一部コーンバルブという円錐形状のパーツが使われており、それが奥でしっかり粘る特性を与えている。

画像: エア圧の調整でキャラクターが変わる コーンバルブ搭載で懐の深いサスペンション

WPが推奨するエア圧は9.6Barを標準値としているが、田中のマシンをセットアップしたKTM京都によると、これはあくまで海外でのハイスピードなレースを想定したもので、日本でこの数値のまま使用すると、硬すぎて乗れたものではない、とのこと。国内で最も多くこのエアサスを販売しているKTM京都では標準体重(75kg程度)で7.8〜8.0Barを推奨している。この数値はKTM京都で購入したサンデーライダーたちが実際にWEXやJNCCなどクロスカントリーレースで使用して好感触を得ている値だ。

画像: エア圧の調整は左フォークに設置されているエアバルブから容易に行うことができる。なお、エア圧によって1G時に初期の沈み込み量が変わるため、フォークの突き出し量を調整してバランスを取っている

エア圧の調整は左フォークに設置されているエアバルブから容易に行うことができる。なお、エア圧によって1G時に初期の沈み込み量が変わるため、フォークの突き出し量を調整してバランスを取っている

画像: ダンパーの調整幅は圧側で15クリック、伸側で20クリックから好みのセッティングを選ぶことができる

ダンパーの調整幅は圧側で15クリック、伸側で20クリックから好みのセッティングを選ぶことができる

なお、田中が今回使用した際のエア圧は7.6Bar。KTM京都が推奨する数値よりも低いのは、G-NET最終戦のコースにはハイスピード区間がほとんど存在せず、ゼロ発進の登りやロック、丸太、激下りなどがその大半を占めているコースだからだ。

画像: リアショックは昨年も使用したWP XPLOR PROをソフト目にセッティングして使用。1目盛あたりの調整幅が大きいため、幅広いシチュエーションに対応可能だ

リアショックは昨年も使用したWP XPLOR PROをソフト目にセッティングして使用。1目盛あたりの調整幅が大きいため、幅広いシチュエーションに対応可能だ

画像: スプリングのバネレートを一つ落とし、ハードエンデューロ仕様とした。

スプリングのバネレートを一つ落とし、ハードエンデューロ仕様とした。

田中太一
「G-NET最終戦ではコースの難易度に合わせてフロントのエアサスを基準よりもかなりソフト目にセットアップしています。僕はサスペンションというものは、バイクの中心に人間が乗った時に前後が均等に50:50で沈んで欲しいんです。ですが、今回は敢えてリアの圧・伸ともにダンパーを少しソフト目にして後ろ下がりの姿勢をとることでよりマシンを動かしやすいセッティングにしてみました。

普通のサスペンションでここまでソフトなセッティングにすると、底付き感が出てしまうのですが、このWP XPLOR PROはコーンバルブが減衰力をうまく調整してくれるので、それが全くないんです。ストロークの上半分くらいはエアサスならではのギャップを感じさせないフィーリングで、半分から下は粘り始め、一番奥ではしっかり支えてくれます。不意に大きな衝撃が加わった時も手や体にその影響を伝えず、サスペンションが吸収してくれている感覚があります。

また、クロスカントリーなどで使用する際は逆にダンパーを強めにセッティングするのですが、スプリング式のサスだと締め込んでいくことでガチガチなフィーリングが出てしまってフロントの接地感が無くなってしまうんです。なのでセッティングを出すときは、衝撃に耐えるためのダンパーの強さとフロントタイヤの接地感を両立させるためバランスを追求していくのですが、このWP XPLOR PROはダンパーを締め込んでもしっかり接地感を感じることができるので、妥協せずに自分の速度域に合わせてダンピング性能を強めることができます。

そのおかげでこれ一本で対応できるシチュエーションがとても広いんです。僕は現役時代、エルズベルグロデオの決勝前にサスペンションを加工して思いっきりローダウンしてもらったりしていたのですが、このサスならセッティングを変えるだけで問題ないと思います。当時は一握りのファクトリーライダーだけがそういうスペシャルサスを使うことができていたのですが、ついにその技術が市販品に降りてきたんですね。

日本国内でも、一つのクロスカントリーシリーズの中にハード寄りのコースとスピード系のコースがあると思います。ハードエンデューロでも同じですよね。ですが、多くの人がどちらかに合わせてセッティングを出していて、他のところはある程度妥協したセッティングのまま走っていると思います。ところがこのサスならセッティング幅がとても広いのでどちらも妥協せず適したセッティングで走ることができるんです」

画像: WPロゴマークのついたアルミ削り出しのトリプルクランプ。純正に比べて剛性が高く、コーナリングの安定感が向上する。フォークを留める部分の肉抜き加工は均等に締め付けるための工夫だ。

WPロゴマークのついたアルミ削り出しのトリプルクランプ。純正に比べて剛性が高く、コーナリングの安定感が向上する。フォークを留める部分の肉抜き加工は均等に締め付けるための工夫だ。

エアサスの恩恵は下りの安定感にアリ

画像: エアサスの恩恵は下りの安定感にアリ

田中太一
「フロントのエアサスはとにかく本体重量そのものが軽かったですね。それはバイクを起こした瞬間から感じるのですが、今回のレースでは特にガレ場などでフロントを振る時にすごく恩恵がありました。とにかくフロントを振る回数が多いコースだったので、その一回一回の疲労が少なく済んだのはとても有利でした。

また、とても急な斜度の下りセクションが多く、実は僕は下りで集中力が切れてミスしがちなのですが、今回はそれが一回もなかったんです。理由はスプリングのサスよりもタイヤを地面に押し付けている時の感覚がすごく伝わってきたことだと思います。バネだと常にスプリングが戻ってくるのを押さえつけながら乗っている感じなのですが、このエアサスは一度しっかりブレーキをかければ車体がその姿勢のままスーッと下っていけるので、とても楽でした」

画像: G-NET最終戦のコースではヒルクライムでも沢でも、とにかくフローティングターンを多く用いた。そういったシチュエーションではエアサスの軽さに助けられたという。

G-NET最終戦のコースではヒルクライムでも沢でも、とにかくフローティングターンを多く用いた。そういったシチュエーションではエアサスの軽さに助けられたという。

画像: 押し上げて急激に下る、を繰り返すG-NET最終戦。他のライダーがたまらずバイクを降りるシーンでも、田中はスタンディングのまま安定感のある走りを見せた。

押し上げて急激に下る、を繰り返すG-NET最終戦。他のライダーがたまらずバイクを降りるシーンでも、田中はスタンディングのまま安定感のある走りを見せた。

タイヤの接地時間が長くなるリアショック
ギャップを感じないから無理なくアクセルを開けられる

画像: タイヤの接地時間が長くなるリアショック ギャップを感じないから無理なくアクセルを開けられる

田中太一
「リアショックに関しては、とにかくリアタイヤが地面に着く能力がすごく高いです。ジャンプでもギャップでも、リアが跳ねて無重力になったと思ったら、すぐにリアタイヤが地面に着いています。おかげでトラクションも抜けないですし、バイクも暴れないので安全かつ速く走ることができました。

レースの前に練習でクロスカントリー仕様のセッティングのままプラザ阪下の山を走らせてもらったのですが、本来のコース外の岩山を登ったら想像以上に飛べてしまってびっくりしました。普通のサスならもっと弾かれて失速したりするのですが……。壁を走る感覚がまだ身体に残っていますね。ギャップっていうのは身体に衝撃が来て初めて怖さを感じるんです。サスペンションが勝手にギャップを吸収してくれれば、無いのと同じなんですよね」

実際にこのサスペンションを購入したKTM京都のユーザーからは「サスペンションを変えてタイヤがよく減るようになった」や「自分では今までと同じように走っているつもりなのに、仲間からは明らかに速くなっていると言われました」「良いサスペンションをつけてスピードが上がってしまうと怖くなると思っていたけど、実際に使ってみたらギャップも全然怖くないし、バイクに乗るのがすごく楽しくなりました」という声が届いているという。

スムースライディングこそが世界のスタンダード
それを可能にするWP XPLOR PROエアサスペンション

田中太一のスクールを一度でも受講してみればわかるのだが、田中はとにかくマシンの挙動を抑え、安定して速く走る方法を教えてくれる。理由はその方が怪我も少ないし、マシンも壊さないからだ。ガンガンアクセルを開けて暴れるマシンを押さえ込んで走るスタイルでも速いライダーはいるが、田中はそうではない。実際、今回のG-NET最終戦の予選タイムアタックでは、そのライディングスタイルでトップタイムをマークしている。

画像: スムースライディングこそが世界のスタンダード それを可能にするWP XPLOR PROエアサスペンション

田中太一
「僕はなるべく急なアクセル操作をせず、ボディアクションを最小限にしてエンジンの美味しいところ、タイヤのトラクションのいいところだけを使うように乗っています。見ていて速そうには見えないかもしれませんが、ちゃんとタイムは出ています。常にタイヤを空転させないように意識していれば、バイクが暴れないのでミスも減らせるし、疲れにくい。ハードエンデューロだけでなくAMAやEnduro GP.でも今はそういう乗り方が主流になっているんです。

僕のライディングスタイルだと最初はスピードが出せないかもしれません。ですが、この乗り方の練習を続けていれば、一か八かのスピードではなく、安定した速さが身に付きます。それが怪我をせず安全に上達する道なんです。乗っているうちに自分がサスペンションに求める動きがわかるようになってきます。すると、KTMの車体剛性やWP PROサスペンションがとても助けてくれていることに気づけると思いますよ」

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