試乗したコースは群馬県アサマレースウェイ。ドゥカティが開催するライディング・レッスン・プログラム「DRE(ドゥカティ・ライディング・エクスペリエンス)」の中で試乗させてもらうことができた。
ドゥカティが本格オフロードバイクを出す意味は
ドゥカティといえば美しいトレリスフレームが特徴的なネイキッドモデルのMonsterや、近年ではmotoGPでの活躍も目覚ましいことからスポーツモデルを想像する人が多いだろう。しかし実はドゥカティのラインナップの中で一番売れているのは、アドベンチャーモデルのムルティストラーダなのだ。その主戦場はヨーロッパとはいえ、現在日本国内だけでも新車で購入できるアドベンチャーモデルは50車種を超えており、メーカーにとって見逃せないムーブメントに成長していると言える。その証拠にアメリカンモデルの代名詞とも言えるハーレーダビッドソンでさえも2020年にPan Amerricaを発売し、アドベンチャー市場に参入しているのだ。
V2、V4、さらには発表されたばかりのV4 RALLYなど、着々とムルティストラーダのラインナップを充実させているドゥカティが、ムルティストラーダよりもオフロード性能に特化したアドベンチャーモデルDesert Xをリリースした。
DUCATI
Desert X
¥1,999,000(税込)
最高出力:110PS
最大トルク:9.4kgm
乾燥重量:202kg
最低地上高:250mm
21世紀に入ってからのドゥカティにとって初の本格オフロードバイク。真っ白なカウルを纏ったDesert Xはフロント21インチ、リア18インチのホイールサイズ設定を持つことからもわかる通り、ムルティストラーダでは入っていけないような本格的なオフロードを走破する性能を目指して作られたマシンだ。
2021年に大幅なモデルチェンジを果たした新型MonsterやムルティストラーダV2にも採用されているL型2気筒の水冷エンジン「テスタストレッタ11°」を搭載している。そのベースになった「テスタストレッタ」は代々ドゥカティの高性能スーパーバイクに搭載されていたエンジンで、そこから吸排気バルブのオーバーラップ角を変更、フライホイール回転マスの増加など、ストリートやオフロードにも扱いやすいエンジン特性を与えて開発されたものが「テスタストレッタ11°」。エンジン名にも使われている「11°」という数値は、クランクが2回転するうちにインテークバルブとエキゾーストバルブがオーバーラップする角度が11°あることを表している。これによって規則的な燃焼効率を実現し、扱いやすく、燃費の良い、低排出ガスのエンジン特性を手に入れているのだ。Desert Xへの搭載に合わせてそこからさらにギヤレシオを変更している。
細かいパーツを掘り下げるのは後に回して、いきなり和泉のインプレッションを読んでいただこうと思う。
好感触の前後サスペンション
「サスペンションはとても良く作り込まれていると思います。前後ともそうなのですが、特にフロントは初期の沈み込みがフワフワ感のあるオフロードっぽい乗り味に仕上がっていて、林道などでもかなり使いやすいと思います。シートに座って1Gをかけるとその初期の部分は沈み込んでしまうので、実際オンロードを走っているとそこは感じられないかもしれないのですが、中間からはしっかり減衰が効いてコシが出てくるので、オンロードでもけっこう快適でした。アスファルトの舗装が凸凹していたりもしたのですが、そこもちゃんと吸収してくれました。
オフロードの試乗をしたのは群馬県のアサマレースウェイだったのですが、仮にアサマのコースを走るとして、飛ばさないならノーマルセッティングでも十分。飛ばすとしてもイニシャルを少し締めて減衰を強くしてあげれば底付きしないんじゃないかなってくらい懐の深いサスペンションだと思います。おそらくアフリカツインやテネレのノーマルサスだとどう頑張っても底付きしてしまいます。逆にKTMの890アドベンチャーRだともっとハイスピードでも大丈夫なのですが、初期のフワフワ感がないので、『ちょっと林道走ってみたい』くらいのライダーにはこっちの方が乗りやすいかもしれません。
僕の体重(約73kg)だとスタンダードでも底付きすることはないし、動かなすぎて弾かれることもなさそうなセッティングでした。手放しで褒められるくらいレベルが高いと思います。あとは個人的な好みになってしまいますが、電動サスペンションがあまり好きではないのと、日本人のサスペンションチューナーならKYBはいじり慣れてますから、ちょっといじったらかなりの高性能に化けるんじゃないですかね」
前後サスペンションの減衰を一番硬くした状態なら、これだけジャンプしても着地でフルボトムしない。
エンジン、ライディングモード
「久しぶりにこういうエンジンのドゥカティに乗りました。回してもちゃんと上まで回るし、パワー感がきっちりあります。ピークの110PSまではもちろん体感できませんでしたが、街中で加速したい時によく使う4000〜5000回転くらいの領域でとてもパンチがあって楽しいです。
低速でしっかり粘ってくれて、電子制御スロットルがちゃんと仕事してくれている感じがしますね。わざと3〜4速で1500回転からちょっと多めに開けてみたんです。普通ならエンストしそうなシチュエーションなのですが、おそらく必要以上に開かないように電気的に抑えてくれていて、不要なエンストを予防してくれているように感じました。
とはいえ、電子制御スロットルのバイク全般に見られる開け始め0〜5%くらいの部分に全く反応しないところがあるのはこのバイクも同じでした。この部分をエンデューロモードでもラリーモードでもしっかり残してあって、そのおかげでギクシャクしないようになっているのですが、電子制御スロットルに慣れていない人は少し違和感を感じるかもしれません。ですが、ライディングモードの設定をカスタマイズすることができて、実は低回転のスロットルレスポンスが最もリニアで使いやすいのはスポーツモードだったので、ABSやトラコンなどはラリーモードにしておいて、スロットルだけスポーツモードの設定にしたりすると、乗りやすいかもしれません。
ラリーモードはスポーツよりももう少し開けたところにパワーの盛り上がりが作ってあって、そこでフロントアップとかリアスライドがやりやすいようになっていました。エンデューロモードもそれに近いのですが、もっとマイルドですね。KTMアドベンチャーのラリーモードはかなりパワフルで『こんなの日本じゃどこで使うんだ』って思いましたが、こっちのラリーモードはそんなことはなく、全然普通に使えます。
また、ツーリング→アーバン→ウェットの順にスロットルの開け始めのパワーがマイルドになっていって、用途に合わせてキャラクターがはっきりしています。そしてやっぱり面白いのはそこからそれぞれのモードをカスタマイズできる点ですね。おそらくほとんどの人はドゥカティが設定したライディングモードで満足できる思うのですが、僕はやっぱりいじれることが嬉しいんですよね。「i-PhoneはいじれないけどAndroidはいじって自分好みにできる」みたいな(編集部注:和泉氏はAndroidを含むガジェットマニア)。そういうところが個人的にはとても好きです」
「また、エンジンブレーキコントロールが付いているのも大きいメリットです。これはアフリカツインにもあった機能なのですが、アドベンチャーモデルでオフロードを走る時にエンジンブレーキが強くかかり過ぎると、フロントの重さをすごく感じてしまうんです。アサマのようなサンド質の路面だと特にそうですね。とはいえフロントブレーキをしっかりかけることをリスクに感じるライダーもいますから、そこを好みで調整できることはとても嬉しいです」
ポジション、重心バランスなど
「実はマシンの重心が少し後ろ寄りなんですよね。ピボット位置も少し後ろ気味です。フロントホイールが21インチでサスペンションのストローク量が230mmもあるので、これ以上フロントホイールを近づけるとサスペンションが縮んだ時にエンジンのシリンダーヘッドにタイヤが当たってしまうんです。
そのせいでどうしてもフロントタイヤがライダーから遠くなってしまって、シートの一番前に座ってもコーナーでフロント荷重が不足してしまいます。オンロードだったら昔ながらのリアステアな感じでフロントを添わせてハンドル切ってあげれば気持ちよく曲がれますし、エンブレを少し効かせてあげればアクセルオフでフロントサスが縮んでくれるので旋回しやすいのですが、オフロードだとスタンディングして積極的にフロント荷重を与えてあげないとちょっと曲がりにくいかもしれません。その代わりスタンディングした時はシート周りがものすごくスリムなのもあって、ちゃんと乗れるんです」
マシン詳細
さて、そんな和泉のインプレを踏まえた上で細部を見ていこう。
フロントタイヤは90/90-21。リアタイヤは150/70-18となっている。純正タイヤはピレリのSCORPION RALLY STRを採用。
前後サスペンションはKYB製。フロントフォークのインナーチューブ径はφ46mm、ホイールトラベルは230mm。リアショックのホイールトラベルは220mm。前後ともに伸側、圧側の減衰調整とプリロード調整が可能。なお、今回試乗したモデルはEU仕様のフルサスペンション(+20mm)が装着されていた。
シートを外してフレームの隙間からドライバーを差し込み、リアショックの減衰を調整することができる。
エンジンは937ccの水冷L型2気筒。デスモドロミック・バルブ駆動システムを搭載したテスタストレッタ11°。ムルティストラーダV2に搭載されている同型エンジンから、低速域での追従性、扱いやすさを追求するためにギアレシオを変更。1速は-14.3%、2速は-8.7%ショート化されている。最大出力は110PS/9250rpm、最大トルクは9.4kgm(92Nm)/6500rpm。扱いやすいフラットなトルク特性を持っている。
フレームはドゥカティ伝統のスティール製トレリスフレームを採用。
サブフレームと一体になったスタックバーは取り回しや引き起こし時に便利。
ブレーキシステムはブレンボ製。フロントは320mmのセミフローティング・ダブルディスク。キャリパーはM50のラジアルマウント。リアは265mmのシングルディスクでやはりブレンボのフローティング・キャリパーが採用されている。
さらにBosch製のコーナリングABSを搭載していることもポイントだ。ABSの効き具合を3段階で変更することが可能となっており、ライディングモードがオフロードの場合にはABSを完全にカットすることもできる。
ライダーの体格によってハンドルバーの高さを調整することができ、ブレーキペダルの先端を回転させることで高さ調整が可能となっている。
シート高は標準で855mm。オプションで設定されているローシートを装着すれば845mmに下げることも可能。(試乗車はEU仕様で875mm)
個性あふれるフロントマスクは一回見たら忘れられないもの。イタリアらしいユーモラスな仕上がりとなっている。もちろん灯火類はフルLED。
今回、高速道路での試乗は叶わなかったが、ウインドシールドは気持ち控えめサイズ。とはいえ、ムルティストラーダのシールドも小さいながら恐ろしく高性能だったので、ぜひ今度は高速道路でも乗ってみたい。
5インチのTFTフルカラーディスプレイは表示する内容をカスタマイズすることができ、ターン・バイ・ターン・ナビゲーションシステムが後付けのオプションとして装着が可能。なお、日本市場向けのナビシステムの導入は現在は未実装。カミングスーンとなっている。
ライディングモードは全部で6種類。それぞれのモードに対し、ドゥカティが提案するセッティングが最初から設定されている。こちらの数値は好みに応じて変更することも可能だ。なお、「DTC」はトラクションコントロール、「DWC」はウイリーコントロール、「DQS」はクイックシフト(アップ/ダウン)、「EBC」はエンジンブレーキコントロールのこと。
操作は基本的に左手のスイッチボックスに集約されている。本格オフロードモデルでありながら、クルーズコントロール機能も搭載している。
ステアリングダンパーが装着されているが、これは海外の150km以上で巡航する高速道路などで、トラックが真横を追い越していった時のような特殊なシーンを想定しての「念の為」の装備で、通常の使い方であれば不要な装備とのこと。
燃料タンク容量は21L。
さらにリアシート周りに追加装着が可能な8Lのサブタンクがオプションで設定されており、ボタン一つでサブタンクからメインタンクへ燃料を移すことができる。
和泉が見つけたマニアックなピックアップポイント
アンダーガードも標準で丈夫なアルミ製が装着されている。
和泉が見つけたこだわりはここ。アンダーガードの縁が平たいと、そこにブーツが引っかかって動きを阻害することがあるというのだが、Desert Xでは縁が滑らかに加工されていた。
和泉が気になったのはホイールにクロススポークを採用していることによって、ホイール周りをかなりスリムにできている点。フロントはダブルディスクでブレンボのモノブロックであるM50キャリパーを採用しているが、フロントフォークのピッチはかなり狭く、ハンドルの切れ角はかなり大きい。リアの場合はマフラーをかなり内側に配置できることが、大きなメリットだという。
和泉が想定しているのは、ヒルクライムなどでよくあるこういう姿勢。リア周りがスリムなことで、この姿勢が取りやすいのだという。
シート周りの細さは秀逸。このおかげでスタンディングは驚くほどやりやすい。もちろん足つき性にも大きく影響する部分だ。
ブレーキペダル、シフトペダルがスチール製なのも高ポイント。「アルミだと転倒した時に折れてしまうのですが、鉄だと曲がっても戻すことができるんです。もちろんアルミの方が軽いので、この手の価格帯のバイクでブレーキペダルが鉄だと怒られますからね。おそらくコストダウンとかではなくて、意図的に元に戻せる素材を使っている可能性があります」と和泉。
また、スイングアームの角度と、それによるチェーンの弛みにも注目。「もともとオンロードバイク用に作ったエンジンだから、クランク軸とカウンターシャフトとシリンダーヘッドの角度っていうのがある程度決まってしまっていて、そうするとスイングアームの垂れ角がけっこう大きくなってしまって、チェーンの遊びが大きくなってしまうんです。普通こういうバイクってすごくギクシャクするんです。でもこのバイクはその部分が電子制御スロットルでうまく相殺されてるんです。僕のテネレもそこを消したくてECUを色々いじったりしてるんですが、どうしても消せないんですよね。これは街乗りでもツーリングでもスポーツ走行でも常に気になる部分なので、それがないのはすごく大きいですね」と和泉。
アドベンチャーモデルと一言で言っても、モデルによってロングツーリング向きモデルから、オフロード向きモデルまで様々なキャラクターがあるが、このDesert Xはその中でもかなり本格的にオフロードで遊べるモデルに仕上がっているようだ。