秀逸なエンジンストール耐性と、低中速に思い切りふりきったエンジン
試乗会のおこなわれたイーハトーブの森は、最高のコンディション。森の中も、ほどよい湿り具合だった。230という排気量と、小柄な車体はどちらかというとスピード勝負よりも、山の中に分け入っていきたい欲求にかられる。
最低地上高も、そこそこある車体だから、ワダチに入れてみても腹を擦ってしまうような不安感はない。元々の設定で、アイドリングが高めなこともあって、ぱっと乗った感じは極低速の特性に優れるフィーリングには感じないのだが、一旦山でスロウなライディングを始めると、嘘のように粘るエンジンであることがわかる。90年代の空冷4ストエンジンなみに粘る。それでいて、90年代のような古さを感じる吹け上がりではなく、しっかりリニアに吹け上がるからトルクコントロールはとてもやりやすい。
脳裏によぎったのは、ストリートバイクのエストレアだ。カワサキと言えば、とにかくパワー。高回転を達成するためのショートストロークエンジンが主流だと思うのだけれど、思い起こしてみればエストレアは250ccをチョイスしておきながら異例のロングストロークを新設計した、ある意味「漢」を感じる割り切り、そして豊かなトルク特性を感じるものだった。KLX230も、67×66と限りなくスクエアに近いボア×ストローク比で、まわるエンジンではない。実際、頭打ちは早めだが、トルキーな特性と、そしてエンジンストール耐性は、実に秀逸だ。
勉強不足で大変恐縮なのだが、空冷エンジンがどんどん排気ガス規制に引っかかって姿を消していくこの世の中で、なぜ空冷エンジンをチョイスしたのか非常に謎だった。エンジン開発担当の城崎氏は「排気量にもよりますが、今回のKLX230に関しては排気ガス規制対応することは難しくはない」と言う。物価の上昇によって、オートバイの開発費が嵩み、車体の価格に反映されてしまうこのご時世で、空冷のチョイスは必然だった。「エンジン開発の要求と、デザインをあわせこんだ結果、フィンは上から見ると真四角では無く台型をしている」とはデザイン担当小林氏の言。
前述したとおり、この230ユニットはまったくの新設計で、いわば2019年の空冷エンジン。さらには、ロードバイクから借用したモノでもなく、純粋にオフロードの楽しさを追求したものである。森の中を走れば、その意味は自ずとわかるはずだ。