マリオは、イタリアのロングコーヒーを舐めながら言う。この壮大なるスプリントで、マリオは3位表彰台に立った。気分はとてもよさそうだった。
「エルズベルグみたいなレースは、僕は苦手なんだ。僕のライディングは、長距離向きで、もっとタフなレースを望んでいる。たとえば、ルーマニアクスのようなね」
ハードエンデューロは、一括りにされがちだ。難しいセクションが続くレース=ハードエンデューロ。いや、そうではない。その実態はバリエーションに富み、既存の枠に縛られないルールやフィールドを魅力とするレースの総称だと考えたい。マリオも何度か走っているTKOは、エルズベルグよりもさらにスプリント。というよりスーパークロスに近いモノで「コディ・ウェブはエンデューロクロスが得意だろう? 短距離で一気に駆け抜けるレースが得意なんだよ」とマリオは言う。そこで必要なのは、跳ね返ってくるマシンを押さえつける無酸素運動の強さだ。体力こそキモになるルーマニアクスとは、まったく求められるものが違う。
「エルズベルグで順位の鍵を握るのは、やっぱりカールズダイナーだね。年々距離が増えてるけど、ここをいかに早いスピードで抜けられるかで、おおまかな順位が決まる。グレアム・ジャービスのようなライダーは、こういうところがウマイ。頭が良いんだよ。タフなだけじゃ、ハードエンデューロは勝てない。クレバーさは、とても大事なんだ」
田中太一が、これまでエルズベルグの様々なことを解明してきた。しかし、マリオの一言一言は、また違った次元で重い。エルズベルグがいかに特殊か、そして何が大事なのか…。遠い日本にいる僕らは、少しずつ学んでいくしかない。