ミシュランの新作エンデューロタイヤをレビュー。グリップレベルの高さは言わずもがな、ブレーキングのリニアな特性に驚かされた
コンペ3から脈々と受け継がれる「エンデューロ」タイヤ
ミシュランがFIMエンデューロタイヤ(以降FIMタイヤ)の覇権を握っていた期間は、90年代からだいぶ長く続いたように思う。日本のタイヤメーカーにもFIMタイヤはあったものの、あまり種類が選べず、なおかつエンデューロという競技に対しての知見がそれほどなかった時期というのも理由として挙げられる。続く00年代はまだ情報化社会の夜明けを迎えたばかりで、やはりエンデューロ業界は欧州のブランドが強く、メッツラー、ミシュラン、ミタスなどがFIMタイヤのスタンダードだった。
2004年、ISDEポーランド。タイヤ事情は日本とはまるで違う
FIM規格エンデューロタイヤのリアタイヤはブロックの高さが13mm以下で、エアボリュームの稼げる140/80-18(120/80-18)のケーシングが基本。移動路などで一部公道を走ることのあるオンタイムエンデューロに向けて開発されていることもあって、公道走行可とされているのが普通だ。そのため、当時から競技用のFIMタイヤをトレールバイクに履かせている人も少なくなかった。オンタイムエンデューロというニッチな競技に向けたタイヤでありながら、実は愛用者が意外と多いのも、FIMタイヤの特徴と言えるだろう。
ミシュランのFIMタイヤといえば、なんといってもエンデューロコンペティション3が代表格で通称「コンペ3」と呼ばれ長く親しまれてきた。比較的耐久性があり、オールマイティな路面に対応するため、00年代にFIM規格の規制が入ったレースでは、このコンペ3を使用するのが主流だった。その後、JECプロモーションや各種メディアによってJEC(全日本エンデューロ選手権)の認知度が高まるにつれ、タイヤの情報も行き渡り、様々なブランドの製品が使われるようになっていった。このタイミングでブリヂストンやダンロップ、IRCが第二世代のFIMタイヤをリリースし、欧州のマーケットを狙っていく。それに呼応するようにミシュランはエンデューロコンペティションシリーズを一新し、エンデューロミディアム、エンデューロエクストリームの2種類を市場に投下。これらもライダーから高い評価をもって迎えられた。
MICHELIN
ENDURO MEMIUM 2
そして、このたび発表されたのが、そのエンデューロミディアムのアップデート版、エンデューロミディアム2である。形状は前モデルとまるで違っていてスクープタイヤのようなブロックが特徴。スクープタイヤというのは、近年どんどん路面が柔らかくなっていくスーパークロス、モトクロスにあわせて開発されているソフトタイヤのことで、パドルに近いスコップのようなブロック形状をしているもの。この手のソフトタイヤは近年のコンパウンドの進化によって、ハード路面にも対応する性能を身につけている。今回テストするエンデューロミディアム2も、形状で路面を捉える性能と、コンパウンドで路面を掴む性能を両立させているはずだ。
V字型ブロックと新世代カーボンブラックコンパウンドを採用したトレッドパターンにより、路面との接地面積を増加させることで、前モデルと比較して新品時のグリップ力とトラクション性能を向上。具体的には、新品時で22%、摩耗時で12%のグリップ力とトラクション性能の向上が実現されているとのこと。これは楽しみである。
上に回転する。つまりスクープ方向だ
サイドブロックは張り出していて、FIMエンデューロタイヤらしくキャンバーで粘りそう
ブレーキング時の粘りは特筆モノ
タイヤのインプレッションを書こうとすると、いつもかなり悩ましいことになる。というのも、OFF1編集部にはスキルのあるライダーが在籍していないので、上級者が感じるフィーリングはほとんど得られないのだ。ということで、今回も編集部稲垣のようなスキルがないライダーがテストをするのだが、可能な限り情報を盛り込めるよう、数回にわたってしっかり走りこんだテストを試みることにした。もはやOff1ではインプレ記事の枕詞になりつつあるのだが、編集部稲垣は絵に描いたような万年ビギナーで、この4年ほど状況を打開すべく毎週のように乗り込んでいるのに、やはりその歩みは亀のごとし。誰もが、僕を踏み台にして越えていく。踏み台は大事なので、いいんです。みんな、越えていってください。
さて、エンデューロミディアム2のセットアップは、おなじみ2025年式YZ250FXにリアタイヤ140/80-18を選んで装着した。中身には少し使いこんだ0.8kgf相当のムースを使用している。タイヤの剛性は熱をいれないうちはしっかりしている印象で、欧州メーカーのエンデューロタイヤらしさが感じられる。特にムースチェンジャーとの愛称はよくて、余計なひっかかりを感じること無く、するすると交換することができた。
Off1編集部の日常:ミシュラン エンデューロミディアム2のインプレ準備 pic.twitter.com/mRrE4GgYQR
— Off1.jp (@Off1_jp) February 3, 2025
実際に走行してみると、すぐに特性がわかって驚かされた。それはアクセルを開けた時ではなく、ブレーキング時に訪れた。とにかくブレーキングでリアタイヤのスライドをコントロールしやすいのだ。これはエンジンブレーキでコーナーに進入する際も、リアブレーキで後輪を振るような時にも如実に感じたことだ。このタイヤでオフロードヴィレッジで開催されたWEXにも参戦してみたのだが、フラットコーナーが例年より苦手意識を持たずに走れている。リアブレーキのコントロールが下手なのか、バンク角が安定しないのか、とかく僕のようなスキルのないライダーはリアを振り出そうとしてもその量が定まらないのだが、エンデューロミディアム2を使い始めてからはだいぶ安定したように思う。
ホームコースのモトクロスビレッジでテスト。今回は、モトビだけでなく、オフビ、成田モトクロスパーク、日野カントリーオフロードに持ち込んで、計6時間は走り込んだ
FIMタイヤは300km前後走ることを想定していることもあって、ある程度ケーシングの剛性が落ちにくくなっているのが普通だが、僕にとっては新品の硬い状態よりも使いこんで腰砕けになったくらいのほうがタイヤを潰して乗りやすい。これを如実に感じたのは、履いて5回目くらいのライディングだった日野カントリーオフロードでの一幕だ。この日はドライコンディションだったが、仲間内で厳しめのルートを設定してオンタイムエンデューロのトレーニングをしていた。やはり、前述した通り、ブレーキングでの感触の良さを感じていたのだけれど、この日は走行時のグリップにも違いがあった。特に日野の名物「奥の細道」という急な下りでは、フロント、リアともにタイヤが潰れてグリップしている感触がわかりやすく、つぶすリズムを掴みやすかった。落差がある急な下りでは、タイヤを潰してトラクションを得る感覚はわかりやすい。ぐっ、ぐっと曲がり角や踊り場で押しつけながらスピードを調整していきやすいのだ(疲れてくると、ままならずだだーっとノーコンのまま滑落する…)。
ブレーキ側にもスクープ的形状。これが効いてるんだろう
フロントも潰れやすくて、使いやすい
この日、普段は苦手とする木の根や岩のあるルートを散々走らされたのだが、晴れていることもあって特段気になるような挙動は無かった。自分が少し嫌だなと思うレベルの角度で木の根に進入しても滑る感覚はなかったし、自信をもってトレイルを走れたように思う。
アクセルを開けた時のグリップ感は、高さ13mmのブロックらしからぬものを感じた。関東ローム層のつるつる路面はまだ走れていないが、岩盤やサンド系など、ソフトからハード路面まで一様に路面をしっかり掴んでくれる感触がある。スピードをのせてセクションに入れない僕のような下位ライダーにとって大事なのは、低い速度域でのグリップ感なのだけれど、ロースピードでタイヤにトルクを伝えていってもすっぽぬけるフィーリングを感じたことは無かった。このタイヤは裏切るかも知れない、という恐怖感がなく、自信を持ってセクションに入っていけるというのは大きなメリットだ。
6時間走ってリアタイヤはコレ。まだまだ使えます。耐久性は十二分
昨今のFIMタイヤはかなり進化していて、もはやモトクロスコースで遊ぼうという時にでも履き替える必要を感じないほどの性能を持っている。もちろん、切れ味のいいモトクロス向けの細いミディアムソフトタイヤなどと比べると、俊敏さには劣るものの、オールマイティになんでもこなせてしまう。今日はエンデューロタイヤを履いてるから少し抑えめに、なんてことを考える必要はない。加えてこのブレーキでの特性は、十分僕ら下位ライダーにとって武器に使えるはず。市価は国産タイヤに比べて少し張るが、耐久性もある。オンタイムエンデューロだけでなく、アクティブなツーリング派などにもぜひ試してもらいたい。