長らくダンロップのクロスカントリータイヤとして数々のレースを席巻し続けてきたAT81が、AT82へと進化。パターンを見る限り、めちゃくちゃ前に進みそうなタイヤだがその真価はいかに。3ヶ月間、Off1編集部が履き倒してみた

オフロードタイヤの設計思想はアップデートされ続けている

柔らかい土に対して硬いブロックで強引にかっぽじりながら進む、いわゆる“ソフトタイヤ”。硬い土に対して柔らかいコンパウンドでグリップさせる、いわゆる“ハードタイヤ”。オフロードのタイヤはこれまでその2つの相反する特性の、どこにポジショニングするか……が重要であり常識だった。ところが最近ではその思想が変わりつつある。

特にAT81のようなクロスカントリー向けのタイヤは、1本で様々な土質に対応する必要がある。ふかふかのパワーが食われるウッドチップ路面から、大きめの岩が転がるガレ路面、ウェットな土や滑る木の根が散見されるウッズなどなど。近年のタイヤ開発は、これまでの対応レンジをいかに拡げるかという大きな目標との戦いの歴史であり、レンジの拡大方法にはメーカーの個性が発揮されてきた。

さて、新しくなったダンロップのクロスカントリー向けタイヤAT82を見てみよう。

パドルのように見えなくも無い、センターブロック。たしかに明らかに前に進む力が強く、力が逃げていないのがわかる。サイドの2レイヤーになったブロックも好印象で、オールマイティに使えるタイヤ

リアタイヤは旧AT81が一般的なオフロードタイヤのパターンだったのに対して、AT82はソフト寄りのパターンに変更してきたように見える。横に長く高さのあるメインのブロックはいかにも土を掻きむしりながら前にマシンを進めてくれそうだ。同社のマディ用タイヤMX14とまではいかないにしても、かなり前に進む力がありそうだ。さらにはリリースによればケーシングが改良されていて、衝撃吸収性が高いとの話だが、新品状態を触ってみるとなるほど確かに相当に剛性が高い。熱が入ることでしっかりたわみが出てくるタイプだ。面白いのは、タイヤの履く向きによってハード路面・ソフト路面のどちらにも対応するというところ。もちろん履く向きでコンパウンドが変わるわけではないから、ソフト路面ではアクセル方向にエッジが効き、ハード路面ではブレーキ方向にエッジが効く、そんな方向性を持っているものと思われる。

フロントタイヤはブロックの変形を抑制する特殊な形状のブロックを配置することで、ハンドリング性能を向上したとのこと。断面形状も見なおされており衝撃の吸収性にも優れているそうだ。

鈴木健二曰く

長年ダンロップのタイヤでエンデューロ、クロスカントリーに参戦してきた鈴木健二はこのAT82についてかなり好印象を持っているようだ。

プラザ阪下にて、鈴木健二。マディのプラザ阪下では、もちろんソフト方向で履いている

「AT82の登場によって、AT81は古いタイヤになってしまった印象がありますね。柔らかさ、粘り、接地感に優れているのでエンデューロとクロスカントリーどちらにも対応できるタイヤに仕上がっています。AT81はコンパウンドが硬いことがネガティブで出てくることがあったのですが、AT82にはありません。AT82も、新品を触った感触はだいぶ硬いのですが、熱が入るとしなやかさが出てきます。

JNCCの開幕からハードエンデューロまでいろんなレースで試してみましたが、ヒルクライムやキャンバーでは普通にグリップしてくれます。タイヤ自体にクッション性があるので、ガレも得意。ただ、濡れた石のガレでは少しグリップに難があるなと感じました。この良さはコンパウンドによるものだと思います。このAT82のコンパウンドには、タイヤが「たわむ」柔らかさがあるんですね。ガミータイヤやトライアルタイヤの「粘る」柔らかさとは、同じ柔らかさでも種類が違います。濡れたガレには、粘る柔らかさが必要なので少し苦手なんですね。

柔らかい反面、タイヤの摩耗は少し早めです。ブロックは高いのですが、角がとれてくるのが早いですね。僕のような開けるタイプのライダーだと、3時間のレースでは後半タレてしまうけど、一般のライダーであればそこまで減らないでしょう。JNCCのCOMP GPで最初から最後までグリップしてくれると思います。

フロントタイヤの出来もいいですね。僕はフロントに依存する乗り方をするので、フロントタイヤがダメだとまったく走れないんですが、AT82のフロントは柔らかくて調子がいいです。MX34が出てからフロントに好んで使っていたんですが、34では少しブロックが強すぎる感じがします。硬い路面だと少し逃げてしまうんですね。粘ってくれない感じです。一方、AT82はしっかり粘ってくれるので、もう82一択になりました。ただ、フロントは好みもあるかもしれません。中島敬則はAT82だと少し弱いというコメントをしてました。フロントタイヤは、フロントにあまりGをかけないライダーであればブロックの硬さでグリップさせる傾向があります。逆に僕なんかのGをかけるライダーはケースとブロックの柔らかさでグリップさせる傾向があるんですね。

今回のAT82は逆履きするとハード路面にも対応するという話ですが、僕の場合はほとんどソフト方向で履いています。ハード方向に履くと、テージャスランチのカチパンなんかでとても印象がよかったですね。あの仕組みは、タイヤを加速感に振るのか、ブレーキ感に振るのかの違いです。ハードパックではブレーキが利く方がタイムを出しやすいんです。柔らかいコンパウンドがハード路面、硬いコンパウンドがソフト路面、という考え方とはまったく違う発想なんです」とのこと。マディ用タイヤであるMX14もコンパウンドが気に入って履いていた鈴木、粘りとたわみに注目をしている。

大抵のセッティングに対応する懐の深さ

例によってインプレライダーは自他共に認める永遠のビギナーことジャンキー稲垣である。サスペンションとタイヤは、エンジンやシャシー以上にライダーのレベルによって感じ方が違う。そもそも上級者のようなスピードや、ブレーキング、バンク角などの領域まで入っていくことができないから、試せない性能もある。

とにかく前に進む!

実際に履いてみて最初に思ったのは、パターンの通りの特性であることだった。まずはホームコースにしている埼玉県のモトクロスヴィレッジで乗ってみる。ここはウッドチップが巻かれていてソフト路面なのだけど、1.0kgと空気圧高めで乗ってみるととにかく前に進んでくれる。テストに使ったYZ450FXだとトルクがありすぎて、FIMタイヤなどではだいぶパワーをロスしている感触があるが、AT82では思い切り後ろから押される感じだ。試しに空気圧を0.6kgくらいまで下げてみたが、僕の腕前ではモトクロスヴィレッジでタイヤの衝撃吸収性を感じることは無かった。

次に乗ったのはハード路面の某プライベートモトクロストラックである。岩が露出して滑りやすいところもあるが、ここでの感触も良好だった。というか、正直モトクロスタイヤのミディアムハードとくらべて遜色ないくらい粘ってくれるので、自分くらいの腕前だとこのタイヤでどのモトクロスコースも満足できてしまうなと思ったくらいだ。もう、全部これでいいんじゃないだろうか……。そんなことを思い始めていた(編集部注:いつもの個人の感想です)。それと、ハード路面なのでここぞとばかりにタイヤを逆履きしてみたのだが、狙いはとてもわかりやすいなと思った。思っていた通り、コンパウンドが変わるわけではないのでミディアムソフトのタイヤがミディアムハードになるような感触はない。ただ、滑りやすいハードパックでリアタイヤをブレーキやエンブレで引きずりながらコーナーに進入するような時に、ソフト方向で履いている時よりもコントローラブルに感じる。かといってアクセルを開けた時に進まないような感触もない。前述した通り、コンパウンドはハードパックでも十分に粘ってくれるからだ。鈴木健二さんが言うように、ハードパックではブレーキ主体で乗るものなのだと言うことを強く実感した。

さて、それでは本領を発揮させてみようじゃないか。また別の某プライベートエンデューロトラックでマディコンディションを試す。ひっかかりのないハード路面や、ちょっとした岩場、丸太がある。空気圧は0.4kg、何度か履いて慣らしたあとのAT82は空気圧をしっかり下げてやるとしっかりたわんでくれる。タイヤを「(必要に応じて)潰しながら走ることでグリップ感を得る」というお題目は、昨今のエンデューロ界隈での大きなテーマなのだが、これが僕らビギナーには正直わかりづらい。そもそもタイヤを潰せるほど路面に押しつけられていない可能性がある。今回も、重責を感じながら走り始めたのだが、考えていたよりも感触がいいのにびっくりした。最もわかりやすかったのは、岩やギャップが尖っているようなセクションで、カポッカポッっという感じで(なんだそりゃ)跳ねられることなくギャップを吸収してくれ、さらにはしっかりブロックが尖った部分を掻きながら通過することだ。タイヤの中に、まるで低反発の枕をいれたかのような感触である。これが、タイヤが潰れることによって生じるストローク感なのかっ。マディでの感触もとても好印象で、本当にこの1本でなんでも出来ちゃうじゃないか、と思った。

角が取れるのはわりかし早い。鈴木のコメントでは角がなくなったらグリップは落ちるとのことだったが、イナガキは見ての通りサイドにしっかり角が残っているので、ほとんどこの状態では劣化を感じなかった。ここから3時間ほど乗っても、そうは変わらない印象。積極的にサイドを使っていけるライダーであれば、もう少しタレを感じるのかも知れない