雨に見舞われ過酷なコンディションとなったJNCC第2戦ビックディア広島。新たな開拓を行い大幅にコースレイアウトを変更して生まれ変わったテージャスランチ。しかし前日からの雨により、コース全体がマディと化した大会は、トップライダーたちをも苦しめる戦いを求められた。そんな極限の環境を制したのは、豪州から参戦したステファン・グランキストだった

JNCC Rd.2 ビックディア広島
日時:2024年3月24日
会場:テージャスランチ
リザルト:AA1クラス
優勝 ステファン・グランキスト(オーストラリア・BIVOUC大阪/GASGAS EC350F)
2位 矢野和都(日本・RG3 Racing/KX450X)
3位 渡辺 学(日本・bLU cRU TwisterRacing/YZ450FX)

目で見て耳で聞いて楽しい。気楽に観戦して楽しめるJNCC

Japan National Cross-CountryはJNCCの略称で日本のオフロードファンから親しまれているクロスカントリーレースだ。広大な敷地を使ったレースで、山や沢、林等といった自然を利用した場所をオフロードバイクで走る競技となっている。
そのJNCCにOff1編集部より取材に行かないか? と打診があったのだ。普段林道を走る事はあってもレースに出たり、観戦するという事には縁がなかった筆者だが、トップライダーの走りを間近で観れるとあって二つ返事で了承。ウキウキワクワクで会場に辿り着いた当日は残念ながら小雨。数日前からの雨によってコース全体がひどいマディコンディションとなっていた。正直歩くのですら苦労するほど。しかしパドックを見渡せば様々なメーカーやショップの出張店舗があったり、トップライダーのテントが所狭しと並んでいる。マシンの音や匂い、沢山のバイクが並んでいるのを見るだけでオフロードバイク好きならば、テンションマックスとなる事間違いなし。見て回るだけでも非常に楽しい時間だった。

コースに目を向けると非常に広大で、トップクラスのライダーが走るCOMPコース全長は9kmにも及ぶ。実際に見て回ると「こんなのどうやって行くの?」と絶望を感じるほどで、この泥だらけのコースをどうやって攻略していくのか想像がつかなかった。

このクロスカントリーレースでライダーたちは一体何を魅せてくれるのか、どんな想いで走っていくのか。特に今回はAA1のトップ選手を中心に取材をしてきた。

オーストラリアのステファン・グランキストがビバーク大阪のサポートを受けて再び参戦

オーストラリアから再び彼がやってきた! ステファン・グランキストはオーストラリア出身のライダーで、豪国内で活躍するライダーだ。JNCC開幕戦ではビバーク大阪のサポートを受けてラリーマシンのKOVE450RALLYを駆り参戦していたが、その彼が今度は本気マシンでレースにリベンジするのだ。今回乗るマシンはGASGASのEC350F、大阪ラウンドに引き続きビバーク大阪の保坂修一がメカニックとして帯同している。2週間ほどの準備期間もあったということで、しっかりとマシンを仕上げて用意してきたそうだ。同チームから参戦する矢野和都や熱田孝高やスタッフたちはすでに開幕戦で一緒にレースをしたということで、周りのライダーたちとも終始リラックスした雰囲気だった。また、初めて取材させてもらった筆者も快く迎え入れてくれ、懐の深さや優しさを感じた。

アクラポヴィッチとWPの前後サスペンション。マディ対策の為に保坂からのアドバイスで階段などに貼るノンスリップテープを貼っていた。保坂が実際に何種類も試したそうで、泥で目詰まりをせずにマシンをホールドしやすくなる。

ゼッケンの斜め上には「ステファン」と書いたステッカーも貼ってあり、ちょっと可愛い。

泥沼と化したコースを乗り越えるライダーたちの熱い戦い

前日から降り続いた雨により、レース当日のコースはマディコンディションとなった。水たまりや滑りやすい箇所が多数あり、コースは予想以上に過酷なものになっていた。運営側も状況を踏まえ、レース時間の短縮とコースレイアウトの変更を余儀なくされた。

早朝から立ち込めた濃霧は、予測のつかないレースを予感させる雰囲気だった。そんな舞台で、ホールショットを決めたのは日本勢の馬場大貴。その後を、豪州から参戦したグランキストが追走する展開になった。

「1周目はコースレイアウト変更の影響で迷ってしまったり、何でもないところで転倒を重ねてしまい、リズムが掴めなかった」とレース後に振り返った馬場大貴は、スタート直後に大きく順位を落としてしまう。代わってトップに立ったのは渡辺学。シングルゼッケンでも7分台が精一杯のところを6分35秒と好走。これにステファン、矢野、馬場、熱田と続くレースの立ち上がりであった。

すべてのセクションが高難度化する中、今回のキーポイントとなったのはラスベガスと呼ばれるすさまじい斜度の登り坂セクションだった。ラスベガスには回避ルートも用意されているが、当然早いのはハイリスクハイリターンの正面突破。

そのラスベガスはマディコンディションによってさらに難しくなっていた。トップクラスのライダーたちでさえ、リスクを抑えてエスケープを選択。そんななか「全部(ボーナスラインなど)やっていくしかない」と果敢に挑戦したのは矢野だった。

2周目以降、コースへの対応が整ったとみるやグランキストはペースを上げてトップに立つ。それを必死に追う矢野、といった展開でレースが進行していく。

中盤では3分近くの差があったグランキストと矢野だが、後半に入り矢野はスパートをかける。最終ラップでは、グランキストとの差を30秒強に詰め、ラスベガスにチャレンジ。しかし路面状況の悪化もあり登り切れず、惜しくも矢野の逆転は成らず、見事、グランキストが大阪でのリベンジに成功した。

このように過酷な雨のレースとなった第2戦。それでもライダーたちはひたむきにコースとの戦いを続け、常にチャレンジ精神を忘れずにいた。

今大会での活躍を交えながら、日本人ライダーと海外トップライダーとのスキルの違いや、クロスカントリー競技を取り巻く環境の違いなどについても、各選手のインタビューコメントを掲載していく。

トップライダー陣から見た熱戦の分析

ステファン・グランキストの勝利インタビュー

「とても素晴らしいレースができた。2戦連続で雨のマディコンディションだったけれども、接戦だったよ。オーストラリアのレースがうまくいけば、ぜひまた戻ってきたいと思う」と笑顔を見せたステファン。

日本のライダーの実力の高さにも感銘を受けたようで、「日本には良いライダーがたくさんいる。一緒にレースできて嬉しかった」と日本勢を賞賛した。

矢野和都の2位インタビュー

「序盤のコースミスでリズムを崩してしまい、1周目はペースを上げられなかった。2周目以降はコースを覚えてペースアップできたが、ステファンに置いていかれてしまった。後半は一気にペースを上げたけれど、集中力が切れてしまって色々なセクションでミスが目立ち始めてしまい、もう少し落ち着いて走れば良かった。もっと集中力をつけないといけない。ラストのラスベガスはチャレンジしたものの失敗してエスケープルートに行ってしまった」と悔しさをにじませた。

しかし「最近はハードエンデューロもやってるんで、難所系には強くなってきたかな」と前を向く姿勢も見せた。

渡辺学の3位インタビュー

「コンディションが厳しかったので、淡々とスタートから前の方に行って、バイクを壊さないように気をつけながら走った。結果的に3位を確保できたが、1年間戦っていく上では、まずはポイントを落とさないことが重要だと考えていた」

ベテランの渡辺学は、シーズン全体を見据えた上で、着実に走り切った。日本人ライダーと海外トップライダーとの差に関しても次のように語る。

「スキルの差は当然ある。ステファンは1周目からエスケープを走っていたりしたが、向こう(海外)のライダーはスピードレンジ自体が違うし、乗り方も全然違う。その差は大きい」

そして「ステファンが来ることで、確かに大きな刺激は受けるが、最初から『これは勝てる相手じゃない』と感じてしまうのが正直なところ」と、厳しいコメントを残した。

保坂修一(メカニック)のインタビュー

今大会でもステファン・グランキストをサポートしたビバーク大阪の保坂修一メカニック。前回の大阪ラウンドに引き続き、今回も万全の準備を重ねてきた。

「前回は急な話だったので準備ができなかったが、今回は2週間前から話があり、バイクの準備もしっかりできた。ステファンが勝ててよかった」と手応えを振り返った。

日本人ライダーの活躍もサポートしてきただけに、「矢野選手も2位で、チームとしては上々の結果だった」と満足げだ。

一方で、「熱田選手はトラブルもあって残念でしたけど、チーム全体としての連携も悪くなかったので良かったと思います。初めてサポートする側に回りましたが、今後の良い勉強になりました。」と笑顔をみせた。

馬場大貴、苦戦するも前向きに

スタート直後は良かったものの、ペースが上がらず、リズムに乗れずにいた馬場大貴。「自分の実力不足だと割り切って、もっと順位をあげていけるように、まだまだ練習を重ねていかないといけない。シーズンはまだ始まったばかりだ」と力強く語った。

ただ海外勢とのスキル差については「その差はかなり大きい」と実感していた様子。「環境が全然違う。練習内容からセッティング、コースで使うスピードレンジまで全然違う。その差を感じる」と厳しい現実も認めつつ、「まだ若いので伸びしろということで、これから頑張っていく」とトップ選手の中でも若手らしいコメントを残した。

熱田孝高のチャレンジ精神

3週目でラスベガスでマシンを破損してしまい、リタイアとなった熱田だが、インタビューではチャレンジした者勝ちだと興味深い指摘をした。

「チャレンジしないと結果は残せない。ステファンは勝っているし、チャレンジをした矢野選手の方がよりよい結果を残している。チャレンジするという事が大事」

そして「難しいコースコンディションの中でチャレンジして転倒し、リタイアとなったが次こそ頑張ります」と前向きにコメントした。

日本のクロスカントリー界を後押しする星野社長のコメント

ステファンの参戦に関しては、「ビバーク大阪さんからの提案があってね。それならばと応援したくてお手伝いをしました。毎年AAGP(JNCC R9 AAGP ビッグバード)に海外トッププレイヤーをGNCCから呼んだりしていますが、交流の場を作る事が大切だと考えています」と語った。

雨に見舞われた過酷なコンディションを乗り越え、挑戦心と不屈の精神でひたむきに戦い続けたライダーたちの姿こそが、クロスカントリーレースの本質的な魅力を体現していた

絶対自分ではこんなの無理……レースを観終わった筆者の第一印象だ。自然との戦いと感じたクロスカントリーレース。もちろんレースなので順位という形で勝敗は決まってしまうのだが、レースをしている瞬間は自然と自分との戦いなのだろう。刻々と変化していく路面の中、走り続けるだけでも難しいコースを土を巻き上げ駆け抜ける、時にはバイクを押していく。タイムを削る為にリスクとリターンを天秤にかけ、難しいセクションに挑戦していく姿がそこにあった。

雨のコンディションとなった今大会。それでもトップライダーたちは精一杯のパフォーマンスを見せてくれた。勝利を手にしたステファンは「また来たい」と笑顔。一方の日本人ライダーは、スキル面や環境面での海外勢との差を痛感する場面も見られた。

海外ライダーとの差は大きく、普通に走っているだけでもスピードレンジは違うし、セクションのクリアもうまい、また練習環境も大きな差があるという。グランキストはラスベガスを含めエスケープを選択しているのにもかかわらずベストラップを獲るほど。そんな速さに追いつくためには難しいセクションにリスク覚悟で挑戦し、それをクリアし続ける精神力も必要なのだろう。

しかし、そんな中でも日本人トップライダーは、常にチャレンジ精神を忘れずにいた。結果は伴わなくとも、"チャレンジした者勝ち"との指摘があったように、勝敗よりも大事なものがそこにはあった。

泥まみれのコースを、雨に打たれながらも前に進み続ける。次々と変化する路面状況の中で、バイクを押しつつもゴールを目指す。リスクを冒してでも、高難易度のセクションに果敢に挑む。そうした苦しく過酷な闘いに立ち向かい、たゆまぬ心で挑戦を続けるライダーの姿こそ、私がクロスカントリーレースの本質的な美しさと価値を見出したのである。