トライアンフが誇るアドベンチャーバイクの旗艦、TIGER1200が2024モデルでアップデートされた。エンジンの細部にわたって手が入るビッグマイナーチェンジの結果に期待がかかる。旧TIGER1200を所有する、当編集部が実走リポート

2024 Tiger 1200 GT PRO Off1.jpインプレッション

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TRIUMPH
TIGER1200 GT Pro
¥2,435,000(税込)〜
カラー:スノードニア・ホワイト、カーニバルレッド、サファイア・ブラック

新型モデルの主な変更点
・クランクシャフト、オルタネーター、バランサー、マッピングを変更して低速の扱いやすさを向上
・クラッチ周りの刷新
・GT ProおよびGT EXPLORERではステップの位置を引き上げバンク角を確保
・ダンパー付きハンドルバーライザーをGT Pro、Rally Proに導入
・シート形状をフラット化

PHOTO/nofplex

新型1200でがらっと変わった印象

旧TIGER1200のオーナーでもあるOff1編集部は、昨年末の12月にお邪魔したTIGER900のモデルチェンジローンチで非常に驚かされた
。TIGER1200とはまったく違うジェントルで角がとれたエンジンフィーリングが素晴らしかったからだ。どの回転域からでもドゥルドゥルドゥルと加速するTプレーントリプルエンジンの気持ち良さ、絶妙なフィーリングは筆舌尽くしがたい。本気でTIGER1200からの乗り換えを考えたくなるほどいいバイクだった。その出来映えは、すでに日本国内でも大好評だとトライアンフジャパンの広報部は口にする。

そこにきて、トライアンフのチーフ・プロダクト・オフィサー、スティーブ・サージェントは「2024年のTiger 1200シリーズのアップデートは〜中略〜、顧客からのフィードバックに耳を傾け、すでに新型Tiger900で明らかになった新たな改良点のいくつかを統合することで、ライディング体験の大幅な向上を実現しています」とコメントを残している。これは、是が非でも新たなTIGER1200に乗らねばなるまい。

日本に先行して入ってきた車輌は、最もオーソドックスな19−18インチのロード向けタイプであるTIGER1200 GT Pro。まっさらな新車をお借りしてまずは夜の都内を駆け抜けたのだが、文字通りクラッチをつないだ瞬間からこれは期待通りのマシンだと感じた。スペインで開催された試乗会でものすごく好感をもったTIGER900の味付けが、そのままTIGER1200に反映されていたからだ。

そもそもTIGER1200はトライアンフフリークの皆様ご存じの通り、3気筒のエンジンを搭載していることが特徴だ。低回転ではまるで2気筒かと思い込みそうなトルク感、高回転では4気筒かのようなパワー感と、いいとこどりのエンジンだという評価を受け、トライアンフのトリプルは歴史的にファンが多い。対して近年話題のアドベンチャーバイク群は、そのほとんどが並列2気筒だ。そして、それらは180度クランクではなくわざと位相をずらしてパルス感を演出する270度クランクを採用している。ババババババと爆発を連続させるのではなく、ババッ、ババッ間欠的に爆発させることでトラクション性能に優れ、また乗り手もエンジンの脈動を感じやすいことで気持ちいい加速フィーリングを得ることができる。TIGER1200の3気筒は、本来的にそういった脈動とは無縁の120度クランクで完全なバランスを持たせることができるエンジン形式なのだが、あえて270度クランクのように位相をずらすことで脈動を持たせる「Tプレーン」を採用している。

Triumph Tiger 1200 Animation 2 T Plane

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旧TIGER1200は、たしかに位相をずらした3気筒なのだろうなと思えるフィーリングであった。高めのギヤで走ると、どこか単気筒らしい出力特性になるのも面白いところだった。エンジンの爆発を感じる回転域は少なく、少し捉えどころの無いエンジンだったと言えるかもしれない。ところが、新型TIGER1200は、手に取るようにその爆発の感触がわかる。オノマトペにすると、旧型がゼーゼーゼーと回るのに対して、新型は新TIGER900と同様にドゥルドゥルドゥルと回る。パルス感がとても気持ちよく出ていて、これこそがTプレーンの本領発揮なのだ! と確信した。

街中やワインディングの常用域が格段に気持ちいい

とにかく新型TIGER1200の魅力はこのパルス感に尽きる。

最もそのパルス感が出るのは、高めのギヤで2000回転くらいから負荷をかけてスロットルを開けていくような場面である。クルージングしていると、2速ではその領域をあっという間に過ぎてしまうので、3速、できれば4速に早く上げたいという気持ちになった。だいたい幹線道路を走っていると、4速2000回転で50km/hくらい。時折5速も交えて乗ると、とても心地がいい。TIGER900でも同じような走り方ができなくはないのだが、900よりトルクに溢れるTIGER1200だと、よりクルージングの快適性が高いなと感じる。首都高をゆったり流していると、背の高さや、ラリーテイストあふれるルックスで、アメリカンクルーザーに近い魅力があるなと思った。とてもおおらかなのだ。旧型では、こうはいかない。

ワインディングでも、やはりそのおおらかさと2000〜3000回転くらいの低回転域の素性の良さが光った。3〜4速を多用してマシンのスピードをあまり殺さずにタイヤを転がしていくようなジェントルな乗り方がとても気持ちいい。少し多めにスロットルを開けると、ドゥルドゥルドゥルというフィーリングが、ダダダダというフィーリングに変わって加速する。この加速感を何度も味わいたくて、コーナーの脱出が待ち遠しくなる。なお、この蜜の味がする低回転域のフィーリングは、TIGER1200のライディングモードをオフロード、スポーツ、ロードなどのアクティブなモードにすることで強調される。穏やかさが求められるレインモードは、旧型のようにパルス感がおとなしめである。

中〜高回転域については旧型と大きく変わりはないなと感じた。4000回転以降はパルス感がほとんど感じられない巡航モードといった趣で、さらに回していけばリッターマシンらしい怒濤の加速をしてくれる。栃木の方まで走りに行き、帰りに高速を使ったのだけれど、僕が知るTIGER1200そのものだった。砂利道を走ってもTIGERらしいガオオオオオという音で圧巻の加速をしてくれる魅力は健在。まるで4輪のラリーマシンのような多気筒のエキゾーストノートはいつ聞いても病みつきになる。TIGERは楽器なのかもしれない。いつかこの気持ちいい音に浸りながらダートのコーナーを立ち上がりたい。

グレードを1つ上げたかのよう

ハンドルのライザーマウントにダンパーを仕込んだり、ステップのゴムを厚くしたことも好印象なのだろう。振動というのはとても不思議だ。ライダーにとって好意をもって迎えられるパルス感とは違い、気づかないうちに雑味として体内に蓄積される振動といったらいいだろうか。ダンパーやゴムの厚みで、そういった部分がカットされているからこそ、パルス感をとても気持ちよく感じる。これは旧型と比べてハンドルから伝わる振動を意識しながら走るとよくわかった。

新型のシートはかなり後ろまで余裕がある

旧型シートは収まりがいいが自由度は少ない

シートの形状も変更されているが、これも好印象だ。旧型では「ここに座りなさい」とマシンに言われるかのごとく、決まった定位置があった。新型ではライディングポジションの自由度がとても高い。少しお尻でリアに荷重をかけたいとか、あるいはダートで低い姿勢のまま腰を引きたいという場面でだいぶ違いを感じる。クラッチも刷新されているとリリースされたが、これもとてもわかりやすかった。ギヤチェンジがスコスコ決まり、上質なミッションに差し替えられたかのようだった。

これらひとつひとつの変更点が合わさって新TIGER1200は、グレードが1つ上がったような印象を受けた。少し大袈裟かも知れないが、車で言うBセグメントがCセグメントになったような、ヤリスからカローラに格上げしたようなイメージだ。

昨今のオートバイは、スロットルバイワイヤ化やアダプティブサスなどの採用も進んで電子制御が至る所に入っている。初期の段階では、ライダーの意思が反映されづらくリニアさに欠けるマシンもあったが、各社開発が進むにつれてキャブレター時代を遙かに超えるダイレクト感を手に入れている。ハード面とソフト面をエンジニアがうまくつなぎ、機械としてシームレスに開発が進んでいることの顕れだろう。TIGER1200のアップデートは、まさにこのソフト(マッピング)とハード(エンジン)がシームレスに開発されたことで、ドライバビリティを底上げしたところに成功があるのだと思う。問題は買い換えるか否かだ。さて、どうしよう。