他の何を差し置いても、グリップだけはこだわりの品があるというトップライダーは少なくない。オフロードバイクのスタンダードとなるべくリリースされたZETAダートグリップを試してみた
買いやすい値段だが妥協点はなし
ハンドルバーから始まったレース志向のパーツブランド“ZETA”、よりスタンダードな用品を揃える“DRC”はどちらもダートフリーク発のブランドだ。日本のオフロードシーンを支えてきたこの二つのブランド、どちらもハンドルグリップをラインナップとして持っている。デュアルコンパウンドを採用したZETAレースグリップはトップカテゴリー向けに、ツーリング向けだが極めて薄いことが一部のレースユースに注目されているZETAベースグリップ、そしてオフロード一般用途向けDRCチームグリップがそれぞれ高く評価されてきた。そしてこのたびDRCチームグリップに代わって、オフロードバイクグリップにおけるスタンダードとして発売されたのが、今回紹介するZETAダートグリップだ。
オフロードバイクのグリップが持つ特性には、いくつかの方向性がある。
・コンパウンドの硬度 掌への衝撃吸収性を左右する。柔らかいものは疲れにくいが傷みやすい
・グリップの厚み 握ったときの太さに直結。細いほど繊細なコントロールに適しているが、ゴムの厚みが減ってしまうため衝撃吸収性が犠牲になる
・コンパウンドの粘度 柔らかさとは別にむちっとした弾性があるグリップはフリクションが高く、掴みやすく外れにくい
たとえば、ZETAのベースグリップはスポンジやゴムなどのフォームを巻くことを前提としているので、その分ゴムが極端に薄くワッフルもない。プロライダーの馬場大貴や野崎史高らが操作性が良く疲れにくいと好んで使うことで有名になったが、細く粘度が高いため掌へのアタックも強い。レースなどの激しい用途であれば、プロテクトJ1などの皮膚保護クリームや、テーピングと併用して利用したい。
参考:『正解がないからこそ知っておきたい、自分に合ったグリップの見つけ方』(ライドハック)
さて、スタンダードを目指したダートグリップとはどんなものなのか。実際に握ってみるとグリップとしてはとても標準的な構成だ。ZETAのハイエンド商品であるレースグリップと同様に、ワッフルの格子をドアノブ握りに対応した斜めの形状にしていることが特徴である。また、特に小指〜中指にかけては指がかかりやすい形状だから、しっかりグリップをホールドできる。DRCチームグリップと比べても少ない力で操作できる印象がある。アルミハンドガードに対応したオープンエンドとクローズドエンドの2種がラインナップされている上、ワイヤリング用のグルーブ加工などもあり、抜かりはないといったところだ。1,870円と買いやすい値段でありつつ、必要十分な機能性を確保していると評価できる。
各社ノーマルグリップより明らかに“むっちり”
今回このダートグリップをヤマハのエンデューロバイクYZ450FXに装着し、クロスミッションのイベント「Next Riders」で試してみた。多くの人が「最も標準的」と思い描くはずの、各社バイクに標準装備されるノーマルグリップに比べて、柔らかく粘度の低いゴム質だなというのが第一印象だ。ぱっと握ってすぐにわかるほどにソフトで、手に馴染みやすい。むっちり系グリップ最左翼として「ゲコタグリップ」の愛称で呼ばれるODIローググリップほどではないが、しっかりグローブに吸い付いてくるフィーリングだ。だから操作性はとてもいいなと感じた。
粘度に比べ、ゴムの厚みは標準的だ。薄くもなく厚くもない。ただ、ワッフルの形状によるものなのか握った感じは少し細めの印象を受けた。このことも操作性の高さに影響しているハズ。特に今回はYZ450FXというハイパワーマシンを扱うということで、スロットル側にはかなり繊細なコントロールが求められたのだが、そういった点でもとても相性良く感じた。ヒルクライムでじわっと開け足すような時に、ミスが少なくなるだろうなと思った。
反面、疲れにくさという点においては、正直なところそこまで掌に優しいとは感じない。マメを破くほど乗り込みはしなかったが、むっちり操作性がよく掌に吸い付くタイプだからこそ、皮膚に伝わるダイレクト感は決して低くないだろう。ノーマルグリップよりも操作性が高い分、掌への攻撃性は少し高めと言ったところだろうか。グリップの性格としては、若干操作性重視に尖っていると評価してもいいと思う。
林道ツーリングなどに使う場合は、さらにレンジが広く使い勝手がよさそうに感じた。スタンダードなグリップの太さで多くのライダーに馴染みやすい握り心地、そしてグローブに吸い付くむっちりした感覚と振動を抑えてくれる柔らかさは、ロングライドでも疲れにくいはず。レース用途では操作性がよく、ツーリング用途でも疲れにくい、スタンダードとなるのにふさわしい“ちょうどいい”グリップと言えそうだ。