2024年のダカールラリーでは、メイソン・クラインがステージ1で3位に入る活躍を見せた中国のオートバイメーカーKOVE。その市販車がついに日本へ上陸、早速インプレを遂行したのだが、驚愕のマシンであった

RIDER/風間晋之介
PHOTO/稲垣正倫

うわ、これ……林道で最高ですね

いま、競技としてのラリーはどんどん先鋭化が進み、かつての冒険ラリーとはまったく違うものになっている。その筆頭がダカールラリーだろう。マシンの進化によって最高速がどんどん塗り替えられた結果、現在は450ccの排気量制限が設けられている。排気量がそこまで小さくなるとおのずとマシンは軽量な方向へと進化し、近年のダカールラリーを走るバイクはモトクロスのようなジャンプもこなし、エンデューロのようなややこしいテクニカルなセクションを楽々走れるマシンにアップデートされた。

450ccになる前はテネレやアフリカツインなど、市販車ビッグオフローダーとダカールラリーのイメージは密接に繋がっていた。もちろん別モノではあったものの、テネレやアフリカツインをラリーマシンレプリカに乗っている気分で日本の林道を楽しむことができたわけだ。ところが今はそうではない。競技用のラリーバイクは、他の何にも使われることのない特殊な尖ったバイクである。ホンダのCRF450RALLYはそもそも手に入らないし、KTMの450RALLYレプリカは600万円もする代物だ。一般人からは遠く離れた存在になってしまったと言えるだろう。

実際のところ、高嶺の花となってしまったそれらのラリーバイクはどういう乗り味なのだろうか。今年ダカールラリーを完走した池町佳生によると「KTM 450ラリーレプリカは直進安定性がとても高く、スピードも制限速度の160km/hまですぐに到達するパワーがある。とはいえ、やはりレーサーですからお世辞にも『乗り心地がいい』とは言えないですね」とのこと。2017年、2018年に南米ダカールラリーを完走した風間晋之介は「ドラゴンレーシングがチューニングしたWR450Fベースのラリーバイクでしたが、エンジンはほとんどYZ450Fに近いフィーリングでとてもパワフルでパンチがあります。YZ450FXよりもYZ450Fに近いって言える。サウジアラビアのダカールも見ましたが、昔よりもハードなルートを通るので最近はコントロール性も重要視されている」とのこと。様々なライダーからの話を総合すると、カウルが着いたモトクロッサーのようなもので、エンデューロマシンより遙かに過激だ。

いわばダカールラリーのレプリカマシンであるKOVE 450RALLYが市販化されると聞いて、一体どういう使い方をされるのかと考える人は少なくないだろう。そんな砂漠を超えていくための尖ったバイクは、よほどのラリーファンや一部の好事家だけが食指を伸ばすものではないか。この狭い日本のどこを走るのか。また北海道の林道に思いを馳せる日を送るだけになるのではないか。だが、そうではなかったのである。

あえて、ここは今回インプレをお願いした風間晋之介の一言で始めるのではなく、ノービスクラスを行ったり来たりする一般人初級ライダーであるこの私、稲垣の言葉から聞いていただきたい。「このバイクは、僕が今まで乗ったどんなバイクよりもスライドが意のままにキマリ、そしてどんなバイクよりも林道に行きたくなる。450ccの余裕ある出力は意のままに操れるリニアなもので、軽い車体、しっかりした足回り、どれをとっても僕がフラットダートを走るのにジャストフィットしている!」

フレームはホンダやKTMとも似ていない鉄製のスリムな形状。エアクリーナーボックスを挟み込んでいるのである意味ペリメタか。モナカ形状だったりするところもかつてのKX系のフレームと似ている

いとも簡単に外れるタンクは、歪んだときにもつけやすいようボルトのメスが縦に広く調整できる機能付き

水冷ラジエターに、オイルクーラーが装着される

風間晋之介「このバイクを少しセッティングすれば、ダカールで完走できるんじゃないか」

「誰が乗っても面白く乗れるっていう意味で、すごく可能性を感じました。

コンペティションとして戦うダカールラリーのマシンとはだいぶ違います。ダカールで順位を狙うと考えたらパワー不足は否めないでしょう。でも、公道を走ることを考えたらこのくらいのパワーの方が絶対にいいと思いますね。万人に合ってますよ。YZみたいなマシンは万人には扱えないですから。ただ、セッティングを変えてパワーを出したりすれば、このバイクでダカールを完走できるんじゃないかと思わせるには十分なポテンシャルです。耐久性さえ担保できていれば、僕もこのマシンでダカールを完走できるのではと思えますね。

フロントとリアのバランスがとてもよくて、ステアリングダンパー無しでもフロントが振られること無くリアは滑りすぎない理想的な状態になっています。エンジンの特性もパンチがない反面、いい意味でどこにもピークがなくてフラットな仕上がりで扱いやすさに直結しているから、誰にでもリアを振り回すことができるように感じるんじゃないでしょうか。変に開けすぎてもパワーが出過ぎることがないから、スライドしすぎることがないんですよね。ダートを160km/hで巡航するようなダカールラリーでは、もう少しスイングアームを長くして直進安定性とトラクション性能を高めたほうがいいかなとは思いました。たぶん、ダカールを完走したバイクは長めのものがついているんじゃないですか。ただ、そうすると、曲がりづらくなるので一般公道向けにこれでいいと思いますし、正解だと思います。

足回りの不安感がないことにもびっくりしました。レーサー目線で言えばもうすこし硬めがいいかなとは思いますが、130km/hくらいで思い切りダートを飛ばしてギャップに入っても、全然問題ないレベルです。ガレたところでも安定性はとても高いですね。初期の動きもいいし、粘りもある。クロスカントリーバイクに同じような感覚で乗ってみると、車体が軽すぎて硬く感じちゃうくらいです。ちょっとジャンプしても全然大丈夫。

だいぶ乗ってみましたけど、エンジンも足回りもまだまだ未知数な戦闘力もたくさんあるんじゃないかと感じます。この日本に入ってきている仕様は42PSで、中国仕様なら10 PSは上乗せされるらしいので、まだまだ伸びしろもあるんでしょう? 本来は戦闘力はもっと高いはず。今は一般向けに落としてあげてるだけという見方もできますね。だいぶ探してみましたが、悪いところがほとんど見つからないんですよ。

アドベンチャーバイクが今流行ってますけど、オフロードに行くってなると難しいじゃないですか。一番コンペティションに近いフィーリングでオフロードを走れるアドベンチャーバイクはヤマハのテネレ700だと思いますが、それでもオフロードに入っていくことはハードルが高い。ロードの性能を重視してるので仕方がないのですが。僕は元々、オフロードを楽しんでもらえるバイクとしては、ラリーバイクを公道用にモディファイするのがベストだと思っています。今回高速道路で乗っていないのでなんとも言えないのですが、この450が高速道路で快適だったらオフ向けのアドベンチャーバイクとしての素質も、とても高いと思います。各社、このクラスのアドベンチャーバイクを出して欲しいですね。

驚きですよ。こんな完成度をこの値段で実現しているとは思っていませんでした。脅威ですよこれ」と目を輝かせながら風間は言う。

この試乗の日、ダカールラリーに参戦したことのある佐野新世、そしてテネレ700でハードエンデューロにも挑戦するマルチタレントなライダー和泉拓も同席。風間同様に、二人も驚きを隠せないようだった。仙台でバイクショップ、ストレンジモーターサイクルを営む和泉はある程度疑念をもって試乗に来ていたものの、帰る頃には自分のショップで取り扱うことを決めたと言う。「エンジンはトレール車以上、レーサー未満という感じです。後軸出力で35から38PSくらい出てるんじゃないかな。シートもお尻に優しくて長距離もいけそうな感じです。試乗車はクラッチのつながりがすこし寝ぼけている感じがありますが、調整でどうにかなるでしょう。開け始めのスロットル開度20〜30%くらいのところに、少し盛り上がりが作ってあってオフロード車っぽい出力特性になっているなと思いました。トレールライドに関しては、軽さとライディングポジションがとにかく素晴らしい。フロントにしっかり乗ることが出来て、フロントが逃げていかないんですよ。150kg程度って決して軽い数字じゃないのに、乗った感じが軽いのが不思議ですね。サスペンションも嫌な動きはせず、普通にいい仕上がりです。林道はめちゃくちゃ乗りやすいと思う」とのこと。佐野は「トレールバイクを買ってラリー遊びをしようと思ったら、いろいろやらなくちゃいけないけど、これならこのまま遊べちゃう。エンジンにシビアさがなくて、車体はすごく軽い。ガレ場にいっても不安はないです」とのこと。

細部の仕上がりや使用されているパーツ、ボルト類に至るまでクオリティが低いと感じる部分はなく、あとは実際に運用してみてどうかといったところ。エンジンは単体でたった25万円で買えてしまうし、各パーツは激安(スクリーンを例に取ると2000円)なので、倒して壊れてしまっても補修もしやすいはず。現状では死角が見当たらず、あとはこの450ccの新たなジャンルをどう乗るか、ユーザーのクリエイティビティに任せられることになりそうだ。

スライドを何度も楽しむ佐野

フロントもあがりやすい(和泉)

KOVE
450RALLY

¥1,280,000

興味の尽きない車体にノギスを持ち出す和泉

編集部稲垣でもスライド楽しめるっす。そうは見えないかもしれませんが! PHOTO/のふ