三宅島を襲った度重なる噴火による災害からの復興のために開催されているWERIDE三宅島エンデューロ。今年で12回目を迎える本大会だが、毎年参加者を変えながら大盛況のまま継続されている。今年は三宅島で生まれ育った子どもたちも参加し、例年とはまた違った賑やかな大会となった

毎年書いている気がするが、僕のオフロードバイク人生は2011年にWERIDE三宅島エンデューロレースの動画を見たことから始まった。2016年には初めて三宅島を訪れて取材し、2017年からは続けて参戦、気がつけば今年でもう5回目のエントリーとなる。

僕は決してバイクがすごく上手いわけでもないし、速いわけでもない。それは10年以上モトクロスやエンデューロをやってきて、嫌と言うほど実感している。しかし、この三宅島だけは、毎年少しづつではあるが順位が上がってきていて、最初は約130台の中で半分くらいだったのに、昨年は総合26位(排気量オープンクラス9位)まで上がった。「いつかは三宅島で表彰台に……」という密かな夢も諦めずに持ち続けている。

でもそれは、まだまだ遠い夢だった……はずなのだ。

天啓かワナか⁉︎
新型YZ450FXが舞い降りた

今年も自身が所有するBETA RR2T200で出場するつもりだった。ところが、レースまであと一週間を切ったところで、編集長である稲垣が会社に2024年式のYZ450FX(ヤマハから借りた広報車)を持ってきてこう言ったのだ。

「イイくん、これで三宅島出てみない?」

青天の霹靂である。

僕はYZ450FXのメディア試乗会に参加したが、終始撮影をしていて自分では1秒たりとも乗っていない。ここ数年2ストロークばっかり乗っているし、それどころか「ヨンゴー(4ストローク450ccのこと)」というものに乗ったことすら、ほとんどない。記憶を遡っても覚えていないくらいだから、本当にないのかもしれない。

ただ、新型のYZ450FXは物凄く乗りやすくなっているという。Off1のインプレにもそう書いてあった(完全に読者の皆さんと同じ目線だ)。ライダーを務めてくれた内嶋亮選手は「これならシライ(茨城県のトライアル・ハードエンデューロコース)を走れる」とまで言っていた。ただし同時に「乗りやすいとは言ってもヨンゴーだから開ければ物凄く走る」という話もよく聞く。果たして僕に扱えるのか、不安しかない。

僕はこの三宅島が終わったら愛車のRR2T200を手放すつもりでいて、最後の晴れ舞台として捉えていたこともあって、丸一日悩んだ末、結局自分では決められなかった。そこで三宅島エンデューロの運営の福島さんに「車両変更したいんですけど……もう一週間切ってるしダメですよね?」と半ば“ダメと言って欲しい”と願いながら連絡したところ「クラスも変わらないし、大丈夫ですよ!」と、あっさり承諾いただき、一度も乗ったことのないYZ450FXでレースに出ることになったのである。

とはいえやはり、(ほぼ?)初めてのヨンゴー。不安はある。そこで、少しでもバイクを自分に合わせてセッティングしておこうと思った。YZ450FXはエンジンのマッピングをスマートフォンのアプリで容易に変更することができる。特に新型ではそれが実にわかりやすい画面に変更されており、僕は迷わずエンジンパワーを一番スムースに振り切った。また、YZ450FXにはトラクション・コントロールが付いていてOff、Low、Highから選ぶことができる。普段僕が乗っているBETA RR2T200にはない機能なためOffにすることも考えたが、先日某メーカーの試乗会でトラコン付きのモデルに乗ってその恩恵を感じられた経験があったため、Lowを選択した。ローンチコントロールは三宅島ではどうせ使わないので、初期設定のままにした。

車両はハンドガードを装着しただけで、ノーマルのまま挑むことにした。せめてタイヤは新品のゲタタイヤ(DUNLOP MX14)を用意するか悩んだが、スケジュールに余裕がないこともあり、お借りした広報車に装着されていたMX33をそのまま使うことにした。

金曜日の昼〜夕に辰巳埠頭でバイクを預け
竹芝桟橋からフェリーに乗り込む

レースウィークの金曜日の昼、三宅島エンデューロは東京都にある辰巳埠頭でバイクを預けることから始まる。ちょっと雨模様だったが、傘をさすほどではない。今回一緒に参戦するメンバーはみんな三宅島初参加なので、時間を合わせて辰巳埠頭に集合し、忘れ物などのないように入念に確認しながら受付を行なった。

ここでは受付で計測のためのポンダーを受け取ってバイクに装着し、ガソリン給油などを済ませてからバイクを預け、コンテナに積み込んでもらう。YZ450FXの新型は受付のスタッフや他の参加者からも大いに注目され、「やっぱり軽いの?」や「乗り味はマイルド?」と言った質問を多数受けた。

ごめん……まだ乗ったことないんだ……。

さらにここではパドックに運んで欲しいものをカゴに入れて預ける。僕は毎年工具箱を一式と空気入れを預けている。予備のチューブやレバーなどもあると、なお良いだろう。

また、別にガソリン携行缶、プロテクター、ブーツなど嵩張る装備類を預けることができる。

気の合う仲間たちと、いざ三宅島へ船旅

今年、僕と一緒に三宅島に挑戦してくれたのは、キャンパスオフロードミーティング東日本のスタッフを務める各大学のバイク部OBたちだ。彼らとの付き合いもかれこれ7年になり、今ではキャンオフ前夜祭の飲み会は僕にとって大切な憩いの場の一つとなっている。

梅山拓也(梅ちゃん)、嶋崎友一朗(ザッキー)、永井隼斗(COMP-A永井)、津村快太(ツムツム)、そして僕。非常に華のないメンバーで申し訳ないが、今回はこのおっさん5人旅となる。

バイクを預けた後は車をお台場の指定駐車場に預け、電車で竹芝埠頭へ移動する。フェリーの出航まで3〜4時間ほど時間があるため、竹芝の居酒屋で決起集会という名の飲み会。これも毎年のことである。

フェリーに乗船する前にWERIDE三宅島エンデューロレースに参加するライダーたち全員で集合写真を撮影する。これから始まる船旅にテンションMAXの瞬間。初めて参加する人も多いようだったが、何度経験していてもこの瞬間はテンションが上がってしまう。

「今年の優勝候補は誰だろうなー」とエントリーリストを見ていると、まずエキスパートクラスにエントリーしているエンデューロIAの後藤敏文選手の名前が目についた。さらにJNCCのCOMP-Aライダー後藤宙選手、一緒に参加している永井隼斗くんもJNCCのCOMP-Aライダーだ。さらにG-NETポイントランカーのタカ選手まで! さらに八王子・東村山のオフロード系ショップ、フリーダムナナの猛者たちが大勢参加していた。

これは今年も僕の表彰台は難しそうだ……。

三宅島航路で運用されている橘丸。僕らが先に預けたバイクはこの橘丸ではなく、別の船で島へと運ばれている。なお、レース以外の時でも250cc以下のバイクならこの橘丸に積み込むことができ、三宅島でツーリングを楽しむことが可能だ。

レインボーブリッジの下を潜ると、いよいよ現世とサヨウナラ。僕は今年で7回目の三宅島訪問(レース以外でも一度ツーリングで訪れている)になるが、毎回同じ場所からこの写真を撮っている。

船酔いに弱く、早々に就寝してしまった2名を除き、ザッキーと梅ちゃんと3人で乾杯。翌朝9時まで運転しないので、安心してアルコールが飲めるのだ。

とはいえ、翌日の昼にはレースである。早々に就寝して体調を整えたいところ。ところが僕はこの日、なぜかほとんど眠れず、ようやく1時間くらいウトウトしたところで船は三宅島に到着。死にそうな体調でバスに乗って宿に運ばれたのだった。

自分のバイクで三宅島を走る
パレードランでスター気分!

朝9時頃になると、チームごとに割り当てられた宿に散らばったライダーたちは再び一箇所に集められ、自分のバイクと対面する。ここからは白バイの先導で公道を走ってレース会場まで移動することになるのだが、このパレードランがまた最高なのだ。

片側に海、反対側に山を見ながら約15分ほど走る。エルズベルグロデオなど海外のお祭りレースではこのパレードランは付きもので、街中で行われると大勢の観客にアピールする場となっている。この三宅島でも島民のみなさんが応援に来て、手を振ってくれている。ちょっと国際的なライダーになった気分を味わえる瞬間だ。

開会式では特定非営利活動法人 三宅島スポーツ振興会 理事長の井澤幸男氏が開会宣言を行い、大会主催者であり三宅村長 櫻田昭正氏、東京都副知事 黒沼靖氏(東京都知事 小池百合子氏の代理として出席)、大会顧問 三宅村議会議長 谷寿文氏が挨拶を述べた。

司会は元全日本モトクロスレディースライダーの柳本曙光さんが務めた。なんでも例年司会を務めていたジャッキーさんが喉の病気で大きな声が出せなくなってしまい、2日ほど前に急遽頼まれ、ド緊張の元で挑んだという話だったが、さすが様々な大会でMCを務めてきただけあって、完璧な司会進行ぶりを見せた。

いよいよレーススタート!
思った以上に扱えたYZ450FX

例年だと開会式の前にサイティングラップがあり、ゆっくりコースを一周してからスタートなのだが、今年はなんとコンテナの到着が少し遅れてしまったらしく、サイティングラップがカット。代わりに一周目はマーシャル先導によるローリングスタートが採用された。

普段であれば、何度も三宅島を走っている僕にとっては些細な問題なのだが、何度もお伝えしてる通り、今年のマシンは初めて乗るヨンゴー……。正直、このサイティングラップで慣れればいいか、とタカを括っていた部分があったので、かなり困惑してしまったが、今思えばサイティングラップで一周したくらいでは何も変わらなかっただろう。

三宅島エンデューロレースは基本的にゆるーく楽しむお祭りレースなのだが、僕にとっては一年に一度、本気で順位を狙うレースなので、ルールの範囲内でできる限りのことをする(もちろん強引なパッシングなどは絶対にしない!)。開会式が終わってすぐにパドックに置いてあるバイクに移動し、2番グリッドを確保! 目の前に巨大な水たまりがあり、どうにも避けられないスタートだが、怯まず突っ込む意思を固めた。

てっきり横一列スタートかと思っていたら、右端から一台ずつのスタートだったらしく、スタートした途端に前のライダーさんの水飛沫をもろに浴びてしまった。ゴーグルが泥だらけになって視界が悪くなるのだけは回避したが、ウエアがずぶ濡れになってしまい、走って風を受けるとかなり寒く、レースの途中からは鼻水が止まらなくなってしまった……。とはいえ僕の水飛沫も隣のライダーさんにもろにかかってるので、これはもう先頭を確保できなかった自分が悪い。

一周目を先導マーシャルの真後ろにピッタリついて走行していたのだが、もうすぐ一周目が終わる、というタイミングで明らかに僕より速い5台くらいに一瞬でマーシャルとの間に入られてしまい、結局5〜6番手で2周目へ突入。

3〜4周も走ったら、YZ450FXの適正なギヤや乗り方が少しずつわかってきた。パドック付近のサンド質(スコリアと呼ばれる軽石のような火山岩)なところは、基本的に3速で十分だ。普段乗っている2ストローク200ccに比べてスロットル開度が少なくて済むため、速く走れている感覚はないのだが、明らかにいつもよりコーナーが早く近づいてくる。油断しているとブレーキングが遅れてオーバーランしそうになるが、周回を重ねるごとに慣れてきた。

全開ヒルクライムは4速でもいいのかと試してみたが、加速区間が1周目からフープス状に激しく波打っていて、4速だとうまくタイミングを合わせることができなかった。さらに3速でも登頂までパワー不足を感じることがなく、前を走っているライダーは大抵ここでパスできたので、ヨンゴーのパワーは本当に武器だな、と感じた。

また、この後の下り坂は勝負所の一つ。例年だと僕はここで疲れて座ってしまい、スタンディングで勢いよく下っていくライダーにサイドから抜かれてしまっていたのだが、今年はしっかりスタンディングで速度を乗せて下ることができたため、ほとんどパッシングされなかった。特にそういった練習をしてきたわけではないので、おそらく4ストロークのエンジンブレーキが安心感に繋がったのと、いつもよりもスロットルを開けずに走れていたため、疲労が少なかったのではないだろうか。

難しいのはやはり、ウッズエリアだった。

三宅島はスタートとゴールが設置される景色の良い展望台エリアばかりがよくフィーチャーされるのだが、コースの半分はほぼシングルトレールのウッズエリアとなっており、そこには石も多く、みんなが同じラインを走るので、レースが進むにつれて轍も深くなっていく。三宅島参戦1〜2年目はこのウッズが難しくて苦手だった僕だが、今ではこのウッズエリアの方が好きだし、得意だと言える。

この区間は基本、座ってはいけない。路面の凹凸や轍が激しいため、スタンディングをキープしないと速度を乗せることが難しいのだ。しかし中にはタイトなコーナーやガレたヒルクライムもあるため、この区間でマシンをエンストさせてしまうことが一番不安だった。

よくモトクロスコースで見かける「プスン……」とヨンゴーのエンジンがストールする瞬間。そして悲しく鳴り響く「キュルキュルキュル……」というセルモーターの音。なかなか再始動しないエンジン。これだけは避けたかった。新型YZ450FXではそこがかなり改善されているという話だが、果たして。

結果から言うと、その心配は杞憂だった。

とはいえ、全部で3〜4回くらいはエンストして転んでしまったと思う。でも12周したうちの3〜4回なら、自分のバイクでも同じくらい転んでいたはずだ。「ヨンゴーは半クラッチを使わずに乗るんですよ」と同行したCOMP-Aライダー永井くんにアドバイスをもらったのだが、僕はずっと2ストロークに乗ってきたおかげで完全に半クラッチを使うクセがついてしまっていて、どうしても半クラッチを使ってしまう。おかげで4周目くらいからクラッチを握る左手が痛くなってしまい、コースの真ん中にある舗装路を徐行する時に必死でストレッチをして左手を回復させながら、なんとか周回を重ねていった。するとどうだろう、最後の2〜3周になってようやく、半クラッチをあまり使わずに乗れるようになってきた。すると、それまでついていけなかった上位のライダーの後ろをついていけるようになり、なんなら追い抜けそうな瞬間も出てきた(結局、抜けはしなかった)。

このレースだけでかなりYZ450FXと仲良くなることができたと思う。ガレたヒルクライムで止まらないためにはとにかく初速をしっかり乗せて、少しアクセルを多めに開けて、そのまま開け続けること。シッティングしてもいいからなるべくバイクを寝かさないことが大事だった。途中に転倒しているライダーがいると、どうしてもラインを変えるためにバイクを寝かせる必要が出てくるのだが、そこではトラコンが介入して滑りを抑制してくれ、転ばずに進み続けることができた。

また、サンドのコーナーでは少し早めにフロントブレーキをかけてアクセルを全閉せず、リアブレーキを少し引きずったまま曲がると、うまく曲がれた。気持ち良いサンドの登りはとにかくアクセルだけ開けていれば、簡単に登れて、あっさりと前のライダーを抜くことができた。

何回か転んで順位を落としたものの、ヨンゴーのパワーで抜き返し、結果は総合12位(排気量オープンクラス4位)というリザルト。去年の記録を大幅に更新することができた!

クラス4位という順位は「夢の表彰台」まであと1つなのだが、最後の最後まで競っていた友人と、今回僕と一緒に参加しているCOMP-Aライダー永井くんの2人が上にいて、その2人は三宅島初出場なので、5回目の参加でコースを知り尽くしている僕は何も言い訳ができない。完敗である。

夏頃からバイクをサボり気味だったので、レース時間半分くらいで手のマメが破けてしまって、顔も鼻水と汗でとんでもないことに。足も腰もビキビキで、まさに満身創痍。久しぶりにやり切った感。この達成感こそが、僕の憧れた三宅島エンデューロだ。

ビッグオフ界隈で人気のあの人も2年連続で参加!

Off1にも何度か登場してもらっている、トライアンフのスクランブラー1200XEで様々なオフロードレースに参加するBANZAIりょ〜ちゃんねるの「BANZAIさん」が昨年に続いて参加していた。

今年はアフリカツインやテネレ700、690ENDURO Rなどビッグオフの友人たちと一緒に参加とのことで、ところどころでヘルプしながら一緒に楽しんでいたようだ。

BANZAIさん
「三宅島エンデューロはサンド質な火山岩の大坂があって、そこをビッグオフのパワー全開で駆け上がることができるのが最高に気持ち良いんです。コースはバリエーションに富んでいて、ガレ場やフカフカサンド、濡れた土など、一度止まってしまうと再発進が難しいので、とにかくバイクを止めないように気をつけながら走っていました。あと注意するのは普通のオフロードバイクよりもどうしても最低地上高が低いので、下回りをぶつけないようにするのと、パンクしないように、ですかね。

三宅島エンデューロは一言で言うと“大人の修学旅行”ですね。去年はビッグオフは私だけだったのですが、今年はビッグオフの友人たちが参加すると言うので一緒に楽しみたくて2年連続の参加となりました。昨年は最大の難所であるガレの登り坂でチェーンが外れたりパンクしたり、とても苦戦してしまったのですが、今年はコース幅が広くなっていて去年より岩も少なく、程よい難易度で楽しんで走ることができました。

トライアンフのスクランブラー1200はビッグオフ界隈でも乗ってる人が少ないのですが、実はとてもオフロード性能が高いんです。僕はよく他のビッグオフ乗りの方のバイクを試乗させてもらうのですが、スクランブラー1200は他のどのメーカーのビッグオフよりもトルクフルで、2気筒らしいバーチカルツインのサウンドを楽しめます。また、前方にカウルがないのでとても視界が広く、まるで普通のオフロードバイクのような感覚で乗ることができます。僕が乗っているXEモデルはサスペンションストロークが前後とも250mmあり、多くのアドベンチャーモデルよりも脚長なので、特にガレ場とかではとても良い仕事をしてくれて、いつも助けられています。

ビッグオフでコース遊びをしている人たちはみんなすごく遊び心があって、大体一度一緒に走れば意気投合して、一緒に笑いながら童心に返って遊べるんです。ぜひみなさんも一度ビッグオフ界隈を覗いてみてください!」

自ら「素人」とデカデカと書かれたシャツを着てしまうくらいだから、当然ながらBANZAIさんはプロライダーではない。しかし、バイクを全力で楽しんでいるという点では、ある意味プロ級と言えるかもしれない。三宅島エンデューロレースはそんな人にこそ参加してほしいレースなのだ。

↓BANZAIさんのYouTubeチャンネルはこちら!

表彰式では一名にバイクが当たる!

レースが終わったらバイクをコンテナに戻し、その場で着替えてバスに乗り込み、表彰式が行われる体育館へ移動。昨年はコロナの影響を引きずっていて椅子だけ並べられていたのだが、今年はテーブルがあってオードブルとドリンク(アルコールも!)付き。従来のフォーマットに戻っていた。

表彰会場に突如現れたのは、三宅島エンデューロのキャラクターとしても馴染み深いアカコッコ(三宅島に生息する鳥)の「アッコちゃん」。なんでも今年着ぐるみが新しくなったそう。

ここで各クラスごとに3位まで表彰台に登壇し、表彰を受ける。こちらオープンチャレンジクラスの皆さん。ぐぬぬ……。

クラス入賞者の他にも一番遠くから参加した人に贈られる遠方賞や最年長賞、最年少賞、おしどり夫婦賞など、ユニークな表彰も用意されており、ジャンケン大会もあって全員に何かしらの景品が行き渡るようになっているのも素敵なところ。三宅島紙袋の中には牛乳煎餅や“あしたば炊きこみごはん”、マグロふりかけなど三宅島の特産品詰め合わせが入っていた。

一通り表彰が終わると、いよいよ全員が待ち侘びていた瞬間が訪れる。それは恒例のバイク一台丸ごとプレゼントの抽選だ! 今年はホンダCRF125Fが用意された。まずは櫻田村長が抽選箱からゼッケンが書かれた紙を5枚選び、その5人によるジャンケンでバイクの行方が決まる方式。

残り3名というところで負けてしまってうなだれる……。また来年に期待!

見事CRF125Fを勝ち取ったのは松田守さん! おめでとうございます!

今年は三宅島の島民枠で2チーム6名が参戦していた。14歳で最年少賞も獲得した笹本匠琉さんは「僕はずっとバイクに憧れていて、将来はバイク関係の仕事に就きたいと思って、小学校6年生の時からオフロードバイクに乗り始めたんです。今はまだ免許を取れる歳ではないのですが、三池(三宅村坪田地区)にミニモト用のオフロードコースがあって、友達と示し合わせてそこで週2回くらい練習をしています。三宅島エンデューロレースは毎年見学に行っていたのですが、出場したのは今年が初めてで、コースが難しくて吹っ飛んでしまいました。来年はもっと順位を上げられるように頑張ります」とコメントしてくれた。

この記事の冒頭で、僕がオフロードバイクを始めたのは三宅島エンデューロの動画から、という話をしたのだが、実はその時に一番胸を打たれたのはトップライダーの走りではなく、最後尾でゴールした三宅島民ライダーの“やり切った”笑顔と、その頑張りを讃える観戦者たちの拍手だった。そこでエンデューロという競技は勝者だけでなく、ゴールした者全員を讃える文化があるのだと知り、のめり込んでいったのだ。笹本さんをはじめ、こうして三宅島でオフロードバイクのカルチャーが育まれていたことは、本当に嬉しかった。

レース翌日は様々なアクティビティが楽しめる

さて、三宅島エンデューロレースは島に着いた当日にレースから表彰式まで完結してしまうのだが、帰りのフェリーは翌日の昼にならないと出港しない。そのため、日曜日の午前中には各自で様々なアクティビティを楽しむことができる。

初めて三宅島エンデューロに参加するライダーの多くは近畿日本ツーリストが開催する観光バスツアーに参加し、三宅島の噴火の歴史を見学し、その迫力に感動するのだが、僕はもうかれこれ7回目の三宅島来訪となるため、今回は新しいことにチャレンジしたいと考えていた。

そう、最近どハマりしているSUP(スタンドアップパドル)! SUPはカーボンなどでできたタイプの他にインフレータブルと呼ばれる空気を入れて膨らませるタイプのものがあり、今回は自分で所有しているもの、編集長・稲垣のもの、そしてNAGmotorsさんからお借りしたもので合計5艇のインフレータブルを用意し、あらかじめ宿に送っておいたのだ。

宿泊した宿は普段からダイビングなども行っている「スナッパー」さんで、レンタカーやウェットスーツの貸し出しも行っている。僕らはレンタカーをお借りして近くの大久保浜へ行こうと思っていたのだが、日曜日の朝はあいにくの強風。特に北東の風だったので、スナッパーのご主人が「島の北側の大久保浜よりも西側の伊ケ谷港が良いよ」とアドバイスをくれた。

アドバイスに従い、いざ伊ケ谷港に着いてみると……湾になっているため確かに波はだいぶマシだけど、風が強すぎて激寒……。膨らませたボードが風に煽られて飛ばされるくらい強風で、SUP初体験の2名はかなり苦戦することが予想された。本来なら海では中止するレベルの風だったのだが、沖には絶対に出ず、湾内だけでちょっとだけ体験してもらうことにした。

沖縄生まれでSUPレジェンドを祖父に持つ津村くんは荒波もなんのその。「バイクでは永井さんに勝てないから!」とニコニコ。

初心者の嶋崎くんはボードの上に立とうと必死に練習していたが、うねりに足元を掬われ、何度も落水。水の中は意外と暖かかったけど、濡れた体でボードに上がると風が冷たくて凍える。

2時間くらい楽しく遊んだところで寒すぎて撤退。三宅島は一応南の島なので、11月でもTシャツでも過ごせてしまうほど暖かい日もあるのだが、今年はちょっと運が悪かった。

他にもレンタルバイクでツーリングしたり、釣りをしたり、レンタカーで独自に観光したりと、みんなそれぞれに楽しんでいたようだ。

宿に戻ってシャワーを浴びてSUPを片付けたらスナッパーのご主人が港まで送ってくれて、いよいよ三宅島とお別れの時間がやってきた。

初めての三宅島エンデューロの感想は??

永井隼斗
「初めての三宅島でしたが、ホスピタリティが高くて最高でした。特に宿の夕飯では次から次へとお魚が出てきて、それが全部美味しかったです。僕らのSUPのスケジュールに合わせて、港への送迎など柔軟に対応してくれたのもありがたかったです。レースはウッズがすごく僕好みのコースで、走っていても楽しかったですし、JNCCではAクラスに昇格してから表彰台から遠ざかっていたので、久しぶりにお立ち台に乗ることができて嬉しかったです。また、帰りのフェリーでは初心者の頃によく一緒に練習していた方と偶然再会することができ、お酒を飲みながら意気投合できました。三宅島が繋いでくれた縁に感謝します」

梅山拓也
「三宅島エンデューロに参加した人がみんなオススメしてくるので、すごく楽しみに参加したのですが、オススメするだけのことはありましたね! レースのコースも最高だったのですが、その他の旅行の部分が普段のレースと全然違って、とても楽しめました。特に車を運転する必要がないのでビールが飲めたのが最高でした」

津村快太
「僕はCRF125Fで参加したのですが、僕みたいなビギナーがミニモトに乗ってもちゃんと楽しめるコースで、普段は走ることができないような路面だったので、とても楽しかったです。残念ながら6周目にチェーンが外れてリタイヤしてしまったので、またリベンジしたいです。また、走るのに精一杯であまり景色を見る余裕がなかったので、来年はもっと練習して景色を見る余裕を持って走るのが目標です」

嶋崎友一朗
「すごく楽しかったです。実はフェリーに乗ったことがなかったので人生初の船旅だったんです。いつもと違ってトランポが近くにない状態でレースをすることに緊張感があって、金曜日の辰巳埠頭からもうレースが始まってるような気分でした。他のレースと違って全部パッケージされているので、無計画でダラダラしてしまうようなこともなく、一日一日がしっかり楽しめるようにスケジューリングされているので、それも良かったと思いました。レースが終わると宿のオーナーさんがレース結果を訪ねてくれたりして、すごくアットホームな雰囲気でしたし、一緒に参加したライダーさんも最初は知らない人ばっかりだったのにフェリーやバスの中で顔を合わせているうちに自然と挨拶を交わすようになっていって、一体感が生まれていく感じも素敵だな、と思いました」

もしかすると僕にとっては今年の三宅島エンデューロが生涯ベストリザルトになるような気もしている。それはYZ450FXのパワーと扱いやすさによるところも大きい。それでも僕はこのレースが開催される限り、毎年参戦したいと思っているし、無論、夢の表彰台も諦めてはいない。さらに来年からは三宅島民チームの成長も楽しみの一つになるだろう。ありがとう三宅島。また来年!