トライアンフのアドベンチャーTIGER1200 GTを編集部で購入して、いろいろ遊び倒してしまおうというこの連載、早くも2回目を迎えました。今回は宮城ツーリングへGO!

マジなツーリング

どうにもOff1編集部では、みんなでツーリングに行こうという話しになかなかなりづらい。その理由は、どちらかといえば休日はトランポにレーサーを積んでコースに出かけたい、というようなメンバーで固められているからだ。でも、生粋のモトクロスレーサー伊澤嬢以外の編集部員は、なんだかんだいってツーリングからオートバイの楽しみを覚えたクチだ。僕、稲垣は大学生の頃から乗り始めたのだけれど、中央大学二輪愛好会(CMC)という歴史のあるクラブに在籍していた。クラブ活動はかなり真面目に行われていて、活動外でバイクに乗る時も服装を乱さないようにと規定されていたし、自責他責問わず公道で事故があった際には月に1度の例会でクラブへ報告の義務があった。転倒であればなぜそうなってしまったのか、きちんとマージンはとられていたのか、など上級生に問い詰められるのである。そんな環境だったから、ツーリングの腕も自然と磨かれていった。

ツーリングの技術には様々あるが、ひとつにオートバイを操るスキルがあげられる。当たり前のことのようだが、そこで求められるレベルはなかなか高い。CMCではロードバイクに乗ってアドベンチャーバイクが得意とするような荒れた路面の細い山道だけをつないで走っていたため、ラインの巧妙さやコーナリングのスムーズさなどが求められた。公道でいろいろ試すわけにはいかないので、クラブ員には府中の免許センターでおこなわれていた安全運転講習会への参加が勧められていた。この講習会、白バイの訓練をイメージしてもらうとわかりやすいのだけど、ビギナーにとってはかなり難しいジムカーナのようなコースを、なかなかのハイペースでぐるぐる回り続けるものだ。難しく、面白い。

先導車に求められるスキルというものもある。大勢でツーリングをするには、分岐ごとにその場でマップル(編集部注:若い読者に説明しておくとこの時代はまだスマホがなく、ライダーはマップルなど小さな本のような地図を携行していた)を見て次どっちへ曲がるか確認する、なんてやってる暇はない。スムーズに後続を連れていくために、先導車はルートを完璧に記憶していて、さらには回避ルートなども頭に入っている必要がある。そのため、先導車に乗るライダーには別日に下見ツーリングが義務づけられていた。ここで徹底的にルートを調べておくのだ。なお、ここまで上から語っておきながら、僕自身にはツーリングのスキルはそれほどない。クラブで磨けたのはチェーンくらいなもので、3年生時には史上最も走れない会長と呼ばれていたものである(えらそう)。

実はツーリングの引率も上手い、AD/tac

Off1でたびたびインプレッションをお願いしているライダー、AD/tacこと和泉拓さんはマルチタレント的な活動から「バイクに乗ること」だけが上手いと思われがちだが、実はこのツーリングスキルがめっぽう高い。和泉さんのバイクショップ、ストレンジモーターサイクルにはそんな和泉さんがプロデュースするツーリング目当てに足繁く通う人も多いのだと思う。なお、和泉さんの弟子にあたるモトラーダの大和芳隆さんは、そのスキルを叩き込まれた末に、ツーリングイベントのディレクターを仕事にするようになってしまったほどだ。和泉さんは「大和くんは、ほとんどの宮城周辺の道が頭に入ってる」と言っていた。

編集部でTIGER1200を買った、とツイッター(X)につぶやいてみたら和泉さんから「今度宮城のツーリングにおいでよ」とお誘いいただいた。以前から和泉さんに宮城には本当にいいルートでつなげられる素晴らしいツーリングルートがあると聞いていたし、せっかくTIGER1200なんていいバイクを買ったのだから、ツーリングにちゃんと行こうと思ったのである。

TIGER1200 GT PROと僕。編集部員は自由に乗っていいことになっている。こかしたら自費で修繕の刑

暗いうちから東京を出発し、宮城の岩沼で朝6時に集合すると、ほどなくして和泉さんが声をかけたアドベンチャー乗りたちが集まってきた。10月だというのに気温はさほど下がらずツーリング日和。和泉さんは僕の下手さ加減をよくよくわかっていて「稲垣君は、2番目でついてきてね」と一言。ツーリングの隊列において2番目とは、先導の目が届きやすい最も世話の焼ける人向けのポジションだ。和泉さんには完全に見透かされているようで、この時点ですっかりまな板の上にのった鯉の気分だった。

この日案内されたルートは、はっきり言って今でもよく分かっていない。和泉さんのセロー700(テネレ700をカスタムした、界隈で有名なバイク)の後ろをとにかくついて走っていただけである。GARMINウォッチで録ったGPSログを辿ると岩沼から西へ向かっていたようだ。おなじみスポーツランドSUGOの脇を通って北上、釜房子を左手に眺めながら秋保を通って着いたのは、我々には定義(じょうげ)2デイズエンデューロで知られている定義山にある一軒のとうふ店。ここの三角あぶらあげは有名で、店内で揚げたてのあぶらあげをいただける。割り箸でブスブス穴をあけておいて醤油を流し込むのが通の食べ方らしい。

定義とうふ店の三角あぶらあげ。箸で穴をあけて、そこに醤油を流し込むといい案配の塩梅になるです

和泉さんのアドベンチャーツーリングは「気持ちいい」しか存在しない

仙台の北部を延々コーナーが続く気持ちのいいルートだけをつなぎ、ぐーっと東へ向かって北上川まで到達する。このあたりで雨雲が遠くに見えたため、和泉さんは頭の中でルートを組み立て直し、石巻、そして松島へ抜けていく。そこは、いわゆる観光地として知られている松島ではなく、ちょっとしたダートを抜けて到達する「裏松島」で、さすがローカル、とうならせられる穴場。その後、本格的に雨も来そうだったので石巻からは高速で仙台まで戻ることになり、しめて267kmのショートツーリングとなった。

ほのぼの警察とオハナシする和泉さん。警官「どの辺走るんですか?」

宮城の北の方では油麩丼が有名と言うことでいただきました。お麩はおいしい

裏松島。ここはダート走れる乗り物じゃないとたどり着けない

唯一の集合写真は石巻バックで

  

あとから言われて気づいたのだが、この267kmで信号をほとんど見ていないし、車の後ろを走った記憶もそれほどない。ただただ心地のいいワインディングや、あぜみち、細い山道をつないで走っていた。途中で気づいたのだけれど、このルートは難しいセクションの存在しないオンタイムエンデューロのようなものだ。まるで、先日参戦した日高2デイズエンデューロで体験したような見事なルート設定でこんなツーリングは体験したことがなかった。まさに聞きしに勝るツーリングスキルである。ツーリングってあまり面白くない100km/h巡航とか、渋滞とか、街中の通過とかを挟むから、嫌な部分もわりと存在するのが普通だと思うけど、今回のツーリングではそういうストレス要因が一切なかった。雨すら空模様を読みながら避けて通り、マジで「気持ちいい」しか存在しないツーリングになった。

Tプレーンの乗り方が、だいぶわかった気がする

ツーリング中、和泉さんはだいぶ気を遣ってくれていて、僕がペースを上げられるところはじわじわ上げていき、難しめのルートは少しペースを落としてくれたりしていた。久々に大きなバイクでツーリングをする僕は、当初うまくバイクになじめなくて四苦八苦してしまっていた。ギヤの選択に迷って2速と3速を行ったり来たりしながら、どうにも曲がり方がつかめないなと身体をイン側にひねってみたり、アウト側にしてみたり、イン側のハンドルを押してみたり。

ある休憩の時に和泉さんが「もっとエンジンと仲良くなった方がいいね。あと、ギヤが低すぎる気がするよ。4速固定でいいくらいだよ、1200ccもあれば極低速のところで走った方が楽で楽しいしスムーズ」と教えてくれた。この一言が契機だった。そういえば昔、はじめてリッターバイクに乗った時も同じように苦しんだんだっけ。4速でエンストしそうな回転域で、タイヤをできるだけ転がすようにコーナリングすると、ペースがゆるゆると上がっていく。エンストしそうと書いたものの、トリプルエンジンながらTプレーンという独特の位相クランクをもつ1200ccのエンジンは、まるで単気筒のような粘りのあるパルス感が顔を出し、まだまだ低回転のトルク使えるよ、とエンジンに言われているようだった。3気筒だから、勝手に低回転のトルクが薄くて回し気味で走らないといけないと勘違いしていたけれど、そんなことはない。豊かで心地のいい低速トルクを使って小さなRを旋回していると、とてもとても気持ちいい。

TIGER1200は見た目にボリューミーで、どデカイオフロードバイクに乗ってるんだぜ! という優越感に浸れる。僕のようなスキルのない人間には、一見とっつきにくく思えるのだけれど、実際にはとても乗りやすくてシンプルなバイクなんだなと思った。もちろん3気筒で1200ccだから、回せば天井知らずにパワーが出る。高い巡航速度で日本狭しと駆け回るのにも向いているけれど、そうではない一般道をつないだ玄人向けのツーリングでも、とても楽しめるバイクなんだなと再認識できたのだった。

なお、TIGER1200はお得に買えるキャンペーン実施中です。

今回お借りしたのはゴールドウイン、ライディング フーデッド ジャケット。軽く、バイク用品らしからぬパターンと着心地がとてもお気に入り。アウターシェルとして使い、厳冬期に電熱インナーやダウンを仕込むといい。しっかり防風性能があるのに、伸縮性のある特殊な生地使いはゴールドウインのお家芸。とても快適でした