ヤマハのモトクロッサーYZ450Fは、2023モデルでフルモデルチェンジした。その類い希なコンパクト感と扱いやすさに、例年を圧倒するセールスを記録しているという。それをベースとした新型YZ450FXにもユーザーの期待は高まっている。クロスカントリーのベテラン達にとっての本命になり得るのか

FXシリーズの今

JNCCの最終戦であるAAGPのエントリーリストをみてみると、YZ250FXの参加台数は80台。全422台中だからおおよそ1/5を占めることになる。モトクロッサーを含めたYZシリーズ総数で見ると190台にも登り、JNCC参加者のほぼ半数をヤマハ車が占めていることになる。ラウンドによっては過半数を超えることもあるほど、他を圧倒するシェア率である。

2014年に2015年モデルとして発表されたのがYZ250FXのはじまり。その後、YZ250FXは日本のクロスカントリーレースにおけるスタンダードマシンとしての地位を揺るぎないものにしてきた。そんなFXシリーズの長兄が、YZ450FXだ。誰にでも扱いやすく、さらには誰にでも速く走れるYZ250FXに比べて、YZ450FXは限られたライダーに向けたマシンである。ヨンゴーというのは、決してビギナーに向けたマシンではなかったし、その棲み分けについてはユーザー側も理解していた。

ところが、この新型YZ450FXにはちょっと最近のオフロードバイクの動向に詳しい人から、もしかして扱いやすいのでは? という期待がかけられていた。というのも、そのベースになる昨年モデルのYZ450Fが、これまでのヨンゴーの常識を覆すほど扱いやすかったからだ。もちろんこれは性能がマイルドになった、という意味ではなく、むしろレブリミットが500r/minアップするなどエンジン自体のポテンシャルは5%ほど向上しているうえに、重量も1kg軽量化されている。ところが新たに搭載されたトラクションコントロールや、バランサーの改良、クランクウェブのアップデートなどによる効果が大きく、低中速の扱いやすさに磨きがかかった。ダイヤフラム式になったクラッチも繊細で繋いだ時のアタリが心地よい。太くなりがちだったシュラウド周りも全幅で50mmスリムになるなど、後方排気のデメリットをまったく感じないレベルでコンパクト化されている。もちろん世界のトップカテゴリーで戦うためのマシンだから、ちょっとでもアクセルを開けすぎれば怒濤の加速をしてほとんどのライダーを置き去りにするが「このヨンゴーならなんとか乗れるかもしれないな」と中級者に思わせるくらいの仕上がりである。その扱いやすさが、JNCCなどで開催される試乗会や、メディアを通じてライダーの間に噂として広まっている。繰り返しになるが、だからこそ2024年式YZ450FXへの期待感が高まっているのである。

「余裕のあるパワーが、安定したライディングに繋がる」

YZ450FXは前述したベースモデルのYZ450Fのアップデートを引き継ぎつつ、さらにクロスカントリーに向けて最適化されている。目立ったところではサスペンションが10mmショートストローク化されている他、専用ECUによるきめ細やかな車体制御など、車体はクロスカントリー向けにチューニングされている。面白いのは、エンジンマウントをモトクロッサーよりも強い方式へ変更している点だ。これは車体の剛性自体は上げておきながら、最適化したサスペンションにしっかり仕事をしてもらうような改良なのだという。YZ450Fでも評判の高かった新クラッチは、フリクションプレートの組み合わせを変えることでつながりをマイルドにするなど、実に細かいところまでクロスカントリー向けに最適化が進んでいる。

今回の宮城県スポーツランドSUGOメディア試乗会でのインプレッションは、JNCCでトップライダーとして活躍している内嶋亮に依頼。普段はKTMの250XC-Fでレースをしていて、クロスカントリーマシンに対しての造詣が深い。

「まずコンパクトですね。見た目がスリムに仕上がっていて、乗っても旧モデルにくらべてだいぶ小さくなったな、という印象を受けます。フレームのジオメトリーもアップデートされているからか、フロントタイヤの接地感も強いですね。

エンジンは……そもそも4ストロークのエンジンって、昔は少し開けただけでがばっと加速してしまってましたよね。パーシャルで走りたいのに、なかなかパーシャルが出ないような、そんなシビアな面がありました。ところが最近の4ストはそういうところがだいぶマイルドになっていて、開けやすくなりました。今回のYZ450FXはまさにそんなところを強く感じました。

特にセッティング用アプリの「パワーチューナー」で最もマイルドな設定にしてトラクションコントロールを効かせると、スポーツランドSUGOの固い路面でもとても気持ちよく走れます。ウッズの中にある固い路面のギャップが連続するような場所は、特に効果を感じることができました。ギャップではあまり体勢を崩しながらアクセルを開けたくないじゃないですか。特にコーナーの出口だと、開けた瞬間にギャップでタイヤが空転してしまって外側に車体が流れてしまう。しっかりトラクションを得られる状態でまっすぐ推進力を得たいので、開けるタイミングが遅くなりますよね。ところがトラクションコントロールが効いていると、行きたい方向へ加速してくれる。非常によかったです。

暴力的にパワーがあるというのではなく、安定してパワーが出てくるというフィーリングに仕上がっているのが好感が持てますね。たとえば100kg持てる人が70kg持つのと、70kgしか持てない人が70kg持つのでは、安定感や丁寧さが変わってくるじゃないですか。450はそういう余裕のあるパワーフィーリングなんです。たとえば450でジャンプを飛ぼうとすると、これまでの450ではひとひねりで遠くへ飛んでいけるけど、タイミングを間違えると遙か遠くまで飛んでしまったり身体が遅れてしまったりする難しさがあった。でも、今日乗ったYZ450FXはそういう気難しさは感じなかったですね。絶対的なパワーがあるからこそ、安定したライディングに繋がるんだと思います。優しい力持ちなんですよ。

あと始動性もいいですね。コンマ秒を競うオンタイムエンデューロだと、エンストしてから復帰するまでの時間は2ストに圧倒的なアドバンテージがあるなんて聞くんですけど、今回YZ450FXはエンジンがかかりやすい上に、ストール耐性も高くてオンタイムでも使えるなと思いました」

ジャンキー稲垣でも、乗れなくは……ない

自他共に認める超絶ビギナーズの筆者にとっては、ヨンゴーはまさに身に余る存在。あーもうこれ、どうかんがえたって持て余すんで、その辺隠しながらこれなら初心者にも乗れますねとか適当なこと言っちゃうんだろうなぁ、と乗る前から思っていた。

ところが実際に乗ってみると、内嶋氏の言わんとするところが僕にもしっかり感じ取れる。開け口はマイルドで、油断してたらジャンプ飛びすぎてお空の星になってました〜というようなことが、たぶん、ない。ぎりぎり自分の制御下に置いておけるな、という雰囲気がある。一番そう思う理由は、昔の4ストよりもパルス感がだいぶ抑えめだからだろう。エンジンがダダダダダダダと強く主張していた昔のヨンゴーとは違って、ドルルルルルルくらいになっている。トゥルルルルルというほどではない。何を言っているのかわからなくて申し訳ないとも思うが、このパルス感というのは、バイクを開発する方たちにとってもいまだに完全に理解できない世界だと聞く。振動や音、それだけではなく、ピストンが爆発するタイミングで思い切り路面を蹴って、その後クランクが2回空転する、その間のわずかな加速度の違いやギクシャク感、いろんなものが影響しているのだそうだ。ドルルルルルならば、なんとか友達になれる感じがある。

YZ250FXも、2年前の僕にとってはパルス感が強くて乗りこなせないフィーリングだった。YZ250Fと何が違うんだろう、と正直思っていたんだけど、2年ほどまじめに乗ってみてあらためて比べてみると、モトクロッサーとクロスカントリーマシンはまるっきり別モノだ。要するに乗り手が成長する(あるいは慣れただけかもしれない)と、強めのパルス感も苦にならなくなってくる。

YZ450FXに感じたのは、このパルス感なら数ヶ月で友達になれそうだなということだった。今はまだ、だいぶ遠い存在だと思う。でも、昔感じていた「絶対こいつとは友達になれない」ヨンゴーと比べたら、すごく近くなったように思う。YZ450FXを一度所有して「ヨンゴーも慣れればむしろいいもんだよ?」と人に勧められるくらいになってみたい。きっと新型ならなれるはずだ。