7月21日から日本で公開されている、『ミッション・インポシブル デッドレコニング PART ONE』。宣伝に多用されているモトクロスバイクでのジャンプシーンを、モトクロスのプロ達が斬る!

実際に飛んでるらしい……

スタントマンを立てることを拒否しつづけ、常に自らがアクションシーンを演じることで知られるトム・クルーズ。『トップガン・マーヴェリック』のラストに出てくるP-51マスタングのフライトシーンも、実際クルーズが操縦しているらしい。宇宙最強のアクション俳優として61歳を迎えたクルーズが挑んだ、最新作の『ミッション・インポシブル デッドレコニング PART ONE』も、やはり実際にモトクロスバイクでベースジャンプしているのだとか。

※ベースジャンプ:建造物や崖などの高所からパラシュートを使って降下するスポーツ。通常のスカイダイビングに比べ降下高度が低いため、そのぶん危険度も高い

映画『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』ファイナル予告

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1:20あたりをご覧いただきたい。クルーズは、このシーンに至るまで山の道なき道(トレイル)をひたすらホンダCRF250Rで走り、ガケにたどり着く。そして崖っぷち30mくらいから加速を始め、実にスムーズにガケを飛び出していく。オフロードバイクジャーナリスト歴20年、最長ジャンプ距離10m、永遠のビギナーである筆者からすると信じられない行為だ。モトクロスのジャンプはアクセルや、身体の使い方で、飛び出してから前や後が極端に上がってしまう失敗例が多い。もしこの崖ジャンプで前が上がって竿立ち状態になったとしたら……いったいどうしたらいいのだ。

では実際にプロライダーであるモトクロスのアスリート達が、このガケから飛ぶ(もちろんパラシュートありで)ことはできるのか。

「スタッフさんがきちんとしたデータを取って入念な練習があったからこそ、出来たスタントだと思います‼️ 僕らからすると、バイク経験が浅いトム・クルーズがあのスタントを1年で成し遂げた事はあり得ないです。1億円もらえるなら? 自分なら跳びますね、スカイダイビングもしてみたいし!」釘村忠ーーモトクロス/エンデューロ国際A級

「メイキング映像を見るとどれだけ凄いかわかりますね。まずモトクロストラックでのジャンプスキルの高さ。そして本番のカタパルトの飛び出し角度もヤバいし、この道幅でこの長さの助走…。モトクロススキルプラス、メンタルの強さを感じます」渡會修也ーーモトクロス/エンデューロ国際A級

「カワサキのKX450ならもっと跳べたはず」能塚智寛ーーモトクロス国際A級・Team Kawasaki R&D所属

彼らはモトクロス“競技”のプロ。では、ジャンプ専門のフリースタイルモトクロス(FMX)ライダーが見るとどうだろう? 日本のFMXレジェンド、鈴木大助に聞いてみた。

「バイクでベースジャンプに挑むとき、もっとも危ない失敗例はバイクと身体が離れないことです。バイクを身体より下に離してパラシュートを開かないと、当然危ないですからね。

僕らが取り組んでいるフリースタイルモトクロスでも、空中で失敗したと思ったら早めにバイクを身体から離さなければいけません。転倒時にバイクと絡むのがとても危険なのです。自分はバックフリップ(後方宙返り)ヒールクリッカー(かかと同士をバイクの上で合わせる技)の練習で23mのジャンプを飛び出したときに、バックフリップを忘れちゃったことがあるんですよ。その時もすぐにバイクを離そうとしたんですが、50cmくらい着地で離れ方が足りなくて怪我をしてしまいました。

空中でバイクを離す練習というのは、普通はできませんよね。メイキングを見る限り、クルーズはバイクを離すための姿勢作りや練習をしっかりやっているようです。バイクって空中では、芯を捉えないと動いてくれないんですよ。芯を捉えず変な押し方をすると、バイクは回転してしまうだけで、身体から離れてくれないんです。

クルーズの場合は、飛び出すときにリアサスペンションの反動を自分の身体で使うことで、身体が前へぽーんと飛び出すようなテクニックを使っています。通常のモトクロスバイクのジャンプは、サスペンションの反動をバイクに受けてバイクと身体で一緒に飛ぶので、だいぶ違うテクニックです。僕も川ジャンプ(川にむかって自転車などでジャンプ台から飛び出す遊び)で、どうやって遠くへ飛ぼうかって考えたときに到達したスキルなんですが、ジャンプ台の弧で生じるGを身体でうまく受けると、身体だけが飛んでいく軌道を描くんです。クルーズがやっているのは、これに非常に近いと思います。

僕はスカイダイビングとバンジージャンプもやったことがありますが、バイクでベースジャンプは嫌です。ほんの少しの判断ミスが死に直結しますからね」と、とても濃厚なコメントをいただいた。

映画『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』特別メイキング映像

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こちらは、クルーズがこのジャンプをメイクするまでのドキュメンタリー。CGがどのように使われているかもここで把握できる。さすがにジャンプの飛び出しは荒れた道ではなく、製作期間10ヶ月(!)のジャンプ台らしい。

なお世界にはもっと狂った奴らがいる

ただ、同じようにベースジャンプとモトクロスバイクを掛け合わせることを考えているライダーはこれまでにもたくさんいる。中でも近年クレイジーな記録を残したトム・パジェスのことを紹介しておこう。

Oliver Godbold / Red Bull Content Pool

Antoine Truchet / Red Bull Content Pool

フリースタイルモトクロスのレジェンドライダーであるトム・パジェスは、2021年にフランスのアヴォリアーズで崖から飛び出しつつ前方2回転(フロントバックフリップ)をメイクすることに成功。

バイクを抱えながら2回転している最中で、適切なタイミングを見計らってパラシュートを開くことが要求される。パジェスは2度のトライを敢行しており、時速80km/hで空中へ飛び出しながら「バイクが予測より早く回転していることに気付いた。僕はダブルフロントフリップをメイクしたが、ジャンプ中の判断だったのでややトリッキーだった。回転しながらパラシュートを開く適切なタイミングを見極めなければならなかった」と、恐怖の体験を語っている。

彼らはバイクを空中で自由自在に操るプロで、特にパジェスはバイクだけを1回転させるバイクフリップというトリックで世界を震撼させた男。

Tom Pages wins Moto X Freestyle gold | X Games Minneapolis 2018

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そんなプロですら、バイクでベースジャンプをするのにスカイダイビングを約200回、ベースジャンプを10日かけて特訓したとのこと。モトクロスを練習するところから始めて、映画の世界的シーンを作り込む61歳クルーズの行動力には、驚嘆せざるを得ない。