SSP（Side Stand Project）とは？
近年バイク業界の中で着々とその知名度を上げてきている「SSP（Side Stand Project）」をご存知だろうか？ 事故などで脊髄を損傷した、片足を失ったなど、いわゆる障がい者になってしまったライダー（SSPではパラモトライダーと呼称）たちを、健常者のスタッフがサイドスタンドのように支えになることで、もう一度バイクに乗る喜びを味わってもらいたい、という活動だ。
一般社団法人SSPの代表を務めるのはロードレースの世界では知らぬ人のいない青木三兄弟の三男・青木治親。1995〜96年ロードレース世界選手権GP125の年間チャンピオンであり、現在はオートレースを生業としている。プライベートでは趣味としてオフロードバイクを嗜んでおり、実は日野ハードエンデューロにも出場した経験がある。
SSPが始まったきっかけは2019年7月の鈴鹿8耐のこと。テスト中の事故で下半身不随となってしまった青木三兄弟の次男・拓磨（2009年には4輪でダカール・ラリーにも参戦）をもう一度バイクに乗せよう、と「Takuma Rides Again」という企画が立ち上がり、下半身不随でも走行可能なように改造したCBR1000RRでデモランを行ったのだ。このニュースが多くの障がい者の目に留まり、問い合わせが殺到。それならば、と治親が一般社団法人SSPを立ち上げた。
ホスピタリティあふれるイベントを毎月開催
現在SSPでは月に一回ほどのペースで教習所やサーキットの敷地を借りてイベントを開催している。7月10日、三重県鈴鹿サーキットの交通教育センターで開催されたSSPにも、初参加のパラモトライダーがいた。
油井弘貴さん（31歳）は5年前にCBR600RRで峠を走行中に転倒し、脊髄を損傷。以来、車椅子で生活をしている。そんな油井さんがSSPを知ったのはInstagram経由だった。「#半身不随」で検索していたところSSPの投稿を見つけ、参加を決意したという。
SSPでは走行時にプロテクター又はレーシングスーツを貸し出している。フルフェイスヘルメットにグローブ、ブーツもレンタルでき、ライディング中はヘルメット装着時でもインカムで通話可能なB+COMで常時スタッフと繋がっている。これらの装備はすべてSSPから貸し出され、イベント参加費についても全て無料となっている。
当然、半身不随のパラモトライダーは一人で着替えることはできないし、家族や仲間が同伴できる人ばかりではない。しかし、SSPにはボランティアスタッフが参加しているため、着替えを手伝い、車椅子から持ち上げてバイクに跨らせることができる。
足がステップから外れないように、ロード用自転車のペダルに使われるのビンディングで固定。腰をベルトでバイクに固定し、下半身を安定させる。シフトチェンジの操作は手で行えるように改造が施されている。
パラモトライダーが初めて乗るバイクは、補助輪つき。講習が進み、真っ直ぐ走れるようになると徐々に補助輪を少なくしていき、最終的には補助輪なしでライドすることができるようになる。
大勢のスタッフに支えられながら、緊張した面持ちでスタートした油井さん。最初は数百メートルをまっすぐ走るだけなのだが、それもなかなか難しい。
B+COMを通して油井さんに乗り方を教えてくれたのは、青木三兄弟の長男・宣篤。
45分の練習時間の中でみるみる上達し、最終的には補助輪が地面につかないまま一人で走り切ることができた油井さん。
パラモトライダーが走り終わると拍手で迎えるスタッフたち。SSPには、笑顔しかない。上手く乗れなくても、失敗しても、大丈夫。SSPの講師陣はみな経験豊富なライダーのため、その都度最適なアドバイスをくれる。
5年ぶりにバイクに乗った油井さんのこの笑顔がSSPの体験のすべてを物語っていると筆者は感じた。
油井弘貴さん
「もういっぱいいっぱいでした！ 久しぶりにバイクに乗ることができて、すごく満足しています。僕にとっての永遠のヒーローである青木選手がこんなに気さくに、親身になって接してくれて、走り終わったらたくさんのボランティアスタッフさんが暖かく迎えてくれて、すごく前向きになれました。もっと練習して、いつかは僕もサーキットや箱根ターンパイクを走ってみたいです。イベント全体を通してのホスピタリティが本当に高いんです。安全面や健康面など、すごくフォローしてくれています。僕も自分にできる範囲で何かしらの形でお返しができたら、と思っています」
クラウドファンディングでSSPの活動を支援できる
SSPでは2023年9月10日にアネスト岩田ターンパイク箱根を貸し切って「パラモトライダーがかつてのツーリング仲間と一緒に公道を走る」ことができるイベント「やるぜ！！箱根ターンパイク2023」を開催する。
現在はイベントに向けてクラウドファンディングを実施しているので、スタッフとしては参加できないけど、この活動を応援したいという人はぜひ下記リンクから詳細を確認してほしい。