全日本ハードエンデューロ選手権G-NETのトップランカーであるロッシ高橋こと、高橋博選手がハードエンデューロに必要なテクニックを伝授してくれる連載第9回、今回がついに最終回となります

高橋選手は2014年〜2019年まで6年連続でG-NETチャンピオンに輝いている、誰もが認めるハードエンデューロの「走る伝説」。最終回となる今回のテーマはライディングテクニックではなく、ちょっと番外編の「タイヤ選び」です。

ロッシ高橋
1969年1月25日生まれ、三重県出身。元トライアルIAライダーであり、スキー・クロスでも全日本ランキング2位まで上り詰めた経歴を持つ。ハードエンデューロにおいては2014年から2019年まで6年連続でシリーズチャンピオンを獲得する偉業を達成。現在は競技に参戦しながら後進の育成に注力する。

まずは動画で知識を学ぶ

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今回もまずは動画を見ていただきましたが、時間がない方、音が出せない環境で読んでくださっている方、動画を見てくれた方の復習用として記事でも同じ内容を解説していきます。

なお、動画のアップロード先はiRCタイヤのYouTubeチャンネルになります。他にもたくさん役に立つ動画がアップされていますので、ぜひチャンネル登録をお願いいたします。

ロッシ選手が開発に携わった「ゲコタ」とは?

ハードエンデューロに適したタイヤには様々なものがあります。世界ではFIM規格でエアボリュームが大きいガミータイヤ(コンパウンドの柔らかいタイヤ)が好んで使われていますが、日本ではFIM規格で運営されるハードエンデューロ競技が存在しないためガラパゴス的な進化を遂げていて、モトクロスタイヤをベースとしたガミータイヤ、オフロード用として専用に開発されたタイヤなどが主に使われています。

ここではiRC TIREの最新ラインナップの中から、どういう路面でどのタイヤをチョイスすべきか、というお話をロッシ高橋選手に伺ってみました。何を隠そうこのロッシ高橋選手こそ、日本国内で最初に発売されたガミータイヤであるiX-09w GEKKOTAの開発ライダーなんです。今回解説していただくタイヤは以下の8本。どれもハードエンデューロレースや練習で使っているタイヤです。

・フロント iX-07s、iX-09w GEKKOTA、M5B EVO
・リア iX-09w GEKKOTA、JX8 GEKKOTA、VE33s GEKKOTA、M5B EVO、TR-011 TOURIST

これぞ元祖ガミータイヤ、iX-09w GEKKOTA

2010年に発売した日本で最初のガミータイヤiX-09w GEKKOTAは、石と木の根っこに一番強さを発揮するタイヤで、発売から10年以上が経過した現在でもそれは変わりません。ブロックがかなり柔らかいので、障害物を包み込んでいくような動きをしてくれます。

ただし、乾いたモトクロスコースのような路面でコーナリングしようとするとブロックが柔らかすぎてヨレるような感覚があります。また、JNCCのようなハイスピードレースで上級者が使用すると途中でブロックが飛んでしまい、グリップ力が低下するようなシーンもありました。

ちょうど僕がエンデューロを始めた頃に「これをテストしてほしい」とiRCさんから渡されたタイヤがこのiX-09w GEKKOTAです。それまでの日本のエンデューロではこんな柔らかいタイヤは使われていませんでしたし、どちらかと言うと僕の古巣のトライアルに近いタイヤだったので、とても好感触でした。僕の推奨空気圧は0.3〜0.4kgfです。

次に解説するJX8 GEKKOTAが発売してから、出番は減ってしまいましたが、石や沢ばかりの例えば日高ロックス(北海道)のようなコースには適していると思います。

進化したゲコタ、JX8 GEKKOTA

iX-09w GEKKOTAの登場から約10年の時を経て、JX8 GEKKOTAが発売されました。ブロックパターンはiX-09w GEKKOTAと同じですが、ケースが少し硬く作られており、iX-09w GEKKOTAの良さを活かしつつハイスピードでの走行やコーナリング性能を向上させたタイヤになります。

iX-09w GEKKOTAと同じで石と根っこに強く、それでいて硬さもあるため、全開ヒルクライムもあるようなケゴンベルグ(神奈川県)のような採石場レースにとてもオススメです。ただし、粘土質の土には若干弱く、例えば雨のテージャスランチ(広島県)のように赤土がテカテカになっているようなところは柔らかいブロックが災いし、表面をなぞるような感じになってしまい、前に進まないことも……。

得意なところは日野カントリーオフロードランド(群馬県)のような、土、根っこ、岩盤、沢などなんでもアリなコース。トータル性能の高さが求められるフィールドにはJX8 GEKKOTAがすごくオススメです。

実はJX8が出る前は、iX-09w GEKKOTAよりももう少し硬さが欲しい時には意図的に5年ほど寝かせた古いiX-09w GEKKOTA(僕は熟成ゲコタと呼んでいます)を使っていたんです。タイヤは製造年から時間が経つと次第にゴムが硬くなっていきますので、今のJX8 GEKKOTAに近い特性になるんですね。僕の推奨空気圧は0.3kgf以下です。

マディに強いオールラウンダー、VE-33s GEKKOTA

次に紹介するのはVE-33s GEKKOTA。登場順で言うと、iX-09w GEKKOTA→VE-33s GEKKOTA→JX8 GEKKOTAという順番で、ゲコタ3兄弟の次男に当たります。ベースとなっているのはVE-33というオフロードタイヤで、iX-09w GEKKOTAが発売する前は「タイヤに迷ったらVE-33を履いておけば大丈夫!」と言われるほどエンデューロライダー御用達のタイヤでした。ところが、一度でもiX-09w GEKKOTAの石や根っこのグリップ力を知ってしまうと、普通のVE-33に不満を覚えるようになってしまいます。そこを補うためにこのVE-33s GEKKOTAが開発されました。

「このタイヤはまさにオールラウンダーで、かなり万能です。土にも良いですし、石も根っこも良い。でも突出して良いのはやっぱり土です。石と根っこはiX-09w GEKKOTAに比べるとどうしても弱いところがあります」とロッシ選手。現在のラインナップだと「晴れたらJX8 GEKKOTA、雨だとVE-33s GEKKOTA」という選択をするライダーが多い印象です。

得意なフィールドはテージャスランチ(広島県)。あとは雨の日野カントリーオフロードランド(群馬県)。JNCCのスキー場レース、特に鈴蘭高原(岐阜県)にもオススメです、とロッシ選手。

実はこのタイヤ、ブロック形状はVE-33とほとんど変わらないのですが、ほんのわずかにブロックの角度を変更しており、さらにサイドウォールに「GEKKOTA」の刻印を入れるために金型を新しく作っています。それだけiRC TIREの情熱が注ぎ込まれたタイヤなんですね。

2016年、2017年にiRCさんのサポートでアメリカのハードエンデューロレースTKO(テネシー・ノック・アウト)に出場したのですが、1年目はiX-09w GEKKOTA(手配した新品タイヤがトラブルで届かず、中古を逆履きしたもの)を使用しました。その時に得たフィードバックをもとにVE-33s GEKKOTAを開発し、2年目はこれで戦いました。

ヒルクライムの最終兵器、M5B EVO

M5B EVOはその名の通りゲコタシリーズではありません。元々はアメリカのヒルクライムレースでよく使われていたタイヤで、とにかく登坂力に優れているのが特徴です。

このタイヤはブロックの高さが18mmあり(他のタイヤは13-14mmくらい)、土をしっかり掻いて推進力を得ることができます。しかし坂と土に負けないようにブロックは硬く、石や根っこは得意ではありません。

また、サイズが120/80と140/80の2ラインナップがあり、特に140/80サイズはブロックの高さと接地面の広さでぐいぐい登ります。

もちろん得意なフィールドは雨のブラックバレー(広島県)のような土がメインのコースです。また、ハードエンデューロだけでなく、JNCCなどゲレンデの土ベースのステージにもオススメできます。

一部で「サカバカタイヤ」と呼ばれているほど、ヒルクライムに特化したタイヤです。僕の推奨空気圧は0.2以下です。

自走レースや林道ツーリングにもオススメ
耐久性に優れるTR-011ツーリスト

実はTR-011ツーリストはトライアル用のタイヤです。競技用のものよりケースが硬めに作られており、公道走行可能なため、セロー250などに履かせて自走でレースに参加する方に最適なタイヤと言えます。

トライアル用に柔らかいコンパウンドを採用しているため、石と根っこにはめちゃくちゃ強いです。その性能の高さはiX-09w GEKKOTAと同じかそれ以上と言えるでしょう。ネガはブロックの間隔が詰まっているので、タイヤが潰れた時にブロックが並んで溝がなくなってしまい、引っ掻く力がなくなってしまうこと。乾いた路面なら良いのですが、ぬかるんだ泥路面やフカフカの腐葉土ではブロック間に泥が詰まってしまい、無力に近くなってしまいます。

公道で使用するメリットといえば、耐久性がすごく高いです。とにかくブロックが減らないため、林道ツーリングライダーにも人気のタイヤになっています。

柔らかいタイヤは1回レースで使うと終わってしまいますが、ツーリストは練習で一ヶ月くらい履いていてもまだ使えます。僕の推奨空気圧は0.6kgfくらいですね。今回紹介した他のタイヤと違ってチューブレスなのですが、中にチューブを入れて使うこともできます。ただしビードが落ちやすいのでビードストッパーを2つ以上入れることを推奨します。

最適な空気圧は条件によって異なる
自分の最適値は数値ではなく潰した感覚で覚えよう

ここまでタイヤを解説をしてきた中でロッシ選手に推奨空気圧をお聞きしました。しかし、マシンの車重やライダーの体重、サスペンションのセッティングなどによって最適な空気圧は変わってきます。

ロッシ選手は「バイクに跨って体重をかけて、リアタイヤを見た時に手の平サイズの部分がしっかり潰れているかを確認してください。それから実際に走ってみて微調整します」とのこと。

採石場レースはこれ一択!
iX-09w GEKKOTA

さて、ここからはフロントタイヤ編になります。まずはiX-09w GEKKOTA。リアと同じ名前なので間違えやすいですが、21インチのフロントタイヤもラインナップされています。

もちろん特性はリアタイヤと同じで、他のタイヤよりもブロックが柔らかく、沢の岩盤や石でとてもグリップ力を発揮します。斜めになった石の上に乗せてもズルっと滑ることがないため、採石場のレースではこれ一択と言っても良いでしょう。

土路面も乾いていれば問題ありませんが、濡れているとブロックが柔らかくて土に刺さらないので、あまりグリップしません。

ベースになったiX-09wはモトクロスタイヤなのですが、リアタイヤと一緒でコーナリングで攻めすぎるとブロックがヨレてグリップを失います。気をつけてください。

ロッシ選手が「一番よく使う」
定番のフロントタイヤ、iX-07s

次はiX-07s。ロッシ選手はレースではほぼ100%、フロントにこのタイヤを使っています。実はこのタイヤはそのまんまモトクロスタイヤなのですが、ミディアム〜ソフト路面に対応するため、ブロックが少し細く、そして固く作られており、濡れた土の路面でもしっかり刺さってグリップしてくれるんです。

iX-09w GEKKOTAとのブロックを比較。左がiX-07sで右がiX-09w GEKKOTA。

ロッシ選手がエンデューロを始めた時にはすでにラインナップされていたほど古いタイヤですが、いまだに現役で使われ続けている長寿タイヤなのです。

固いと言ってもカチカチじゃないので、沢の石などでもグリップしますし、雨の日でも良い。トータル性能に優れているので、一番よく使います。モトクロスタイヤなので、コーナリングも攻められますし、迷ったらこのタイヤを選びますね。

土路面での制動力は一番、M5B EVO

そして最後はM5B EVOのフロントタイヤです。リアタイヤ同様、やはりブロックが高いのが特徴。iX-07sが11mmなのに対してM5Bは13mmあります。そのためフカフカの腐葉土などでもしっかり刺さってグリップしてくれます。ロッシ選手曰く「土路面での制動力は一番」。

逆にネガな部分はブロックが高いため、コーナリングで攻めすぎるとブロックがヨレることです。「ちょっと癖があるので、レースで使う前に練習で履くことをオススメします」とロッシ選手。

なお、フロントタイヤはどのタイヤでも0.6kgfくらいの空気圧で使用しています。

以上、ハードエンデューロに適したiRC TIREラインナップの紹介でした。「それぞれのタイヤについて良いところも悪いところも包み隠さずしゃべったつもりです。僕はレースの時にはスペアホイールを用意しています。フロントは2本ともiX-07sで、リアは大体JX8 GEKKOTAとVE-33s GEKKOTAを1本ずつ。実際にレース会場で下見をした後に、勝負所になるセクションを上手に走るためにはどのタイヤがベストなのか考え、タイヤを選びます。もしJX8 GEKKOTAでもVE-33s GEKKOTAでもない選択をする場合には、会場でiRCさんに交換してもらいます。日本にはいろんなコースがありますが、iRC TIREにはどのコースにも適応できるたくさんのラインナップがあります。もしタイヤに迷ったらiRCのサポートライダーか、iRCブースにいるスタッフに相談してみてください」とロッシ選手。

最後に

このiRC TIRE Presentsライディングテクニック連載は2021年11月にスタートし、釘村忠選手を講師に迎えたエンデューロテクニック編を全9回、そしてロッシ高橋選手に引き継いでハードエンデューロテクニック編を全9回、実に1年と5ヶ月にわたってお送りしてまいりました。

今後も多くのエンデューロ/ハードエンデューロライダーの皆様に役立ててもらえると講師・編集部一同嬉しく思います。