最終ステージもトリッキーなナビゲーションに悩まされる
全14ステージで争われたダカールラリー2023。実に43時間にもわたるスペシャルステージを積み重ねてきて、ステージ13を終えたところでトップのトビー・プライスと、2番手ケビンの差はわずか12秒であった。さらに3番手には2分以内の差でスカイラー・ハウズ。たいてい最終ステージでは大差がついていて、優勝者のビクトリーランになることが多いのだが、このダカールラリーは最後まで激戦が繰り広げられたのである。
このファイナルステージだけは、前日の順位順でスタートするのではなくランキングの降順でスタートが切られる。つまり僅差のトップ3は最後尾からレースをスタートするため、ナビゲーションによる不利はほとんどない。さらにはこの最終ステージは、どちらかというとビーチのスピード勝負だと告知されていた。単純なスプリント勝負、136kmで12秒を巻き返すことは可能なのだろうか。
ところが……この最終ステージ、ひどいマディになったこともあってイージーなものではなかったようである。優勝したケビンは「スペシャルは本当に速くてトリッキーで、ひどいコンディションだった。ありがたいことに大きなミスはしなかった」と。そしてこのトリッキーなステージにしてやられ、12秒差を覆されたプライスは「3つウェイポイントを逃してしまったんだ。ほんの1メートルほどしか離れていなかったんだけど、これを取り戻すのに時間を使ってしまった」とコメント。このミスを取り戻すためにプライスはスパートをかけて後半で1分ものタイム短縮に成功しているのだが、ケビンのタイムには届かなかった。
「アメイジングな一日だったよ……。最初から最後まで1キロ1キロ、集中を絶やさなかった。ポジションや結果については考えず、ステージ全体を通して100%出しきってステージを楽しもうと思っていたんだ。今年のラリーはこれまでで最も接近戦だったから、リラックスできるような日は一切なかったね。とにかくチームと家族のサポートなしにこの優勝を成し遂げることはできなかったと思う。今はこの気持ちを表現することができない」とケビンはラリーを振り返っている。
ケビンの優勝で成立した記録
優勝したケビン・ベナビデスはアルゼンチンの中規模都市サルタの出身。南米でダカールラリーが開催されていた時代、ホンダには現地のライダーを採用し育成するためのセカンドチームが存在しており、ルーキーながら2016年に4位の成績を残して頭角を現した。2018年にはホンダファクトリー入り、1年目で2位と好成績を残し、2021年に初優勝。2022年からはKTMへ移籍してこのたび2度目の優勝を達成している。過去に2つのメーカーにわたって優勝したライダーは少なくないが、近年のダカールにおいては唯一無二(サム・サンダーランドはKTMとガスガスで達成しているものの、KTMファミリーで事実上同じマシンと見なすべきだろう)だ。
また、今大会の僅差を象徴する最終タイム差は、1位ケビンと2位プライスで43秒。この記録はダカールラリー45年の歴史のなかでも最も短いものになったという。
ダカールラリーはご存じの通りフランス発祥のスポーツであり、現在も公用語としてフランス語が使われ、主催者ASOもフランスにある。だが、この第45回のダカールラリーでバイクカテゴリーのトップ10には、欧州出身のライダーが5位のエイドリアン・ファン・ビバレン(フランス)、9位のロレンツォ・サントニオ(スペイン)のみとなった。以前より南米出身のライダーが席巻していたが、3位にアメリカ出身のスカイラー・ハウズが入っており、リタイアしてしまったリッキー・ブラベックとともに存在感を示しているところもおもしろい。