全日本ハードエンデューロ選手権G-NETのトップランカーであるロッシ高橋こと、高橋博選手がハードエンデューロに必要なテクニックを伝授してくれる連載第7回

高橋選手は2014年〜2019年まで6年連続でG-NETチャンピオンに輝いている、誰もが認めるハードエンデューロの「走る伝説」。全9回となる本連載ですが、第7回目の今回のテーマは「キャンバー走行」です。

ロッシ高橋
1969年1月25日生まれ、三重県出身。元トライアルIAライダーであり、スキー・クロスでも全日本ランキング2位まで上り詰めた経歴を持つ。ハードエンデューロにおいては2014年から2019年まで6年連続でシリーズチャンピオンを獲得する偉業を達成。現在は競技に参戦しながら後進の育成に注力する。

まずは動画でテクニックを学ぶ

- YouTube

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今回もまずは動画を見ていただきましたが、時間がない方、音が出せない環境で読んでくださっている方、動画を見てくれた方の復習用として記事でも同じ内容を解説していきます。

なお、動画のアップロード先はiRCタイヤのYouTubeチャンネルになります。他にもたくさん役に立つ動画がアップされていますので、ぜひチャンネル登録をお願いいたします。

キャンバーの基本を習得!

今回、キャンバー走行のコツを伝授するにあたり、ロッシ選手がテストコースとして選んだのは三重県いなべモータースポーツランドにあるこちらのキャンバー。もはや道が見えなくて崖の中腹にバイクが置かれているようにしか見えません。

・正しいラインの見極めと正確なトレースが大切

近づいてみるとこんな感じです。かろうじてタイヤ一本分の道らしきものがありますが、場所によってはそれすら崩れており、簡単にタイヤがずり落ちてしまうようになっています。

走行ラインを赤線で記してみました。できればバイクで走行する前に歩いて下見を行い、安全なラインをしっかりイメージし、そのラインを正確にトレースすることがとても大切です。このキャンバーでは丸太が引いてある区間を過ぎた後の一部分は特に注意が必要です。もし先に誰かが走ったタイヤ跡があれば、それをじっくりと観察してみましょう。すると、どこでどんな滑り方をするのか、どのラインなら滑らずに通過できるのかが見えてきます。いろんなキャンバーを走って経験を積み、正しいラインの見つけ方を頭で覚えていきましょう。

・ギアは1速か2速

まず、速度が出過ぎると正確なラインをトレース出来ないため、ギアは1速か2速を選びましょう。2速だと半クラッチを多用することになりますが、エンジンパワーの伝わり方がマイルドになりますので、精密なアクセルワークが苦手な人は2速が良いかもしれません。アクセルはアイドリングよりもほんのちょっと開けるくらいで優しく。

・鉄則は「途中で止まらない」

理想はキャンバーの途中では止まらず、一気に駆け抜けることです。しかしラインをタイヤ一本分ミスすれば取り返しのつかないことになってしまいます。そのため、タイヤが落ちない安全なラインを見定め、そこを正確にトレースすることが最優先。あとは可能な限り止まらず、トコトコと一定の速度で通過します。

安定した場所でしっかり加速し、そのスピードを殺さないように惰性で走り切ります。キャンバーの途中でアクセルを開けたり閉じたりしないことが大切です。

・バイクは山側に少し傾け、谷側にステップ荷重

キャンバー走行時のトラクションの考え方には諸説あります。それが「山側谷側論争」です。つまり、山側と谷側どちらのステップに荷重をかけるのが良いか、という問題です。ロッシ選手が長年の経験から出した答えは「バイクを山側に少し傾けて谷側にステップ荷重」というもの。

もちろんバイクを垂直、もしくは谷側に傾けた方がタイヤのグリップは良いのかもしれませんが、万が一途中でエンストしたり、バランスを崩してしまったら復帰が難しくなるため、バイクは山側に傾けるのがトータルでは良いと思います。

バイクが山側に傾きすぎないよう、左足を杖代わりに使い、トン、トン、と山側に着きながら走っています。

もしキャンバーの途中で止まってしまったら……

もしもキャンバーの途中で止まってしまったら、まずは落ち着いてリアタイヤの位置を確認しましょう。リアタイヤがラインに乗っていれば、そのままでOK。リアタイヤがずり落ちないように、半クラッチを使ってゆっくりとアクセルを開け、少しずつタイヤを回転させて前進します。

ここではバイクを若干山側に倒すことを再度意識してください。

もしも少しでもリアタイヤが落ちてしまったら、バイクに乗ったままでは絶対に復帰できません。

そういう時は速やかにバイクを降りて押しましょう。まだリアタイヤが落ちていなくても「落ちそう」と思ったら同じように降りて押すようにしましょう。ハードエンデューロではバイクを降りることはカッコ悪いことではありません。全日本チャンピオンも世界チャンピオンもみんながやっている「テクニック」なのです。

この時、フロントタイヤをできるだけ上段に置くことが大切です。そのためにハンドルを山側に少し切ってあげると、リアタイヤも上に登ろうとするので、ずり落ちにくくなりますよ。

バイクはフロントタイヤが向いている方向に動く乗り物ですので、フロントタイヤを坂の上方向に向けてあげれば、自然とリアタイヤも上に向かって進んでいく、ということですね! これは何気に意識したことがなかった人も多いのではないでしょうか。

キャンバー走行の基本としてフロントタイヤは一本か二本上のラインを通すようにしましょう。キャンバー走行中はフロントタイヤをトラクションさせることが非常に困難です。万が一フロントタイヤがラインから落ちてしまうと、力で持ち上げる以外で戻すことはできません。リアタイヤのグリップが良い場所ならフロントアップという手段もありますが、キャンバー上でやろうとすると、まず間違いなくリアタイヤも落ちちゃいますね。

図解すると上の写真のようなイメージです。

海外でも日本でも近年のハードエンデューロではキャンバーが多く使われていて、この繊細なテクニックがとても重要になっています。ヒルクライムやフロントアップに比べると地味かもしれませんが、しっかりと習得するようにしましょう。

いかがでしたでしょうか? 次回Vol.8は「激下り」になります。お楽しみに!