FOXのブーツラインナップがこのたび一新。インスティンクト、モーション、コンプの3つから選ぶべきは何か……ビギナー目線で語ります
憧れのカーマイケルが育てたFOXの銘ブランド"インスティンクト"
まず、FOXのモトクロスブーツが歩んできた歴史からお話したい。定価89ドルだった1979年のスーパーフォックスブーツからはじまり脈々と受け継がれてきたFOXのブーツは、1990年台にフォーマブーツ、2000年台に入って「フォーマプロ」というFOXの新世代を担う新しいモトクロスブーツが発売された。その後、F3ブーツを経て、2010年台に鳴り物入りで「インスティンクト」がデビュー。アルパインスターズがテック7からテック10、ガエルネがSG-10からSG-12へとハイエンドブーツをワンランク押し上げた最中の出来事である。インスティンクトの売りは、当時世界最高のライダーであったリッキー・カーマイケルが開発に関わったというところだ。後期のフォーマプロもスチュワートの意見が取り入れられたという話しだったが、さらに次世代のブーツであるインスティンクトではこのトップライダーの関与を前面に押し出してきた。
インスティンクトはフォーマプロ世代とはまるで異なるコンセプトから作られており、樹脂製パーツをふんだんに用いた上に、当時ブーツ業界がこぞって導入していたヒンジシステムを採用。ねじれ方向から足首を強力に保護していた。モトクロスブーツの基本的な考え方はプロテクションと動きやすさのトレードオフ関係にある。大きな衝撃から足首を守るために上級モデルはプロテクションを重視し、操作性を高めるためにエントリーモデルは動きやすさを重視する。ヒンジシステムはこの二項対立のジレンマを両立させる有効な手段だった。足首が弱い横・ねじれ方向を剛性の高い樹脂性ボディでしっかりと守り、ブレーキやシフトチェンジなどに必要な縦方向の動きやすさをヒンジシステムで確保する。とは言うものの、上級者向けブーツがエントリーモデルほどの動きやすさを確保できているかというと、実際にはだいぶ隔たりがあると申し上げておきたい。どちらかと言えば、2000年台よりもさらに強固なプロテクションが求められるようになった2010年台に、少しでも可動域を持たせようとヒンジシステムで対応した、という表現のほうが正しいだろう。
2022年、満を持してリニューアルされたインスティンクトを履いてみると、旧モデルをさらに上回るプロテクションを持たせたモデルだと感じた。マシンやライダーが進化し、クラッシュ時のスピード域が上がっていく中で、その衝撃に対応するモデルになったということだろうか。旧モデルのインスティンクトはハイエンドモデルながら若干柔らかい傾向にあったのが、新インスティンクトでは妥協無きプロテクション性能に特化したと感じられた。
正直なところビギナー代表のジャンキー稲垣としては、この新型インスティンクトがかなり固く感じられた。これは自分にはまだ早いのではないか、と思った。旧インスティンクトを履いていたこともあるのだけれど、その時は履き始めからすんなりなじむくらいの親しみやすさがあった。ところが、新インスティンクトは例えて言うならば、モトクロッサーの250から450に乗り換えた時に感じるのと同じくらい「機材としての尖ったフィーリング」がある。使いこなせれば、新型のほうがいいというのはよくわかる。FOXは今回のモデルチェンジについて、ブーツ内側のグリップ感を強調しているのだけれど、これもとても好感触だ。足首からふくらはぎでしっかりフレームをホールドし、終始スタンディングでトラクションの効率を稼ぎ続けるAMAのトップランカーにとっては、相当いいんだろうなと思った。だけど僕は草レースのヒーローズアダルト・ノービスクラスを走るジャンキー稲垣である。トラクションを足で感じることなんて、年に何度かしかないのである。
モーションブーツは旧インスティンクトに似ている
今までFOXではハイエンドのインスティンクトと、エントリーモデルのコンプブーツの2グレードを展開してきたが、このリニューアルのタイミングでミドルグレードの新作ブーツ「モーション」を新発売した。
FOX
モーションブーツ
¥77,000(税込)
新型インスティンクトからモーションに履き替えてみると、足を入れた瞬間に「これはしっくりくるな」と感じた。インスティンクトの場合はプラスチックガードが多いからか、点や線で足に接触する感触だったが、モーションには包み込まれるようなフィット感がある。もちろんインスティンクトがフィット感に劣るということではなく、単純に柔らかいか固いかの違いだろうと思う。モーションのほうがプラスチックガードが少なく、若干ながら柔らかいのだ。
実際に乗ってみて、そうかモーションは旧インスティンクトの立ち位置と同じなんだ、と納得できた。プロテクション性能の加減は旧インスティンクトによく似ていて、履いたときの剛性感もそっくり。僕のライディングスタイルで不安を感じる部分は一切ないから、これ以上のプロテクションは不要だと感じた。ひと足先にFOXブーツを試し履きしている馬場大貴に電話してみると「僕はつま先のほうでステップに乗っているので、JNCCのスキー場によくある水切り(溝)を越えるような時でも、インスティンクトの硬さがないと足首を曲げて傷めてしまう不安があるんですよ」と教えてくれた。僕の場合、そうした大きな衝撃を受けるほどのスピードで突っ込むことは想定できないし、平らなところに落ちるようなジャンプは痛くて嫌なのでまず飛ばないから、やっぱりこれほどのプロテクションは不要である。
モーションを履いて、関東で行われている草モトクロスのレースシリーズ「ヒーローズアダルト」の最終戦にも参戦してみた。レースに出てみるとアドレナリンのせいか、いつの間にかペースが上がっていて「やむを得ず飛んでしまう」とか「やむを得ず転んでしまう(?)」ということが多くて、普段ひとりで練習走行していた時には見えていなかったものが見えてくる。なんせ予選ヒートのスタートでは、がっつり捲れてしまったお隣のKTMの方と絡んでしまい、人生初のスタート絡みゴケを喫した。めっちゃ痛かったが、お気に入りのジャージが破けただけで身体は平気だった。マシンの下敷きになった足首も、当然のようにダメージは受けていなかった。こういうことは転ばない範囲で走っている練習時にはわからない。改めてブーツの必要性とプロテクション性能の高さを知ったのだった。
リアブレーキは少し慣れが必要だった。ここ最近はFOX旧型コンプ→アルパインスターズテック7とブーツを履き替えてきたのだけれど、特にコンプはかなり柔らかかったこともあってモーションの硬さに苦労した。最初ブレーキ加減の調整がうまくいかず、思った以上にリアが滑って出てしまうようなこともあったのだけれど、それもヒート2あたりまでには慣れてきた。モーションはブーツ内側のグリップ力が高い(旧インスティンクト同様のDURATACヒートガードを採用)から、ブーツをフレームに擦り付けながらブレーキを踏む力を調整しやすいことがよくわかった。もう少し慣れればもっと調子よくなるはず。そういえば、同じことを新型コンプでやろうとしたらフレームとブーツが滑ってしまい、大腿四頭筋(ももの表)が痙りそうになったのを思い出した。僕にとって、モーションは色々とちょうどいいのだ。
細かいことだけどストラップは旧型インスティンクトより遙かに留めやすいし、ソールの感触もちゃんとグレードアップしている。少なくとも、旧インスティンクトに劣ると感じる部分はまるでなく、新世代感は十二分に感じ取れる。
スポーツ走行に目覚めたあなたはモーションがしっくりくるんじゃないだろうか
実に私事で恐縮なんだけど、この2年くらい急にモトクロッサーでちゃんと走ることが楽しくなった。以前から履いていた旧型コンプは、あまりに頻度が高くなってソールもボロボロになってしまったし、少しジャンプを飛び始めたことからニーブレイスを買ってみたり、上半身のプロテクターを買ってみたり、アルパインスターズのテック7に履き替えてみたりと、身体のプロテクションを高めていたところだった。そこにきてFOXがモデルラインナップをリニューアルするというので、3モデルを履き比べ、モーションにベタ惚れしたという次第。
モトクロスに手をださなかったら、そのままコンプでも問題なかっただろうと思う。コンプはブーツ自体が旧型・新型ともに軽量なので履いていて疲れにくい。そんなにスピードを出してセクションへ突っ込むこともないから、パッシブ・セーフティよりも、操作性の高さからくるアクティブ・セーフティのほうが大事だと思っていた。だけど、ある程度スポーツとしてバイクを楽しむようになると、不器用な自分にはアクティブ・セーフティを実践できるほどのスキルがない、と思うようになる。
同じようなことを考えている人には新たなモーションはしっくりハマルはず。一世代前のハイエンドクラスのプロテクション性能があると感じるので、大概の人にはこれで十分だと思う。旧インスティンクトからの買い換えを考えている人も、一旦踏みとどまって新インスティンクトと履き比べてみてほしい。
バックルの精度、つけやすさは圧倒的に進化している
内側の黒い部分はデュラタックでフレームにグリップする
ソールもすこぶる快調だ