先日お届けしたばかりのTM Racing EN144 Fi 2Tにつづき、セミカムギヤトレインのオリジナリティ溢れるエンジンを搭載したEN250 ES Fi 4Tをインプレする

エンデューロにおける4ストロークとは

TM Racing
EN 250 ES Fi 4T

日本では2000年代にモトクロッサーが4ストローク化していったが、欧州のエンデューロ界ではすでに20世紀末に4ストローク化の機運が高まっていた。1990年、エンデューロの世界選手権を創始するにあたり350ccの4ストローク、350cc以上の4ストローククラスが設定され、このクラスではスウェーデンのフサベルやハスクバーナが猛威を振るっていた。250ccの4ストローククラスがエンデューロ世界選手権に生まれたのは1998年のこと。折しも環境保護の気運が高まっていた時代だった。「当時は、まだヨーロッパのメーカーには戦闘力のある4ストローク250エンジンがなかったんですが、TMは4スト250エンジンの開発に即座に取り組み、1999年の世界選手権には自社製のDOHCエンジンを出しているんです」とビッグタンクマガジン編集長の春木氏は言う。ダグ・ヘンリーの手によってYZM400がラスベガスの空を飛んだのは1997年のことであり、エンデューロの歴史を塗り替えたヤマハWR250Fの登場までは2001年まで待たねばならない。いかにTMの開発が先行していたかわかるだろう。

このたび試乗することができたEN250は、そのDOHCエンジンの最新モデルを搭載したバイクということになるのだが、エンジン単体、いや車体全体を眺めても“異形”と形容するほかないものであった。まず、縦に長く見えるエンジンのシリンダーブロック部分には円形のパーツが収まっているが、これはギヤだ。2本のカムはこのギヤを介して動いている。このギヤはプライマリーからチェーンで駆動されているので、“セミ”カムギヤトレインと呼ぶのが正しい。カムギヤ自体はロードバイクではさして珍しくなく、古くから高回転を実現する機構として使われているもので、このTMと同様のセミカムギヤトレインはCBR1000RR-Rなどにも採用されている。

試乗会に帯同した奈良のTMディーラーJERRY'S松本氏によると「カムをギヤトレインにすることでチェーンの厚み分だけエンジンの高さを抑えることができます。それにカムチェーンではバルブタイミングがわずかにずれてしまうようなシチュエーションで、そのずれを抑えることができる利点がありますね」と言う。

さらに車体はリアにガソリンタンクを配置し、通常タンクがある前方にはエアクリーナが備わっている。車体レイアウト自体が相当に特殊であり、いかにTMがダウンドラフト吸気によるハイパワーを追い求めているのかがよくわかる。

エンデューロモデルとしては非常にパワフル

試乗をお願いした春木氏はまずその4ストDOHCユニットのパワーに驚いた。「思った以上にパワフルになっていると感じました。低回転からのピックアップが鋭いことが特徴なのですが高回転域もしっかりあって、全体的に他社のエンデューロモデルと比べて、少しレース向けになっていますね。どちらかといえば、エンデューロモデルと言うよりはモトクロッサーのような味付けになっていると感じました。回転上昇が早くて、極低回転からスロットルについてきてくれます。それにただ回転が上がるというのではなくて、車速がしっかり乗るフィーリングがあります。

そのしっかりしたエンジンの力を受け止める車体も秀逸です。フロントフォーク、それからリアサスとのバランスも非常に良くて、初めて乗った瞬間から自分のバイクとして扱えるような仕上がりになっていると思います。

エンデューロと言うのは様々なシチュエーションが考えられますよね。ハードエンデューロとかトレイルライディング的な楽しみ方とか。でもTMが考えているエンデューロはあくまでオンタイムエンデューロのスペシャルテストでのタイムを追求するものなんだろうな、という意思を感じました」

また春木氏は今回試乗したTM2台についてこう付け加えている。「TMのバイクの高い走破性を実現しているものは単にフレームの強さとかサスペンションのアウターチューブの径が太いとか、そういうものだけではないんです。たとえばホイールとスイングアームの間に挟まるディスタンスカラーが、非常に精度が突き詰めてあってクリアランスを極限まで追い込んであったりします。また自社製のハブには特殊なスポークの組み方がされていて、さらに削り出されたやはり自社製のスプロケットが8本ものボルトで取り付けられています。スプロケット側には2つのベアリングが入っているそうです。こういった車体全体を構成する部品精度そのものが、とても高いレベルで追い込まれていて、ライディングした時のカチッとしたフィーリングを生み出しているのだと思います」

OFF1編集部ジャンキー稲垣によるメカマニア視点なインプレ

4ストのYZってエアクリーナが車体前方についているから吸気音がギャンギャン聞こえるじゃないですか。あれがカッコイイんですけど、TMの4ストはさらにギュオーって感じで聞こえるんですよね。いつだったか乗ったEN250はエアクリーナ部分がカーボンだったから、さらにその吸気音がすごく独特で……ぶっちゃけその時は音ばっかり気になってバイクがよくわかんなかったほどです、てへ。

さておき。最新型のEN250は乗れる人ほど「最高です」と大声で言ってる気がする。だから僕も最高ですって言っておいて乗れるふりをしたいものなんだが、ふりでもなんでもなくやっぱり最高でした。車体はEN144と感じるところはほぼ変わらず、とても強靱でスピードに乗ると本領を発揮するタイプ。エンジンのスペック的に言うと、このEN250はボア×ストロークが77×53.6mmで他社の4スト250モトクロッサーと同様の基本設計になっている。だからショートストロークで高圧縮なモトクロッサーライクな乗り味なんだろうと思いきや、全然これが違う。圧縮で言えばかなり抑えられた感触があって、パツパツ感があまりなく、エンジンストールもしづらく、ものすごく扱いやすい。なんというか角が取れている丸いレスポンスで、腰やら肩やらに優しい割にしっかり前に出る。こういうある意味ダルなキャラクターなのに、さらに低速でのピックアップは鋭くて、スキー場にありがちな水を流すための溝なんかもひょいっとフロントを持ち上げて(る気になってるだけで実はサスが伸びてるだけ)クリアできちゃうくらいのイージーさもある。

その上、開けるとかなりパンチのある高回転域が顔を出す。TMの本領発揮といったところだ。高回転までビュンっと回るようなモトクロッサーとは違って、ビューンくらいの過渡特性である。フライホイールの重さによるものなのか、マッピングによるものなのかは定かでは無いけれど、とにかく無駄を感じない。開けた分だけしっかりタイヤが土を噛んでくれていてしっかりスピードが乗るのだ。まるで、サンドタイヤを履いて砂浜を走るモトクロッサーのように。しっかりエンジンに負荷がかかっている感触もよく似ている。例え方が古いかもしれないけれど、このエンジン特性はホンダのXRシリーズを思い出す。もちろん基本的な性能は言うまでも無く最新のものなのだが、エンジン自体が持つグリップ(ストラーダ×ビバーク所沢の渡辺さん言うところの“エンジングリップ”)が優れていて中速域で粘るところが似ている。エンジンのトルク感自体に柔軟性があると言ったらいいんだろうか、負荷がかかった時にグリップ感がすっぽ抜けず、しっかりトルクが路面まで伝わっている感触があるのだ。これか。これなのか。TMの魔力……。

正直なところ、僕の腕ではこのバイクがタイムにつながるのかどうかが、いまいちわからない。派手にギュンギュン回るわけではないし、パワーバンドでクラスを超えた最高出力を発揮するようなエンジンでもない。だけどこういうエンジンがタイムに繋がるということも頭では理解できているから、しっかりタイムを計って見定めてみたいというわくわく感が沸き起こった。これって、もしかしてすごい速いんじゃ? もしかして俺ってめちゃくちゃ速いんじゃ(んなわきゃない)? と錯覚するに十分なマシンでした〜。

デュアルエキゾーストを採用する4スト250ccエンジン。クラッチの軸も高くコンパクトに設計されていることが見て取れる

エンジン左側からはカムに駆動力を伝えるギヤの存在が。プライマリギヤからこのギヤにはチェーンで接続。カム2本を駆動するコンベンショナルなカムチェーンタイプと比べて、圧倒的にチェーンのたるみは少ない

とても消音効果の高いエキゾースト。左右バランスをとることももちろん考慮にいれた結果だろう。自社製であるところも見逃せないポイント

ダウンドラフトのスロットルボディ。YZのような前方吸気エンジンではないが、車体レイアウトの妙によってこの角度を実現している

メインフレームの位置は前年モデルで下げられたとのこと

4ストモデルはフューエルタンクがマシン後部にレイアウトされている

実はリアサスすらtm自社製だというから凄い……

数少ない他社製コンポーネントであるKYBフロントサスは、自社製の強靱なステムブラケットと併せてがっちりした乗り心地に。スピードが増すほどにスタビリティを発揮する

自社製リアハブ、アクスルまわりはすさまじい造型。削り出しのスプロケットは9本ものボルトでマウントされ、できる限り外側に組まれたスポークや、クリアランスを追い込んだディスタンスカラーなどが車体の剛性感を向上させる