今年5人の日本人ライダーがRed Bull Romaniacs 2022に参戦した。これ以前には2018年に竹内郁馬氏が出場したのみで、ほとんど情報がなく、手探り状態だった部分も多かったので次回参戦したい人、観戦したい人、取材に行きたい人のために、ここに様々な情報を残しておく

出場クラスについて

ゴールドクラス

公式の案内で「エンデューロゴッド以外は出るな」と記載されている言葉をそのまま受け取るべし。「G-NETチャンピオンくらいじゃ全然ダメ」とは山本礼人の談。山本が60分かけて登る山を6分で登れるライダーのためのクラス。失敗すると確実に死ぬようなセクションをミスせずクリアできる人専用。

シルバークラス

日本人はいまだ誰も出たことがないので、想像でしかないが、実際にシルバーと同じセクションも走った山本、佐々木に言わせると「完走はできそう」。G-NET1〜5位レベルのライダーなら挑戦しても良いレベルと思われる。

ブロンズクラス

G-NET完走、CGCゲロゲロ上位レベルのライダー推奨。ただし、スキルと同時に8耐アイアンマン完走レベルのスタミナも求められ、スピードはJNCCという過酷さ。エンジョイしたい一般人ならばアイアンかアトムを推奨。

アイアンクラス

2018年に竹内氏が完走しているクラスで、ブロンズよりは難易度は低いはず。それでもエンジョイという感じではなく、ギリギリ完走というレベル。CGCさわやかライダーやJNCCのCOMPライダーに推奨か。

アトムクラス

おそらくほとんど難所のないツーリング。車で一般道を移動している最中にアトムクラスのライダーと併走することが多かった。上位のライダーは1日3時間ほどでゴールしているため、一般人がエンジョイするならこのクラスか。

公道で遭遇したアトムクラスのライダーたち。途中で林道に入っていった。

もし実際にエントリーしたい人がいたら、ぜひOff1.jp編集部か、今回エントリーした5人の誰かに相談してみてほしい。解説では一例として日本のレースを挙げて説明したが、レースレポートを読んでいただけるとわかるとおり、日本のレースとはまるで違うため、一概には言うことができない。

今回参戦したライダーたちはさまざまな海外レースの経験を持っているため、スキルや体力などを総合的に判断し、的確なアドバイスを差し上げることができるはずだ。ちなみにゴールドにエントリーした山本は「自分が『このくらいかな?』と思うクラスの一つ下にエントリーするくらいでちょうどいい」とコメントを残している。

なお、ルーマニアクスのエントリーは毎年10月初旬頃に翌年分が開始になり、下位のクラスほどすぐにエントリー枠が埋まってしまうため、早期の決断が求められる。なお、メディア枠でコースを走っているライダーもいたが、トップライダーと同じくらい上手かったのでお察しいただきたい。

大会ルールについて

スケジュールを簡単に記すと

火曜日:プロローグ
水曜日:DAY1
木曜日:DAY2
金曜日:DAY3
土曜日:DAY4

となる。

基本的にはシビウ市内のホテルに宿泊し、郊外に設置された大会パドックで大会側がマップデータを入れたGPSを受け取る。それをマシンにつけるとスタート位置までのルートが表示され、それに沿ってスタート地点まで各自移動。パドックからスタート地点までは50kmほどかかる場合があり、そこで減る分のガソリンは自分で給油が必要。

スタートしたらやはりGPSに沿ってセクションを走りながらCP(チェックポイント)をめぐり、最終的にゴールに辿り着くまでのタイムがその日の成績となる。ゴールしたらパドックでGPSを渡し、やはり自走でホテルへ戻る。なお、今年チームジャパンが利用したクロスパワーレーシングのようなレースサポートサービスを利用するとスタート地点への往路、ゴール地点からの復路などはシャトルバスで送迎してもらうこともできる。なお、シャトルバスは別料金となるため今回はゴールド2人はシャトルバスを利用し、ブロンズ3人は取材班がレンタカーで送迎した。DAY2の夜だけランカに宿泊することになるが、今年はそこもホテル(ペンション)が用意されており、テント泊はしなかった。このランカ一泊についても着替えなどの宿泊道具を持って走るわけにいかないため、今回は取材班がレンタカーで荷物を運搬したが、別料金を払うことでクロスパワーレーシングやルーマニアクス運営が運んでくれるサービスもあった。

各チェックポイントには到着制限時間が設定されており、それを過ぎるとそれ以上レースを継続することはできない。なお、今年はゴールまでの制限時間は各日8時間に設定されていた。1日だけなら時間制限を過ぎてもペナルティを受けるだけで翌日以降もレースを走ることはできるが、2日遅れるとその時点でレース終了となる。

総合順位はプロローグから通して5日間のタイムの合計で決まる。なお、日本から参戦したブロンズライダーたちは一日6〜8時間ほど走り、4日間の合計走行時間は24〜28時間程度だった。

参加者の荷物について

大会規定で必要なもの

・GPS機器
・GPS機器の予備バッテリー
・防水機能のある携帯電話
・国際免許証
・パスポート
・ライター
・水1L
・サバイバルブランケット
・予備のスパークプラグ
・修理用ツールセット
・ムースまたはチューブリス以外の場合は予備チューブと修理用工具
・ルーマニアの現地通貨150Lei(遭難時のピックアップ用)
・ヘルメット+ゴーグル

ヘルメットはFIMやMFJの承認は不要だが、大きな傷があると車検で落とされるので注意。

その他あったほうが良いもの

・GPS取り付け用マウント(ほぼ必須)
・FIMライセンス
・日本国旗
・海外用レース保険(例:ホンダ開発株式会社
・雨具
・予備のウエア
・非常食
・重要なカスタムパーツ、およびガード類
・コンセント変換プラグCタイプ
・ルーマニアに対応したSIMカード(もしくはeSIM)
・その他、生活必需品

日本国旗と書いたのはプロローグ前日(月曜日)に開催されるパレードランがあるため。各国のライダーが自国の国旗を掲げてシビウの街をパレードする。これにはぜひ国旗を掲げて参加したい。

FIMライセンスは必須ではないが、持っていない場合は受付時に身体検査が必要となる。

なお、タイヤはFIMタイヤ限定なので、持ち込む際は注意が必要だ。クロスパワーレーシングのようなレーシングサポートを使わない場合は、予備のタイヤも持ち込みが必要となる。なお、Metzelerが大会スポンサーについており、それなら割引価格で現地購入も可能だ。予備のゴーグルは毎日大会主催側から100%ブランドのものが支給される。

また、GoProなど身につけて走る映像機器は基本的にプロローグ以外は使用禁止。どうしても撮影を希望する場合は事前に、日本国内のメディアから申請しておけば許可される場合があるが、映像を公開する前に内容を検閲され、もし大会本部の意思にそぐわない映像を公開してしまうと1000€(約15万円)の罰金が課せられる(申請時に先払いしており、検閲をパスした時点で返金される厳しいシステム)。なお、その場合でもヘルメットへの装着は禁じられており、車体、もしくは胸部などへのマウントとなる。

宿泊について

ホテルはエントリー時に主催側に手配をお願いするか、自分で用意するかを選ぶことができる。今回の日本チームは全員エントリーとセットで手配を頼み、追加料金を支払ってシングルルームを手配した。相部屋にすれば費用は節約できるが、やはり連日の疲れをしっかり癒すにはシングルルームが必要だったように思う。

写真は大会本部が置かれているラマダ・ホテル。

シビウだけでなくランカ泊のことも考えると、エントリー時にセットで申し込むのが正解だろう。

観戦・撮影について

ちょっと見づらくて申し訳ないのだが、上のMAPは今回大会側から観戦者に発表された観戦ポイントをマーキングした地図だ。シビウの北東にあるポイントがDAY4のフィニッシュ地点で、左下の山奥にポツンとあるのが、DAY2の宿泊地ランカ。4日間かけてこの広範囲を走り回る。

どのくらいの広さなのかいまいち感覚が伝わらないと思うので、シビウからランカまでは峠を含んで約160kmとなっている。

山の中は適当に赤線で繋いだだけだが、DAY1はこんな感じに反時計回りに走るイメージになる。上の地図で一番左にあるポイントが山本と佐々木がリタイヤした「ベビーシッター」だ。

各クラスは1日約100kmを走るのだが、観戦者が車でアクセスできる観戦ポイントはそう多くない。1日につき全クラス合計で10〜15ポイントほど。そしてその中のほとんどはゴールドクラスやシルバークラスのセクション。ブロンズ以下は1日に2〜3ポイントしかない。

観戦ポイントに着くと、ある程度の駐車スペースが確保されており、写真のような看板で観戦ポイントへ導いてくれる。

今年からゴールドクラスに適用されたライブマニアックスは1つのセクションを3周する設定になっていて、もしこれが例年採用されるようなら、ここは観戦場所として確実に抑えたい。しかし、その場所が発表されるのは前夜で、ライダーとメディアだけにメールで知らされる。もし旅行がてらに観戦に行ってもその場所を特定するのはなかなか難しそうだ。

毎日のゴール地点は、とても混雑して、ゆっくりいくとこんな感じに身動きが取れなくなるので、余裕を持って行くことをオススメする。特に最終日。

また、メディアに限らず誰でもコース内に立ち入って撮影することができていたが、これは単に監視の目が行き届かないだけだろう。ライブマニアックスエリアだけはスタッフがしっかり監視しており、メディア以外の立ち入りは制限されていた。プロローグはコース脇全域にメディア用の撮影エリアが設けられており、観客よりも優先して撮影することができたが、ゴールドクラスの時だけ、そのエリアが4箇所だけに制限された。

なお、メディア申請は大会の公式ホームページからフォーマットに入力して申請すればOK。プロローグ前日、大会受付になっているシビウのラマダホテルでメディアタグを受け取れば完了だ。

お金について

ルーマニアクスにエントリーするのにかかるお金は約100〜120万円。ただしこれはレースで使用するマシンをレンタルし、レースサポートサービスを受ける場合の話だ。

もし他の手段でマシンを用意することができ、サポート体制を確保することができれば、もっと安く抑えることはできるだろうが、今の日本にそれができるライダーが果たして何人いるだろうか。

ルーマニアは EUなので首都ブカレストや大きいホテルなどでは€(ユーロ)が使われるが、実際、€は全くと言っていいほど出番がなかった。何故なら、€が使えるところはブカレストの空港くらいで、そこではほぼ100%カードが使えたからだ。そしてレースが開催されるシビウや、その周辺の村々では現地通貨であるLeu(レウ)が使われていた。複数形ではLei(レイ)。RON(ロン)と表記されていることもあるが、全て同じものだ。

現地の物価はそれほど日本と変わらない。1Leuは約27円(2022年7月現在)。ジュース一本が4Leiくらいでレストランで夕食を食べると30〜50Leiくらいだった。

ガソリンは結構高くて、例を挙げると13L入れて105RON(3000円ほど)だったので、1Lだと230円くらいだろうか。

言語について

ルーマニアにはルーマニア語がある。しかしルーマニアクス開催期間は世界中の様々な国からライダーが集まるため、大会中の基本的な会話には英語が使われる。ライダー同士のコミュニケーションやスタッフとの会話は英語で問題ない。

ただしシビウのような大きめの街はお店での買い物に英語が使えるが、田舎に行くとそれすらも通じない時があるので注意。ある程度英語が話せる人でも翻訳アプリをダウンロードしておくことをオススメする。が、山の中に入ると電波はほとんど入らないので、そこから先はボディランゲージだ。

今回参加したライダー、特に佐々木、奥、横田、岡庭は英語がかなり話せるため問題にならなかったが、詳細なルールの説明やレンタカー、PCR検査の手続きなど専門用語を交えた会話などは彼らがいないと厳しかったことが想像に難くない。しかし取材班は中学生レベルの英語力で、レース中はほとんど1人で行動していたが、Google翻訳アプリの力を借りてなんとか乗り切ることができた。取材後半には買い物やホテルのチェックアウトなど日常会話程度であればアプリなしでも問題なくこなせるようになっていた。

食事について

選手とそのアシスタントはプロローグ前日からDAY4までの6日間、ラマダ・ホテルのディナーがついてくるが、毎日同じメニューのバイキングで、ドリンクも水のみなので、ちょっと味気ない。日本チームは今回、初日でこのラマダ・ホテルのディナーに飽きてしまい、翌日からは外食を選んだ。

食事は普通に美味だった。街中ではピザ、ハンバーガー、パスタ、リゾット、ソーセージ、ハム、チキン、サンドウィッチなどが多く、不味いものはほとんどなかった。

ただ、米系は日本人的にはハズレもあるので注意。一回だけピラフを食べたら、だいぶ厳しかった。

DAY1〜DAY4までゴール地点で振る舞われるパスタ。過去にはこれを食べてお腹を壊したというトップライダーの逸話もあったが、今年の日本チームは全員問題なく食していた。なお、味とクオリティは毎日変化する。

お菓子、というか携行食の類はチョコレート菓子がメイン。

ドリンクはコカ・コーラ、ペプシ・コーラ、ファンタ(オレンジ、グレープ)、レモネードなど炭酸系が多い。他にはオレンジジュースや水。なお、自動販売機の類は基本的に存在しない。あっても街の店先に設置されたコーヒーの紙コップ式のもので、ペットボトルや缶は販売していない。

もちろんだが、日本のようにコンビニがそこらじゅうにある、ということもない。湿度が低いせいか日本よりも喉が渇くように感じたので、食料、飲料は常に余裕を持っておくことをオススメしたい。

気候について

7月末のシビウは日本人にとっても普通に暑い。晴天時の昼間の体感気温は30℃〜35℃くらいだろう。ただし、日陰に入るとだいぶ涼しく感じる。湿度が低いためか、蒸し蒸しした感じはなく、わかりやすい言えば真夏の北海道のイメージだ。

雨はあまり多くなさそうで、7日間滞在したがほとんどは朝か夜にちょっと降ってもすぐに止むというくらい。ただし、空は晴れていても急に土砂降りになる時がある。

DAY2の宿泊地であるランカは標高が一気に上がるため寒いが、半袖半ズボンでもギリギリいけるレベル。ただそこで雨に降られたら厳しそう。ライダーは早朝にランカを出発するスケジュールがあるため、雨具の用意は必須。

交通について

ルーマニアは右側通行。レンタカーは左ハンドルで、ほとんどがマニュアル車。そして一番戸惑うのは、信号がほとんどないことだ。交差点は基本的にこのようにサークル状のいわゆる''ランドアバウト''になっていて、反時計回り。左から来る車が優先で、右や真っ直ぐにいきたい場合は右車線、真っ直ぐや左に行きたい場合は左車線を使用する、という塩梅だ。優先順位が感覚として身につくまでは、かなり怖い。

一番困るのは交通量の多いT字路で左折したい場合。両方の車線が途切れるまでひたすら待たされる。

基本的に駐車場という概念はなく、道の両側が駐車スペースだ。なのでせっかく綺麗な街並みも台無し。道の両側に車が停まっていて、間をすり抜ける場合は結構注意が必要になる。

また、ルーマニアでは海沿いの一部を除いで高速道路は基本無料となっているため、ルーマニアクス観戦に使う道路は全て無料で走ることができた。ガソリンは’’レギュラー’’や’’ハイオク’’といった日本の区別と異なり、’’95’’や’’100’’などオクタン価で表示されている。使う車に合ったものを選んで給油しよう。

なお、市街地にはこのような電動キックボードがそこらじゅうに置かれており、アプリをインストールすることで乗ることができる。支払いはアプリからのクレジット払いで、距離別、時間別で計算される。返却は必要なく、街中の邪魔にならない場所に乗り捨てが可能だ。

ヘルメット着用は推奨されているが、被っている人は一人も見なかった。免許は必要なく、子供でも乗ることができる。交通区分は自転車と一緒で、大きい道路には交通帯が整備されていた。

コロナについて

ルーマニア入国には2022年7月時点でPCR検査の陰性証明書は必要なく、ワクチン接種の証明書も不要。現地では屋外ではもちろん、屋内や飲食店でも誰もがマスクをしないで会話と食事を楽しんでいる。日本へ帰国するためにはPCR検査の陰性証明書が必要だったが、検査を実施している病院はかなり減ってきており、シビウでは一つくらいしかなかった。