突如として、2021年の全日本モトクロス最終戦で発表された、山本鯨の引退。これが理由だ、と言い切ることはできない。言えないこともある。ただ、ここに綴られたのは正直なチャンピオン山本鯨の心情。天才の第二の人生は、いかに。

2019年、タイトルを奪還。

GPで身の危険を感じた。それが引退の決意に繋がっている

引退の理由は様々だ。山本も、我々に話せない気持ちがあることを、重々承知でありながらも、やはりその理由を率直に聞いてみたかった。

「引退を決めたのは2021年の4月くらい。ただ本当に引退するって言っても、モトクロスしかしてきてないライダーが引退するっていうのは簡単ではない。本当に引退できるのか、生きていけるのかなとずっと考えながら戦ってきました。

そもそもGPに入るときにレースやモトクロスに対して身の危険を感じた。それが引退を決断した1番の理由ですね。GPにいったのが21歳で、本来でいえば時期が遅かったんです。5年間で自分にとっての常識を変えるのは難しい。こんなとこ攻めていっていいのか? でも攻めないと勝てない。じゃあどうやってリスクを下げていくのか。そういうことの繰り返しだった。本当に力を出し切り続けていれば、長く続けられる競技ではないなぁと思っていました。チャンピオンをとっていなければもっとやりたいと思っているでしょうし、その辺のの兼ね合いや周りの環境とか色んなことを考えましたね。

本当に恵まれた環境でレースをしてきました。レースをやめて縁を切って1人になるっていう環境だったら辞められないと思うんですよね。だけど、協力してレースをやってくれている人たちって、やめたからといって「はいお疲れ様でした」って縁が切れるようなものじゃないと、信じれるような環境だったので辞めるに至りました。

最終戦、表彰台の上で引退発表の段取りだったが、ゴール直後のライブインタビューで吐露。

2021年は、環境や、自分の今までのやってきたこと、成し遂げてきた事に納得して終われるタイミングだった。色んな厳しいことがあった年なんですけど、僕の周りの人達は最後終わりが見えて出し切ろうとなる人たちなので、今年終わりじゃなかったら、自分のパフォーマンスを呼び込めなかったんじゃないかなと思います。最後のレースに凝縮されていましたけど、1年間を通してなかなか厳しい状況だったので、みんなが力を出し切って呼び込んだ結果です」と。