「不安がないとは言い切れませんが、
彼の人生を応援しているし、期待もしています」
今の日本に、プロのエンデューロライダーはいない。モトクロスやトライアルでも、レースだけで食べていくのは難しい世の中だ。では、ヨシカズのような若いライダーが、人生にとって一番大切な10代後半〜20代前半という時期をエンデューロだけに費やすことを、父・一洋さんはどう思っているのだろうか。
「最初は、中学で部活に入ったら(バイクは)辞めるかなって思ってたんですけど、続きましたね〜(笑)。多分JNCCに出会わず、モトクロスだけだったら、中学で辞めてたんじゃないかな。
僕の仕事が牛の削蹄師なんですけど、ヨシカズには中学に入った頃からずっと手伝いをさせていて、高校を卒業する前に削蹄師の免許を取らせました。これははっきり言ってしまえば「逃げ道」です。エンデューロでダメなら、いつでも削蹄師になれる。それで食っていける。もうスキルはあるから、30歳になってからでも大丈夫です。
だから、ヨシカズが高専を中退した時も、普通の就職をしないでエンデューロに集中することを決めた時も反対しませんでした。親として不安がないとは言い切れませんが、彼の人生を応援しているし、期待もしています。
最悪、お金がなくてひとりぼっちになろうが、海外でのたれ死のうが、人様に迷惑さえかけなければ、構わないと思っています。先日ビバーク大阪さんにご挨拶に寄った時に杉村さんが「(ヨシカズは)使えるよ」と言ってくれて、安心できました。
バイクでダメだったらいつでもウチに戻ってくればいい。削蹄師として立派にやっていける。だから自分が納得するまで、エンデューロをやってみればいいと思っています」
父の仕事の手伝いで牛を扱うヨシカズ。そのパワーは、大人顔負けだという。バイクの基礎体力作りにも役立っていることだろう。
保坂修一は、とても貴重な10〜20代という時間を、エンデューロに賭けると決めたのだ。逃げ道があることは決して悪いことではないと思う。自分の人生は、誰も肩代わりをしてくれない。だからこそ、思い切りやりきってほしい。僕はこの5年間、ヨシカズを追い続けてきた一人の記者としてではなく、一人の友人として、彼のエンデューロ人生を心の底から応援している。
次のページからはヨシカズが辿ってきた15年を振り返ってみたい。貴重なキッズ時代のお写真は一洋さんからご提供いただいた。