ポイント9「天才を育てたライディングコーチ、ヤニング」
2020年のスーパークロスデビューに備え、チームの意向からレジェンドであるジェフ・ワードをパーソナルコーチに迎えた下田。その後、シーズン中にJ・ウィップルと契約するものの、やはりうまく合わなかったか、再度コーチを変更。アマチュア時代からコーチをしていたヤニング・カーベラを呼び戻すこととなった。
ヤニングは、天才マービン・ムスキャンを育てたフランス人。自らも、若い頃はライダーだった経験があり、今はプロコーチとして名を馳せている。Off1.jpでは、ヤニングとのトレーニングを若い頃から取材しているのだが、ヤニングは基本に忠実で常に細かい部分まで目を配らせ、テクニカルなセクションなどで崩れがちな基本を修正していく。たとえば、ウィップルの場合は450ccで練習させたりと若干トリッキーな側面があったようだが、ヤニングは正統な手法をつきつめる王道タイプだ。また、シーズン中に無理をさせず、しっかり全力を出せるコンディション作りにも余念が無い(シーズン中にも無理なトレーニングをさせるコーチは、特に嫌われる傾向にある)。
「ヤニングにコーチを戻してから言われたんですが、バイクを寝かしすぎだと。ペグが地面に擦れてスピードが落ちてると指摘されたんです。乗っていて、ペグが引っかかって減速するような感覚は感じていたんですが、今はワダチの状態をみてバンク角とコーナリングスピードを調整できるようにしています。勢いがありすぎてマイナスになってたわけです。まだ未完成ですが、だいぶ巧くなりました」と開幕戦後に下田は言う。
ステップを擦ったからといって、ロスするタイムなんてあるのだろうか、と思う人もいるだろう。でも、下田が走っているスーパークロスは、そのコンマ0.1秒をつめていく世界である。ワダチにひっかかったセグメントでタイムが落ちていることが、体感できるというのだ。
「ウィールタップとかもそうですね。難しいし、自信がないと挑戦できない。レース本番でやろうとすると、条件がよくないとできないですし、実戦で使えるかどうかは別の話。ただ、タイムクオリファイなんかでは、そのくらいタイムを削る場所を入念に探していくんですよ。ヒューストン1はかなり荒れてたので、ラインもだいぶ変える必要がありました」と下田。タイムを出す作業というのは、そういうものなのだと。タイムクオリファイが終わったら、空き時間で走行のビデオを分析し、どこで削っていけるか研究し、実戦に移す。「ヒューストンでは、たとえばフープスの前のコーナーでライン取りが問題でした。コンマ2秒違いましたからね」