ポイント2「全米の期待」
2021年、下田は名門“プロサーキット・カワサキ”から覇を競う
2019年、ホンダのトップチームであるガイコホンダからプロデビューを果たした下田。モトクロスは、マシンの準備や、レースの戦略など、体制が大きく左右するスポーツ。いかにスキルがあろうとも、プライベーターから成り上がるのは難しい世界なのだが、下田の場合はアマチュアからプロへの移行でいわばプラチナチケット、つまり有力トップチームからの参戦体制を得ていた数少ない一人だ。
だが、とても残念なことに、ガイコホンダは2020年をもってスポンサーを失ったことにより、解散の憂き目に遭う。6名もの有力な若手を担っていたガイコホンダのライダーを、各メーカーが目の色を変えてスカウトに走った。その中で下田丈を捕まえたのが、名門プロサーキット・カワサキだ。
まずオファーがあったのは、フェニックスレーシング。アメリカホンダの意向もあったらしく、マシンはガイコホンダ、つまりファクトリーコネクションのマシンが供給される予定だった。2022年に、もしかしたら新チームかホンダファクトリーのTeam HRCへ下田を引っ張りたい、そんな意識があったらしい。
そこに、下田本人へプロサーキットの名監督ミッチー・ペイトンから電話があったという。もちろん、これは下田へのオファーだった。ただ、すでに4名のライダーを抱えるプロサーキットでは、バジェットの確保に苦戦し、この時点ではスーパークロスだけのオファーだったという。下田の意向は、フルシーズン。フェニックスが濃厚だった。
「その時は、2021年はとにかく頑張って走って、2022年の契約を目指そうと思っていました。ところが、フェニックスレーシングの本社があるイーストコースト行きのエアチケットも取って、マネージャーと飛行機に乗ろうとしていたところでした。ミッチーから再び電話があって、フルシーズンで走ってもらえることになった、と。プロサーキットからオファーがあって断るライダーなんていないでしょう?」と下田は嬉しそうに話す。
名監督であるミッチー・ペイトンは洞察力に優れると、下田は評価する。「開幕戦は、緊張してしまっていたんですが、そういうのも見抜いていました。遅かったな、とは言わないんです。理由を一緒に考えてくれる。どう直したらよくなるのか。インフォメーションもしっかりしていて、経験の豊かさを感じます。いろんなアイデアを持ってます。ガイコの場合は、そういうタイプの監督ではなかったですから」