タイヤがエルズベルグを変えてきた、という誤解

エルズベルグに通って5回目の僕は、通い始めた当初2012年にゴールデンタイヤがいかにこのエルズベルグを変えているかを目の当たりにした。同社の攻勢凄まじく、エルズベルグの山にはたくさんのゴールデンタイヤののぼりが並び、トップライダーは全員おしなべてゴールデンタイヤのガミータイヤを履いていた。田中太一にも、ゴールデンタイヤのサポートがつき、「中身はみせられないぞ」と言われながら、スペシャルムースを仕込んだのをよく覚えている。

石戸谷、木村吏の二人は、空いた時間パドックをまわってマシン作りの勉強を欠かさない。

日本のハードエンデューロシーンを、ix-09wゲコタが変えたのは間違いの無いところだろう。究極的にガレ場で進むゲコタが、「じゃぁ、こんなガレはどうか? こんな岩場はどうか?」とイベンター達の目も変えてきた。日本のこの10年ほどのタイヤによる進化を見てきたから、それをエルズベルグに重ねてきたのだけど、石戸谷の参戦によってだんだんそうではないことがわかってきた。

随所に現れる、土の難しいセクション。

まず、キーになるカールズダイナーはそこまでグリップが悪くないこと。鉄鉱石でほとんどの岩が、FIMエンデューロタイヤでも十分にグリップしてくれるものだ。そして、昨今では実はウッズが非常に難しいことから、ガミータイヤの優位性がなくなってきた。この事情は、グリーンヘルでしのぎを削るマリオ達にも、渋滞のウッズをいち早く抜け出したい石戸谷たちにも、どちらにも合致するものだ。石戸谷は言う。「ミシュランや、メッツラーのエルズベルグでのタイヤは、サイドのブロックがしっかりしてると思います」と。

今回、石戸谷はマシンを借りているミケーレ・ボシと同じ仕様、つまりメッツラーのシックスデイズエクストリーム・ソフトに、柔らかめのムースでレースに出たが、とても好印象だったとのこと。

上下の弾性は弱いものの、ブロックのコンパウンドはかなり固い。タイヤのエアボリュームで路面を包み込み、土をブロックでしっかり掻くような、そんなイメージを受ける。

つまり…タイヤでエルズベルグに優位にたてるような状況は、今はないと言える。僕らの想像するトップライダー達のスキルアップを、はるかに超えてハードエンデューロシーンはシーン自体がスキルアップしていた。2012年のエルズベルグと、いまのエルズベルグは違う。それでも、15人もの完走者を出してしまうくらい、ハードエンデューロラバーたちは、ハードエンデューロに心底夢中なのだ。