エルズベルグロデオというレースをご存じだろうか。オーストリアでおこなわれるハードエンデューロで、歴史的な鉱山を駆け巡る。迫力満点のロケーションを、世界的ランカーたちがしのぎを削る、世界的なオフロードバイクの祭典だ。このハードエンデューロに傾倒する男達は、みな鉱山をみるたびに「あそこをバイクで走れないだろうか…」と妄想している。そんな妄想を現実にしたのが、この「日高ロックス」である。
世界レベルのクラブチーム「日高モータサイクルクラブ」が動いた
このレースを現実のものにしたのは、日高2デイズエンデューロを主宰する日高モーターサイクルクラブ。34回の歴史をもち、グローバルな動きもみせる、日本を代表するクラブだ。オンタイムエンデューロは、大きなプロモーターによって動かされるのではなく、多くの場合地方に点在する愛好家の集まりが主になって進められる。人手を必要とするスタイルの「エンデューロ」は、有志の力なしにはありえないからだ。
日高ロックスは、そんなクラブが開催にこぎつけたものだ。
日高ロックス
日時:10月20〜21日
会場:北海道日高町
全開林道、こんなのあり得ない!!
エルズベルグロデオは、元々ハードエンデューロをメインコンセプトにしていなかった。鉱山特有の、高速道路ほどはあろうかという巨大な鉱山の道(巨大なダンプが行き来するので、本当に広い!)を、全開でぶっ飛ばせたらどんなに楽しいだろう! という遊び心から生まれたものだった。だから、エルズベルグロデオの予選は、150km/hを超えるスーパーハイスピードレースだ。今でも、これを楽しみに1500台以上が街に集まる。ほとんどのライダーにとって、実はメインはこの予選「アイアンロード」だ。
で、日高ロックスも鉱山で開催されたから、当然ダンプの通る広いダートが存在する。ダートバイクファンなら誰もが思う「もし対向車が絶対にこないダートをひたすら飛ばせたら」という願いが、かなうわけだ。誰にでも思うようにテールスライドが楽しめるタイムアタックは、爽快としかいいようが無い。
このアイアンロードをトップで勝ち進んだのは和泉拓。モタード、ダートトラックにも造詣が深い和泉ならではの進入からのスライドで見事な勝利を収めた。「タイヤも、IRCのBR99で予選用に用意した。セッティングもびたっとハマったよ」とのこと。高速が苦手なベータのクロストレイナーでも最高速121km/hをマークしたという。
予選はこれで終わらない。第二幕として用意されたのは、ナイトステージのスーパーテストだ。タイヤ越え、丸太越えなどを組み込んだ難易度の高いルートを制したのは佐伯竜。
これら2つの予選結果をあわせて、決勝のスタート順を決める。1列は12名で、1分おきに1列ごとスタート。これも、エルズベルグ風だ。
スーパーハード。完走者は5名に満たないだろう
みてのとおり、日高ロックスはエルズベルグを下敷きにしているだけあって、スーパーハード。ここは、CP(チェックポイント1)手前のロックセクションだ。ここには、佐伯と和泉がバトルをしながら最初に現れた。
次に現れる難所、ウォーターパイプ。この日高ロックス随一の難易度と評されたこのセクションは、スリッピーな岩が立ちはだかり、高低差のあるガレ場が続く。リードしていた佐伯は、ここでミスをしてしまう。「ちょっと転けただけじゃなく、あずってしまった。段々、和泉さんの背中が遠くなってしまいました」と佐伯。和泉だけでなく、同じくシェルコの秋山真央が佐伯をここでパス。佐伯にとって辛い戦いが続く。
秋山を再び抜き返した佐伯だったが、ラジエターホースに不具合があり佐伯のシェルコからは白煙が。修理に手間取ったりしながらトライした、最難の難所がCP4手前のヒルクライム。果敢にトライする佐伯は、この時点で2番手。
最後、苦しい河原はまるでカールズダイナーのよう。和泉はこの時点で余裕綽々。「河原まではエンジンの排気バルブをマイルドにしていた。それを抜けたら、長めのヒルクライムがあることを知っていたので、バルブを開けたんだよ、工具を出して」とかなりの時間的・心理的な余裕を見せる。
本来斜めに入ることで角度をゆるくするように設計されたヒルクライムだが、ここを和泉は直登。「斜めに入って失敗すると、ダメージが大きい。だから、まずは直登してみて上れなかったら斜めのラインに切り替えるつもりだった」と。
1位、和泉。2位、佐伯。3位には、北海道のレジェンド飯田が入賞した。和泉のゴールはわずか30分台。主催の意図より、だいぶ早めのフィニッシュであった。
23歳のアヤトが設計したコース VS 北海道の手練
今回のコースディレクターには、中部出身の山本礼人(アヤト)が抜擢された。ハードエンデューロ界で若手ナンバーワンの実力をもち、今年の9月には名レース「Sea To Sky」に参戦。ハードエンデューロシリーズのG-NETジャパンタイトルを狙っている。
山本と主催側が想定していたのは、おおよそ5名程度のフィニッシャーであり、日本では珍しいハイエンドのハードエンデューロだった。たしかに、コースのタフさや、ハードさをみても、その意気込みがうかがえるものだった。このレベルなら、もしかすると3人の完走も難しいかもしれない。最後のヒルクライムに現れるのは数名だろう、と予想された。
ところが。
まったくその予想は外れ、3人が完走したあともどんどん手練達の侵略が続いた。5名ものエントリーがあったウィメンズクラスでは、全日本エンデューロのタイトルを持っている福田雅美がなんと最後までフィニッシュしてしまう。
北海道は歴史的にエンデューロの聖地だった。20年ほど前には、木古内、中頓別、美幌、日高、たくさんの難レースが存在していて、そのおおくがエントリーを抽選で絞るほどの人気を博していた。これらはハードエンデューロという言葉が生まれる前の時代。ただただ「北海道のレースは難しい」と言われていた。3位に入った飯田も、まさに木古内などをXR250Rで駆け抜けた名手だ。そして、林道もワイドな北海道ではスピードにも慣れている。まさに手練が山ほどいる土地なのだ。今回のレース、出場者は60名を超え、フィニッシャーは25名を数えた。
思えば、今回のレースは23歳若手のアヤトが北海道の手練達に、コースで勝負を挑んだ戦いだったと表現できるかもしれない。山本は表彰台で言った。「来年出来るとしたら、倍の距離にしてもっと難しくします」と。日高のポテンシャルは、まだまだ奥深い。難しく、おもしろくできるだけの余裕がたっぷりある。
この調子だと、この日高ロックスは口コミの影響力で、飛躍的に人気を延ばすに違いない。きっと、来年の日高ロックス参戦は、プレミアムチケットになるはず。ちなみに、観戦もめっちゃおもしろいので、飛行機で見に来る価値があると、断言しておこう。