2017年の年末に、YZ65のティザーが流れたことで、オフロードバイク業界が震えた。国内では、2ストロークのマシンを開発することなど、考えられなかったからだ。
YZ65は、PW50からはじまるヤマハのキッズバイクラインナップを補完するものだ。汎用のエンジンを使用する50ccクラスから、たった15cc増えただけだが、65ccはモトクロスレースを勝つために設計されているため性格はがらっと異なる。擬音であらわすなら、50ccはテケテケ。65ccから2ストの甲高いパイーンという音になる。はっきりいって、大人でも手こずるパワーが秘められている。
65ccの試乗記は後日に譲るとして、速報第一弾で配信するのはYZ85LWの試乗記。YZ65の開発にあわせてほぼフルモデルチェンジといっていいレベルでアップグレードがかけられた。
YAMAHA
YZ85LW 2019年モデル
メーカー希望小売価格
496,800円~[消費税8%含む](本体価格 460,000円~)
予約受付期間:2018年6月7日~2018年12月9日
YZ85 | YZ85LW | 登録型式/原動機打刻型式 | B4B3/B120E | B0G3/B118E | |||
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全長/全幅/全高 | 1,820mm/760mm/1,145mm | 1,895mm/760mm/1,175mm | |||||
シート高 | 840mm | 870mm | |||||
軸間距離 | 1,255mm | 1,285mm | |||||
最低地上高 | 330mm | 360mm | |||||
車両重量 | 73kg | 75kg | |||||
原動機種類 | 水冷, 2ストローク | 水冷, 2ストローク | |||||
気筒数配列 | 単気筒 | 単気筒 | |||||
総排気量 | 84cm3 | 84cm3 | |||||
内径×行程 | 47.5mm×47.8mm | 47.5mm×47.8mm | |||||
圧縮比 | 8.2-9.6:1 | 8.2-9.6:1 | |||||
始動方式 | キック式 | キック式 | |||||
潤滑方式 | 混合給油 | 混合給油 | |||||
エンジンオイル容量 | - | - | |||||
燃料タンク容量 | 5.0L(無鉛プレミアムガソリン指定) | 5.0L(無鉛プレミアムガソリン指定) | |||||
吸気・燃料装置/燃料供給方式 | キャブレター | キャブレター | |||||
点火方式 | CDI(コンデンサ放電式) | CDI(コンデンサ放電式) | |||||
バッテリー容量/型式 | - | - | |||||
1次減速比/2次減速比 | 3.611/3.285 | 3.611/3.642 | |||||
クラッチ形式 | 湿式, 多板 | 湿式, 多板 | |||||
変速装置/変速方式 | 常時噛合式6速/リターン式 | 常時噛合式6速/リターン式 | |||||
変速比 | 1速:2.454 2速:1.882 3速:1.529 4速:1.294 5速:1.130 6速:1.000 | 1速:2.454 2速:1.882 3速:1.529 4速:1.294 5速:1.130 6速:1.000 | |||||
フレーム形式 | セミダブルクレードル | セミダブルクレードル | |||||
キャスター/トレール | 26°20′/88mm | 26°00′/99mm | |||||
タイヤサイズ(前/後) | 70/100-17 40M(チューブタイプ)/90/100-14 49M(チューブタイプ) | 70/100-19 42M(チューブタイプ)/90/100-16 52M(チューブタイプ) | |||||
制動装置形式(前/後) | 油圧式シングルディスクブレーキ/油圧式シングルディスクブレーキ | 油圧式シングルディスクブレーキ/油圧式シングルディスクブレーキ | |||||
懸架方式(前/後) | テレスコピック/スイングアーム(リンク式) | テレスコピック/スイングアーム(リンク式) | |||||
乗車定員 | 1名 | 1名 |
「旧型と乗り比べるとはっきりわかる、低中速の豊さ」
試乗したのは、身長185cmほどもある和泉拓。マルチライダーとして、現在はハードエンデューロとアドベンチャーバイクで活躍中。体重、身長共にYZ85LWの想定を超えているものの、過去にYZ85を女子向けに乗りやすくしようとモディファイした経験もある。
「バイクの素性を知るために、まずはウイリーをすることにしているんですが、新型YZ85LWはかなり簡単にフロントが上がってきますね。とても、やりやすい。ピーキーさはだいぶ薄れていると思います」と和泉。
「85って、クラッチをつなぐタイミングが少しでもずれると失速してしまいます。だから、上りやコーナー立ち上がりでは、回転数が合っていないといけないんですよね。回転数高すぎるからスロットル戻してグリップを回復させる、というような4ストのテクニックは使えないはずですが、この新型だとできてしまうのがビックリしました。パワーバンドの広さによるものでしょう」とのこと。
ただし旧型のポテンシャルは、決して低くなく現在全日本モトクロスレディスクラスでもトップを争うもの。「十分にパワーがありますし、実は乗り比べると旧型のほうが速く感じる。88年式のNSRみたいな感じかな、パワーの立ち上がり方が急だから、パワーがたくさんあるように錯覚しているのだと思います。扱える人が乗って、2ストらしさを楽しめるのも、旧型かもしれませんね」と和泉。これだけ聞くと、旧型にも新型に勝るポテンシャルがあるように聞こえるが、その実はそうではない。
ヤマハ開発陣が断言する「ピークパワーは旧型から変更無し」
「YZ85は、これまでにもユーザーから十分なピークパワーを持っていると評価されてきましたし、僕ら開発陣もピークパワーは十分と判断しています。このYZ85で重視したのは、低中速トルク。まさにここをYPVS(ヤマハの排気バルブ)で補いました。ピークパワーはまったく変わりません。YPVSをつけることでピークパワーに影響が出るのですが、このあたりをケース形状やチャンバーなどで補足することで旧モデルと変わらない最高出力に仕上げました」と開発の上村氏。
テストなどに関わった鈴木健二は「1分30秒のコースで、旧型のほうが2秒遅い。これは、いろんなレベルのライダーに乗せても結果は同じで、どんなライダーにも勝てるポテンシャルがあると言えますね。ストレートの加速でも、誰が乗っても新型のほうが速いです。ちなみに、僕も旧型と新型を比べて乗ると旧型のほうが速く感じるんですが、タイムを計ると新型のほうが速い。
コーナーの入り口からミドル付近までのスピードの乗りが違うので、コーナー全体の速度がまるで違うんです」と言う。
また、この日の会場スポーツランドSUGOはマディコンディションだったが「SUGOを3速で回ってこれるのは驚異的だと思います」とのこと。なお、旧型では失速してしまうと和泉の体格では再スタートしづらいような場面があって、1周の差はとうてい数秒では埋まらないモノだった。
隠れたYPVSの真価
ただ、単に低中速を補いました…と解釈しては、まだYZ85の真価は見えていない。
YZ85がレースで使用される場合、たとえばUSAでは思い切りモディファイが加えられることがある。しかし、これまでの場合だとガスケットや、ポート位置変更、燃焼室の形状変更などでしかスペックを変更することができなかったものの、YPVSが加わったことでYPVSをセッティングすることもできるようになり、重層的にエンジン特性をチューニングすることができるようになったのだ。
「YZ125XのYPVSバルブのスプリングを流用すると、このYZ85はかなりダルなエンジンになって、初心者にもとっつきやすくなりますよ」とは鈴木談。また、マシンのパワーをさらに絞り出せるだけのエンジンの素性ももちろん織り込み済みだとのことだ。
衝撃入力に対してグレードアップした足回り
マディコンディションでは、和泉の体格ではサスペンションの評価をすることが叶わなかったが、今回のYZ85アップデートでは足回りもリファインも注目したいところ。
「減衰がよく効くようになっていて、フロントはしなやかに動くことがわかってもらえると思います。シムだけでなく、中身の構造が変更されています。また、剛性に関してはアウターチューブのテーパー形状を変えていますし、ツーピースからワンピ—スに変更していますね。YZ65も同系統でストロークが違うものになっているんですが、僕がYZ65で全開で飛んでも大丈夫なくらいです(笑)」と鈴木。
全日本モトクロスでは…
本田七海
安原さや
試乗会では、全日本モトクロスランカーである安原さや、本田七海がデモラン。本田は「試乗会の1日前に初めて乗りました。すごく乗りやすいなと思います。どの場面で速い、というような具体的なところは見えてきていませんが、新型だとミスしなくなるので結果的に成績につながると思いますね」とコメント。
ビギナーにも拡がるYZ85の可能性
2スト85のピーキーさが薄れたことで、モトクロスで上位を目指すトップファイターだけでなく、オフロード入門ライダーへもオススメできるものになりそうな気配だ。
鈴木健二は、このYZ85LWでJNCCジョニエルに参戦。トップクラスのAAで5位の成績を収めた。
「難所のガレクライムも、旧型では難しいのですが、新型なら問題ないどころかガレクライムの途中から発進できるほどです。このYZ85のエンジンはすごく素性がよくて、さらにマイルドに仕上げることも難しくありません。TT-R125のような感じのマシンを作れたら、もっとオフロードの裾野が広がってくれると思うんです」と鈴木は言う。
ヤマハは、この2019年モデルで65の拡充と、85のモデルチェンジをおこなうことで、50ccからオフロードを楽しむためのフルラインナップを完成させた。2ストローク125、250も含めて考えると国内唯一の充実となる。この施策が底辺を拡大することが目的であることは、言うまでもないことだ。